ふふ、あんな腐った国など沈んでしまえばいいのよ。巻き添えを食らったメキシコには可哀そうなことをしたかもと少し場違いな気分が過ったけども。
各国首脳は焦った、世界中で何と言っても一番の軍事大国である米国を含む北米大陸が一日も掛からずに海に沈んだのだから。それも紅い衣を纏った馬鹿笑いするたった一人の女に滅ぼされた。それは、すなわち何時自分たちの身の上に降り掛かるか想像もつかないのだから。
故に自分たちが信じられる物、力に頼ったとしても非難出来るものはいなかった。
「ふふ、漸《ようや》く尻尾に火が着いたようね。でも、一番やってはいけない対処を選ぶとは、救いようがないわね」
自由の女神像目掛けて、各大陸から弾道ミサイルが発射された。むろん作法として核弾頭を搭載している。おおよそ三、四十分程で弾道ミサイルは到達するだろう。
「いちいち相手しているのも面倒ね。闇《ザラーム》金の精《ダハブ》、ミサイルをあいつらの大好きな金に変えて頂戴な、闇《ザラーム》土の精《トゥールバ》、ミサイルを撃ってきた所は海に沈めてね。さて付き合ってやる義理もないしサヨナラ・・・・・・」
発射された弾道ミサイルは、軽量な金属で作られていたが魔導の力で重い純金に変えられると、推力不足で次々と発射した国に墜落していった。
また、魔導の力で大陸直下の地殻を一00メートルほど抜き取ったので、一時間もすると南極大陸を除く全ての大陸は海の底に沈没していた。
「ふふ、いい収穫だったわね、霊子《レイス》がこんなに集まるなんて」
「そうよな、人々の恐怖が、死に行く者の未練が怨嗟となって魂に刻む金である霊子と化して集まるようじゃ。じゃが、お主もこのままただでは済まぬと判っていように不憫な奴よの」
『なんだか先生の説教が始まりそうだから、逃げたい気分ね』
「まあ、説教したくとも次の新月までまだ三十日あるからのう。そのあいだ、好きに振舞っておればよかろう。悔いを残さぬようにな」
「ええ、なんでそんなに優しいのかな。ありがと・・・・・・」
「くう、大陸は全て沈みそれ以外にも結構な数の島が沈んだみたいだな。ニューヨークの鋼鉄の箱は食料もあってしばらくもつみたいだが。それにしても、次の新月までスカーレットを止めに行けないとは。どうにかならないのか、アスタロト?」
「無理を言って貰っても困るのう。我を困らせて良いのはネコ様だけ故に。次の新月までその方は我慢しておれ!」
「ネコ、お前からも頼んでくれ。既に数十億の命が失われてしまった。スカーレットの暴走を俺は止めに行かなくてはならないんだ!」
「ご主人、それはもう無理にゃ。そんなに向こうの世界と行き来を頻繁に重ねると因果律の狂いが致命的なレベルになってしまうにゃ。そのための冷却期間が必要にゃ」
「そうネコの言うとおりよ、竜さん。魔導の力は万能に見えるけれど乱用すれば世界が滅ぶことになるかも知れないわ。それにもう手遅れなくらいに被害が出ているんだから慌てるだけ無駄よ」
「しかし」
「あの者を放置していてもそれほど、酷いことには成らぬよ。まあ、待つが良い」