『ご指名ありがとうございます。猫の手なら貸します、黒猫ビジネスサービスです』 「お願いです、あなたの御力が必要なんです。どうか我々をお助け下さい、船長!」
『船長、出番ですよ』
ダミー会社のオペレータが、通常業務ではない裏稼業の案件だと告げてVR画面を切り替えた。
むう、また面倒事が勝手に向こうから歩いて来たみたいにゃ。吾輩の前にまだ若いのに疲れの滲む薄汚れた男女が必死に頭を下げて助力を求めていた。
「ぬう、こういう人間同士の仕様もない、いざこざはご主人が居れば速攻で解決してくれるのに ・・・・・・」
まったく、役立たずのご主人め。何処にいってしまわれたのか?
「え、なんと言われたのですか?」
「むう、面倒だが仕方ない。探し物のついでに力を貸すにゃと言ったのにゃ。こんな猫の手だったら貸してやるにゃ!」
ご主人なら、きっと手助けするに違いないのにゃ。ならば、替わりに解決してやるにゃ。
因みに吾輩の前でしきりに頭を下げている男女は、T1惑星連合からの使者にゃ。武力に物を言わせて、T1惑星連合の侵略を企てる中《あたる》帝国の魔の手から救って欲しいと命懸けで吾輩のもとへ、嘆願に来たらしいにゃ。
「おお、伝説のネコ船長が請け負ってくれたからには、中帝国の悪だくみも潰えたも同然!」
「遂に、我がT1惑星連合の忍従の時も終わるのですね!」
VRチャットの画面を閉じると、吾輩は船長席から後ろにある奇妙なオブジェに飛び乗った。ふう、ご主人は何処をほっつき歩いているのか?見つけた暁にはその所業を二時間位とっちめてやるのを楽しみにしている吾輩が居るのにゃ。
『ふっ、また安請負しおって ・・・・・・ ネコのお人よしには敵わぬの』
吾輩の横の高さまで浮き上がって空中に座る青い目のビスクドールが短く嘆息する。
まあ、見掛けは可愛いお人形さんだが下手に逆らうと惑星の一つくらい消し飛ぶので取扱いには、気を付けてくれにゃ。こいつの名前は、アスタロト。地獄の序列二九位、四十の軍団を指揮する公爵の爵位を持つ魔人にゃ。吾輩とは腐れ縁で魔導の師匠でもある。
そうそう自己紹介がまだだったにゃ。吾輩は黒いシャム猫のネコ(冗談ではなくてご主人に付けられた正式な名前だからしかたないのにゃ)、ご主人との冒険の最中に拾った船の船長に就任して宇宙を股に駆けて活躍した噂話が人々の口に上り、いつしか伝説の船長と呼ばれるようになったのにゃ。どうぞ、よろしくにゃ。
「そうね、ちょうどいいわ。燃料補給のついでに中帝国の恒星を幾つか頂けば一石二鳥ね。たまには、人助けが利に叶うときもあるのね。
いつものエネルギー損失から言ってただ働きとしか言えない案件と比べれば有望よ。まあ、実際は行ってみなければわからいものだけど」
おかしい、なんか吾輩の行動に辛口の評価を下す者がいるにゃ。
そうそう、もう一人いた。うちの科学主任を紹介するにゃ。こいつの名前も実ははネコ(どうでもいいけど、猫にネコと名付ける奴多過ぎな件について誰をとっちめればいいのかにゃ?)というのにゃ。
まあ吾輩とは違っていたって普通のシャム猫だがある魔導師の使い魔をやっているうちに研究者の素養が開花して紆余曲折を経てこの船に居ついたので乗船料代わりに科学主任として働かせてるにゃ。
こんな奴、こ、怖くないんだからにゃ。ほんとだからにゃ ・・・ ・・・ まあ、紛らわしいので以後吾輩のことはネコ船長、こいつのことは”ネコさん”と呼ぶにゃ。くどいようだがこいつのことを怖がっているわけではないにゃ。ご主人が昔そう呼んでたからにゃ、そ、そういうことにゃ。