輝かしい勝利も高揚感もない、ただの作業が残っているだけだ・・・・・・
『アン、そいつを連れて来なさい。一応確かめることもあるから、いいわね、勢い余って消滅させては駄目よ』
『わかりました、ご主人様』
魔人アンドロマリウスが、主人の命令に応えながらキュルソンの身体を大蛇で雁字搦めに緊縛している様子に頬を紅めながら少女が呟く。
「ああ、お姉さまがあんな姿に・・・・・・ わ、私も一緒に行くわ。いえ、絶対についていく!」
『そう。まあ、いいでしょう。セーレ、教会に運んで頂戴』
いつものように、下らない愚痴を未練たらしく喋り続ける魔人セーレに乗って着いた教会ではホムンクルスが待っていた。
「うへぇ、もう酷い姿になっちゃってキュルソンお姉様。とりあえず、十字架に左腕と右足を釘で固定してと・・・・・・
はい、拷問の準備完了ですよ」
神父服を着ていると真っ当そうに見えるザキエルが寝かせていた十字架を立てると、体重が一気に掛かる固定された傷口が痛むのか顔をしかめて魔人キュルソンが呻いた。
『うっ』
『さあて。岩石魔人ちゃんは、どんな攻めが好きなのかしらね』
『そ、その名前でアタイを呼ぶな!』
『おー、怖いこわい。じゃあ、綺麗な若店主さんに尋ねましょうかな。うーん、ぴちぴちの柔らかい肌ね。キュルソンのごつい岩肌とは大違いね、あはは』
『くっう・・・・・・ わかった、その娘には。シェーラには手を出さないで!』
「お、お姉さま!」
『じゃあ聞くけど一度しか聞かないからよーく考えて答えるんだよ。
例の偽物の七ニ柱の壺《真鍮の壺》は誰に貰ったんだい?』
『そ、それは・・・・・・ ね、(猫)いや違う。く、蜘蛛に貰ったんだよ。これさえあれば、あんたの従えた魔人を序列の高低や自分の強さに関係なく使役出来ると言われたんだ。
あ、アタイは強くなりたかったのさ。誰にも馬鹿にされないような力が欲しかったんだよ!』
最初言い淀んでいたキュルソンだが、途中から堰を切ったように感情を吐露していく。
「ソローンさまぁ、蜘蛛ってなんですかね?天界にはもちろん居ませんし、そんなの聞いたこともないですけど、使役している魔人にそんな奴居ましたかねえ?」 『・・・・・・』
『ま、まさか?!そんなはずは』
「うん?アンドロマリウスの姉御は何かご存じなので」
魔人アンドロマリウスがさも嫌そうに語り出す。
『魔界序列一位、六十六の軍団を従える魔界の王バアル!他の魔人はいざしらず、こいつは序列どおり、いやそれ以上の強さを秘めている。
私も見たことはないが。たしか、大きな蜘蛛の体に人、蛙等、三つの頭を持つ魔界最恐の魔人だよ!
うぅ、こんな奴と事を構えるのはよした方が良いで、ご主人様?』
拳を握りしめる主人の青ざめた顔と只ならぬ気配に諫める言葉を途中でアンドロマリウスは引っ込めた。
『アン、良くお聞き。魔導に逃げの一手はない。相手が愛しかろうが憎かろうが、弱かろうが強かろうが・・・・・・
そんなモノは関係ない、魔導を究めんと志す者に退くことは出来ないのよ!』