・・・た、助けて。
何故、こんな目に・・・
う、うーん。
『ムガット』
「おお、おはよう。ムガット、さっき誰か来なかったか?なんか、声が、女の人の声が聞こえたようなた気がしたんだが・・・」
『・・・ムガット』
「そうか、お前には聞こえなかったんだな。じゃあ、飯食ったら今日も訓練やるから、よろしくな」
『ムガット』
「お替りをくれ!」
「お口に合いましたか、それは何よりでございます」
アラク・アウカマリがカレーを大盛りでよそってくれた。
今日の朝食は、俺の希望を叶えてくれてカレーライスにぼんじりフライを添えてだった。残念ながら徳島県産の阿波尾鶏は手に入らなかったので鳥取県産の大山どりだったが、なかなかの美味だった。
「ほう、なかなかね。これほど、すぐに魔導鏡を完成させるとはねえ」
「魔導鏡?」
「竜さん、私の後ろから覗いてごらんなさい。変化しているのに、私の真の美しさが鏡に薄っすらと滲み出ているでしょ。大量の魔導に接した物は、時として魔導のアイテムとなるのよ。この鏡のようにね、だからこそ魔導鏡なのよ」
「ああ、たしかに美人の姿の中に、うっすらとシャム猫の影が映っているね」
「そう、この鏡ならかなりの魔導の使い手が変化していてもそれを見破ることができるわね。この鏡は、いいものよ。大事になさい、それと気を付けないと見つかっちゃうわよ」
『ムー、ムガット』
そう、鏡には小指大の蠅の幼虫が俺の右肩の上に乗っていることもしっかりと映しだされていた。ムガットの隠形が魔導鏡に破られている証だった。
「人前でこの魔導鏡を使うときは、気をつけるよネコさん。ところで、今朝から、たまに人の声、正確には女の人の声なんだがネコさんは気づかないか?」
「女の声ねえ、いろいろ聞こえているけど?どの声、かしら?アラクの声に、ここの支配者キリュウ・グツチカ・シトゥールの声、あらあら、アンドロマリウスやアスタロトの訝しがる声も聞こえるわよ」
「いや、そういうんじゃないんだが。うーん、どういったらいいのか。助けを求めるような。今ネコさんが言ったのは、大抵のことは自分で何とかするだろ?」
「まあ、若干一名は竜さんの気を引くためなら自ら危険を呼び込むことも厭わないみたいだけどね。弱い人間のことは、興味が無いからわからないわね。お役に立てなくてごめんなさい」
・・・いや、た、助けて!
「あ、まただ。誰なんだろう、この声は?いったい」
「今の声か。そうね、確かに普通の人間のようね。やっぱり、興味が持てないからどこからの声なのか、わからないわね」
「じゃあ、今日の訓練は魔導による探知、探索にしましょうか。目標は、その声が誰なのか、何処からなのかを突き止めることよ。どうせ、他の訓練にしたとしても集中できないだろうし。まずは、軽めな所からね。強い関心があるからすぐわかるはずよ、キリュウのいる場所を探し当ててね」
「ああ、わかった。声が、何か凄く近くにいるように感じるぞ。まるで、部屋の外にいるみたいだ」
突然、ドアが開くとキリュウが俺の部屋に入って来た。
「もう、退屈でつまらなくてたまらない。と、思っていたけど我を見つけてくれるなんて、やはり弟にして我が夫リュラーン、そなたも我を求めていたのね」
「なんだ姉さん、立ち聞きはに行儀が悪いぞ。俺は、忙しいんだからアラクとお茶でもしててくれ!」
「もう、照れよって。何にしろ、顔も見れたことだし退散しよう。アラクは手強いぞ、覚悟して修練に励まれよ!弟にして我が夫リュラーン、しばしの別れぞ」
「素直に帰ってくれたか。あれ、ネコさんの姿がさっきから見えないな。ネコさーん」
「私は、ここよ。一応の礼儀として、この場でキリュウとは遭わないのがお互いの為なのよ。そうでなければお互いの存在を掛けた闘いが勃発するかも知れないから・・・」
「ふーん。ま、甘々だけど、最初の出だしは順調だな」
「・・・ムガット」
「おお、そうだなムガット。これくらいのことで喜んでる場合じゃないな。この助けを求める声の居所を突き止めないとな。よし、声に集中するぞ!」