最強の使い魔、人造人間《ホムンクルス》について想いを馳せらすこと数時間、いや数日なのか?もはや、時間間隔が怪しくなっている魔導の力に染まり過ぎた弊害か?これまでゴーレムの創造、廃棄を繰り返す訓練を続けた結果、魔導の行使を支えるために結構な量の仮想通貨を消費しているが、まだ感覚的には余裕がある感じだ。
うーん、強い使い魔って?何だ?
地球を例にとって考えると、動物の中では百獣の王ライオンとか言うしなあ。だが虎の方が強いとか俺の名前でもある竜は、竜虎相打つというほど虎を凌ぐとも言われているしなあ。
場合によっては、太古から蔓延りがさごそと動き回るあの黒光りする蟲、Gの方が強いかも知れないなあ。数万匹の黒い虫が、竜に集っている図柄はあまり大衆受けしづらそうだがなあ。
だけど、魔導を扱うには知恵も必要だよな。そうするとライオンや虎よりも猿とか猫の方がいいのか。既に、実績でジョージさんに使えるネコさんも魔導の相当な使い手だし。 何よりも、身近に頼りないただの黒いシャム猫だったはずのネコがこの世界で一皮剥けて魔導の使い手になっているしなあ。この世界限定で、猫最強説まで出て来そうだな俺の中では。
ふーむ、「我が身既に金なり、我が心既に満なり。陰蛾応報!」
どす黒い渦と、黄金色の渦が混ざり合いやがて一つになると、無数の腕を生やした人形となって俺の手の中に納まった。少しびつな形だが、ところどころ金メッキが剥げた千手観音もどきだな。
「ふぅー、失敗か。やり直し」
俺がポイと放り投げた千手観音もどきは、空中でキィーと悔し気な怨念を漂わせながら月の砂となって俺の前に置かれた箱に堕ちていく。箱と言ってもちょっとしたジョークで月の石を材料にして作った賽銭箱を模したものだ。
無数の手で、多くの衆生を救う高尚な志の千手観音など俺には不要だ。
大体、腕が無数にあったら腕同士が絡まって大変なことになりそうで、俺の魔導補助をやってる暇もないだろう。ならば、腕は六本程度で。
「我が身既に金なり、我が心既に飢なり。千宝収奪!」
血よりも紅い渦と、疑惑のグレーな渦が蛇のように絡み合いやがて赤黒い塊に集まり紅蓮の炎に焼き尽くされた後に、赤っぽい人形が残った。
手に取ってみると確かに六本の腕を生やした傷だらけの阿修羅像もどきだった。ご丁寧な仕事で傷口には赤黒い瘡蓋《かさぶた》がこびりついているといった寸法だ。
「うーん、物言わず突っ立てるだけじゃ。あの往生した武蔵坊弁慶みたいに役立たずだなあ。不採用、ぽいっとな」
俺は、阿修羅像もどきを空中にまたも投げ捨てた。砂になって賽銭箱に吸い込まれていく際に『私を弄んだくせに、ひどい』とか聞こえた気がしたが、長時間の極度の集中による疲労が生んだ幻聴だと思って無視するよ、そんなものは。
「うーん、腹が減って来た。今食いたいものは、血の滴るようなステーキでは無くいろいろな野菜と一緒に煮込まれた骨付きチキンカレーだな。追加トッピングで豚のスペアリブも欲しいところだ。それに、徳島県産阿波尾鶏のボンジリの胡椒焼きも熱烈希望だ。ああ、カレーが食いたいよ。カレーが食いたいよ、カレーで無ければだめなんだよ!」
うん?
俺の無意識が、この場を支配した。光が凍り付いた、闇が弾けた、無数の世界が同時に誕生し、同時に滅亡した。光の渦、闇の渦、そして不可視の透明な渦の三つが螺旋を描いて絡まりあい、唐突に一つの物体に合成された。
不思議なことだが、魔導師の本能?理由などなぜだか分からないが俺には分かった。遂に、俺の俺だけの専用使い魔が、人造人間《ホムンクルス》が誕生した瞬間だった。
でも、なぜ、こいつなの?!
俺の目の前には、小指くらいの大きさの白い生物が現れていた。