ふふ・・・
「とてもいい感じですよ、竜さんを見てるとなかなか飽きませんねえ」
領主館の研究室で白衣を素肌に纏ったネコさんが、遠く離れた月に居る俺を揶揄うように微笑む。
「それにしても、良いデータがとれましたねぇ。ネコがなぜ、あの力を容易く扱えるのかは謎ですが?アスタロトが逐一手を貸しているような魔導干渉は観測されなかったですしねえ。月面特有の何かが影響しているのでしょうか。それとも、別の何かが?
本当に、つくづく飽きさせませんねぇ。おお、これは!」
五種類の魔力、たぶん土、金、風、水、炎の魔力をネコは高度なレベルで使いこなしているようね。まさか、これほどまでに。
「しかし、五行の魔導を使うとはアスタロトの趣味とも違う様な?何故に?」
様々な角度から捉えた乱導竜とネコの模擬戦を何枚ものディスプレイに表示させつつ威力から魔力の変換効率を推定していく。
「もう、何度も驚かされたがネコがあのネコがこんなにも魔導を使いこなすなんて月に旅立つときは夢にも思わなかったが。こういうことがあるから、長生きはしてみるものね。ふふっ、これは是が否にでも月に私も行くなくては!」
俺の部屋で、俺は現実に呼び戻された。ネコさん曰く、もう少し解析に時間が掛かると言うことなので時間が空いてしまったなあ。
「ふう、とりあえず、ネコさんの解析待ちか。ネコ、手伝ってくれてありがとうお疲れさん。飯でも食いに行くか?」
「はいにゃ、ご主人。じゃ、アスタロトも連れて行くので少し待ってくださいにゃ」
ネコがドアに向かおうとしたところ、先にドアが開いて人形が入って来た。
「我が君、お呼びでしょうか?」
「す、凄いタイミングがいいな」
「丁度良かった、アスタロト食事に行きましょうにゃ」
「はい、我が君」
白磁の人形アスタロトは、俺には目もくれずネコに跨った。しかし、言動と一致しないよなあ、どっちが使い魔なんだよ。
『ふふ、地上の有象無象が我の力を探ってるようだが、放って置きましょう。例え五行にまでたどり着いたとて、とても護願の力を理解することなど無理でしょうからね。それよりも・・・』
「ところで、そこの人間。お前の持ち味は何だ?」
「はあ?随分上から目線の言い様だな、俺はお前の臣従しているネコの飼い主だぞ。言わばお前も、俺の家臣じゃないのか?」
「そんなことは知らない。我が、愛しの我が君に恋するのは自然の摂理、だがお前のような人間に関りはない。ただ、ただ我が君の邪魔に成らぬようにほんの少しアドバイスしてやるだけだ。だから、先の質問に答えよ人間風情が時間を取らすなよ」
「くっ」
俺の持ち味?長所かそれとも異界転移したときの能力のことか。それなら・・・
「そうだな、詐欺《スキャム》、仮想通貨に関することなら誰でも信じさせることができる俺の独自の能力のはずだ」
「そう、その能力と仮想通貨の力を魔導の力に変えることもできるようだな。なら、簡単だ。我がお前を強くしてやろう、精々我が君の足を引っ張らないくらいにはな(笑)」
「なんだ、その馬鹿にしたような?まあいい、藁にも縋る想いで聞いてやるから早く言えよ!」
ふふっ。アスタロトが無い胸を盛大に張る。
「な、なんか悪意を感じたがまあ良いわ。ならば、盛大にそのスキャムでこの月を売りさばけ!月の砂だろうが、不思議な鉱石だろうが、土地の権利だろうが写真だろうが売って売って売りまくれ。そうして増やし蓄えた仮想通貨を魔導に替え、お前が今使役している使い魔とお前の金ぴかの鎧や金ぴかの劔と合体させるのだ。そうすれば、今より少しは強くなれるだろう。まあ、元が元だけに高望みはするなよ挫折するだけだからな(笑)」
「だから、さっきからその変な笑いは・・・」
ふうー、ふう。
「まあ、わかった。それでも、参考にはなったぞ。さっそくネットで月の砂や鉱石でもBST《ビーストコイン》建てのオークションに掛けてみるよ。どれくらいの値が付くかな?」