リーベンスと言う名の少女の憎々し気な叫び声が木霊する。
「ふん、あんたのことは良く知っているよキール。あんたが、私の母さんを殺したんだ!」
「そ、そんなキールが惨いことをする訳が無い。何かの間違いよ、きっと」
リサが祈りにも似た願望を口にする。
「・・・・・・ 」
無言のキールは、珍しく腰に差した得物、鍛冶屋ワフードの会心作を静かに抜いた。
「ふふっ、心当たりがあるようね。黙って私に殺されていればと後悔することになっても知らないよ!」
リーベンスの鞭が、キールの急所を狙う。キールの虹色に輝く剣がすんでのところで鞭を跳ねのける。
たとえ剣で鞭の攻撃が防げてもキールには逆転の打つ手が無かった。ただ闇雲に攻撃を躱し、流すだけで攻勢に転じることが出来なかった。
『ふふん、これは愉快だ。ソローンの頼みの綱の異界人もあの娘の鞭には手も足もでないようだね。苦労して、連れて来た甲斐があったというものさね』
キュルソンが勝ち誇ったように嘯く。
しだいに防戦一方のキールに受け切れなかった鞭による傷が増えていく。それにつれて動きに精彩が欠けてくる。
「ああ、キール。どうしたらいいの、ホムンクルスさん?」
『今この場に限っては、キールの優位性は無い。あの娘もキールも同じ異界人同士だから、普通に殺し合いが出来る。もうこうなったら、あの娘の母親が誰なのかを突き止めるしかこの場を切り抜ける術は無い!
我に考えがある。我を信じて試してみるか?』
「ええ、ホムンクルスさんを信じるわ」
『ならば、手はずはこうだ。できるだけ・・・・・・ 、万が一のときは・・・・・・』
「分かったわ」
リサは、短剣を抜くと素早く相手目掛けて投擲した。
「お願い、影縫い《ジル・ムキッド》!」
鞭の攻撃を紙一重で躱したキールの動きが止まった、いや足を動かせなくなったのだ。キールの影の差す床にはリサの短剣が刺さっていた。
「うっ、何をする?リサ!」
「母さん、分かってくれたのね?キール、トドメだあ!」
リーベンスの鞭がうなりを上げて、キールの首を刈りにいく。キールは藻掻くが、一歩も動けない。迫る鞭が必殺の刃となってキールの首に向かう。
「だめぇ!」
リサが飛燕のごとくキールに駆け寄り跳躍すると首に抱き着いた。リサの飛び着く勢いに負けてリサごとキールも倒れ込む。
そこに非情の鞭が必殺の威力で首を切断、血潮とともに宙を飛ぶ首は果たして誰のものだったか・・・・・・
「リサぁ!」
「母さん、何故なの?」
「リーベンス、君は一体?」
切断されたリサの首を抱きしめて、泣き崩れるリーベンスの身体は朧のようにしだいに色が薄れていった。
「やはり、キール。あなたが母さんを殺すのね。でも、私に止める力が無かったのも事実。私の負けよ、さようなら父さ・・・・・・」
リーベンスは別れの言葉を最後まで告げられずに、闇に消えていった。
『くう、折角のチャンスを人間ごときに邪魔されるとは。えーい、忌々しい。この次は必ず我が軍門に下らせてやる、覚えておきなさい!』
キュルソンが闇に消えると、ホムンクルスに纏わりついていた魔法陣も燃え尽きるようにして消滅した。