距離一万、九千、・・・、五千。
「よし、発射!」
次の瞬間、眩い光が巨大な流星を破壊した。
「次の目標は方位三五0、距離一万五千、速度十、質量百二十」
「了解だ、アラク」
流星を撃破した俺には、月面地下基地からすぐ次の目標が割り当てられた。単位は俺が解り易いように距離はkm、速度は秒速km、質量はkgに換算して報せてくれている。 距離一万、九千。
「アラク、次の目標もくれ!ちまちまやっていても埒があかない」
「次、方位、三00、距離二万三千、速度九、質量百」
「よし、ビレト行くぞ。あの二つをぶつけてやれ!」
「また、面倒なことを言ってくれる」
俺は、偶にやってくる訪問客の相手で大忙しだというのに、うちの手下(ペット)のネコはどうしているんだろうな。まあ、きっと昼寝でもかましていることだろう、平和っていいね。
おお、こんな所に居たか。
「よお、しかし大変なお金持ちなんだな、お前って?でも、よお。そんなにペラペラ俺の手下にしゃべっても良かったのか?俺が探りを入れたのに気づいてない訳じゃあるまいにさ」
「ええ、でも事実を知ろうが知るまいが変わりません。我が主の希望をあなたが叶えられなくて逃げ帰っても誰も責めたりはしません」
アラクは、悲し気に顔を俯かせた。
「ふん、見くびるなよ。俺がどんなにあの人を、姉さんに憧れ、恋い焦がれていたか想像もつくまい。例え、三十八兆円が百兆円だろうとも俺は集めて見せる。それが兆利人ってもんだ、逆に山の頂が見えた方がやる気が漲るというものさ!」
「ふふ、いいですね。若いって、応援してますよ。立場的に何もしてあげれませんけど。我が主が自分自身を取り戻すこと。希望を叶えられることを、あなたに託すしかありません、恥ずかしながら私には何もしてあげられませんので」
「いや、あんたは良くやってるさ。姉さんを今まで守って来てくれたんだ、俺は感謝しこそすれ怨んじゃいないよ」
「感謝します。今、大切な仕事が入りましたのであなたのお相手は、話し半分程度に聞くしかできません。ええ、流星群が月の裏側に接近しています、迎撃しますので特に心配には及びません。毎度のことですので、興味があればそこでご覧になっていても構いませんよ」
「ならば見てるだけで無くて、俺が片付けてもいいのだろ、その流星群って奴を?」「ええ、構いませんよ。では、こちらから目標の指示を出しますので、手に負えなくなったら止めて頂いて結構ですので」
「ふ、じゃあ、任せて貰おうか」
こうして惚れた女を、憧れの姉さんを守るため男のプライドを掛けた戦いが始まった。相手は、身の丈数百メートル、俺の眼前に迫ってくる流星群って奴だ。
さっきの二つの流星をぶつけるのは、効率も見た目もいいな。これは、戦術として本格採用だろう。
「喜んで貰っている所、悪いが。あんな速くて重い物を何度もぶつけるほどの魔力は残っておらんが、主殿よ」
「な、なんて燃費の悪い奴だな。じゃあ、引っ込んでろ。じゃあ次は、アルケルだ!」
「おう!」
「一点に、高温の炎で炙って破壊してやれ」
「おう?」
結果から言うと、アルケルの炎攻めで三つほど流星を破壊したら魔力供給が追い付かなくなってしまった。ホントに情けない大ぐらい達だ。
「リュラーン皇子、大分お疲れのご様子。そろそろ後退してください。あとは、こちらで対処します」
「くっ、こんな中途半端でおれは、俺はあの人を守れるのか。く、悔しい」
紅茶を飲みながら、楽し気に笑う一人の女性がモニタを食い入るように見ていた。「ふふ、やはり男の子ね。こうやって頑張ってくれるところ、好きよ。リュラーン」
「我が主、良いのですか?」
「はっは、確かに誰も見ている者など居らぬが、そうそう勝手にしゃしゃり出てくる出ないわ。ここは、月の女王キリュウ・グツチカ・シトゥールの居城ぞ。じゃが、悔し涙にはそそるものが有るのだけは、同意じゃな。のう、アラクはどう思う?」
「私は、特に何とも思いませんが。我が主を託すにはやや頼りないかと、失笑気味に」
「ほほ、そちも手厳しいのう」
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