ガァンガンガン、ガンガン。
寺院の鐘が余韻も無く打ち乱される。これは村人に危険を報せる警報だ。今年も迷惑な行事だと笑ってはいられないマンハントの季節が始まったのだ。
この宙域を支配する中《あたる》帝国の支配階級の子弟が、成人の儀式の箔漬けに奴隷狩りを行うのが最近の流行となっている。
悪趣味なことに、狩りだす獣を追い詰める様子を記録動画にしてネット配信する輩までいる始末だった。
これが、結構な稼ぎになるらしく小遣い稼ぎに余念のない餓鬼ども(通常は十五歳で参加するのだが、特に優秀な成績を修めた者は十歳位で参加することもある)は、親に買って貰った新品の装備と記録器材を持ってウキウキの気分でマンハントに参加していた。
「お祖母様、早くこちらへ」
「ほっほう、こんな所に獲物がいるとは。シャルル、ババアはお前にくれてやるから、俺は若い女を貰うぞ!」
「ひでえなブルボン、こんなババアを押し付けてくるなんてよう。今日の酒は、お前の奢りだからなあ」
子供の中にも、親の地位で序列が付いているため。下位の者が不満げに老婆を追いまわし始めた。
「わしは、捕まってもよい。その子だけは見逃しておくれ!」
老婆が、呪文を唱えながら石だらけの地面に膝をついて若き狩人たちに頭を下げる。
「ふん、老い先短いババアにそんな価値は無いんだよ。だいいち、逃げられると思ったのか。こうしてやる!」
下級の狩人が、鞭で老婆に打擲を加えると鞭の電撃機能が作動し老婆の衰えた心臓の鼓動を停止させた。
「ああ、これだから年寄りに価値は無いんだよな。電撃鞭一回でおっ死んでしまうとは! ブルボン、若い女の分け前を半分くれよな」
「いやだね、シャルルはババアの服でも剥ぎ取って稼ぎにしな。モノ好きにズベルトの民族衣装だってネットで高く売れるかもよ。はっは」
「お祖母さま、ゆ、許さない!お前たちは、虐げられた者の痛みを知るがいい!」 若い女がフードを取り払うと、白髪が太陽の光を受けて銀色に光った。
「お、おい。ブルボン、こいつまさか?」
「いや、そんなのいる訳無いだろ」
死んだはずの老婆が狩人の一人に襲い掛かった。白目を剥いた老婆の爪が首を切裂きシャルルだった物をもう一人の狩人に投げつけた。限界を超えた荷重に老婆の右腕は肩から外れていた。
「お、おい。シャルル、う、嘘だこんなこと!」
白髪の女の前で血塗れで立ち尽くす狩人に、老婆が飛び蹴りをくらわす。老婆の右脚は狩人の心臓を潰し背骨まで突き刺さった。狩人が倒れると、老婆の身体も粉々に砕け散ってしまった。
「お、お祖母様ぁー!」
***
「ここは?」
奴隷商で買った女が、ネコさんの実験室で目覚めると辺りを見回して聞いた。
「船の医務室よ。あなた、奴隷として買われたことは覚えているわね?軽い記憶障害があったから治療させてもらったわ。それにしても死霊術師《ネクロマンサー》とは、レアな能力ね。
惑星ズベルトにこんな貴重な才能が埋もれているなんて。中帝国の施政者達め、資源の浪費もいいとこね。」
「気分はどうかにゃ?吾輩はネコにゃ。この船、太陽系《マンズーマ・シャムセイヤ》の船長をしているにゃ」
「え?黒いシャム猫? 奴隷商で見たときは、普通のシャム猫だったのに?」
「ああ、これは。うちの科学主任、そこのネコさんが作った首輪の機能で普通ぽく見せていただけにゃ」
驚いた顔で吾輩とネコさんを交互に見る白髪の奴隷女。
「そう、私の名前もネコ。船長と区別をつけるため、みんなは私をネコさんと呼ぶわ。よろしくね。ところで、あなたのお名前は?もう思い出したはずよね、死霊術師さん」
「・・・・・・ 私は、サマンサ。 黒いシャム猫に仕えし者。よ、よろしく」
こうしてサマンサが吾輩の運び屋として、正式に乗組員になったのにゃ。