『マスター、ところで何を錬成されるおつもりですか?』
「・・・・・・ 昔亡くした友をな。ソローン、お前と言う最高のホムンクルスの錬成を為しその成長過程を記録したZ-RIDERシステムのデータもある。
かなり刻は経ったが少し気になることが有ってな確かめてみたいのだ。そのために万に一つも失敗の可能性は排除したつもりだ」
黒衣の魔導師は少し遠い過去を懐かしむように、柔らかい表情でホムンクルスを見やった。
「おっと、まだ足りないか。なかなか我儘な奴だよ、相変わらず。ふっ。
ソローン、そうだなお前の使い魔の中で最高位であるバアルの血を一滴と保険にお前の血も一滴分けてくれるか?
こいつを錬成するためには、特別な素材がそれも強大な力を持つ生き血を必要とするようだ。
なに、一滴あれば後は複製するのでお前の負担も少ない筈だ」
嫌な予感が一瞬過ったが、敬愛するマスターの望みは己が望み否は有り得ないと思い言葉を捻りだす。
『わたしの全てはマスターの物ですから血など遠慮なさらず、一トンでも十トンでも差し上げますが・・・・・・
マスター、バアルは魔界序列一位にして私にも匹敵する力を持つ魔人です。こやつの血については、とりわけ取扱いに注意を払い努々油断すること無きようにお願いいたします。
では、素材をお持ちしますのでしばしお時間を頂きます』
ソローンは『ソローンの造り手』から一旦距離を取ると寸時精神集中をすると僕に命じた。
『先に反乱を企てし重罪人バアル、疾くと我の前に現れてその罪深き血を一滴献上せよ!』
『重罪人とは、これまた異なことを。我ら魔人は、力によって制しまた力によって支配するもの。ご主人様に隙が有ったればこそ、我は魔導の理に則り我が力を思いのままに振るったまでのこと。
我に罪など一遍も有りますまい』
『しかり、しかり。それはそうと、我の血の対価に宝物は、金貨はいただけましょうな?』
『何を眠たいことを言ってるにゃ、我を支配したくば強大な力を見せるにゃ。
それが出来ねば、ご主人の座を再び貰うだけにゃ』
巨大な蜘蛛に載った三つの首がそれぞれの主張を言い募る。
蛙頭は、先の反乱は力こそ正義、魔導の理としては正しい行いだと主張する。 人頭は、己の血を高く売りつけようと御託を並べる。
猫頭は、もう一度力を示せとホムンクルスに迫る。
『ほう、己の主張を通すのは立派よのう。
ただし、力が伴わぬ主張はただの戯言と知れ、痴れ者が!
また、悠久の次元のはざまで己が無策を悔やむが良い!』
ソローンが左手にクリスタルの容器を持つと中に緑色の液体が満たされていく。 『永遠に出ること叶わぬ故、貴重なうぬの血たっぷりと貰った』
『ええー、それはご勘弁をソローン様
お宝は結構です、全て差し出します。お待ちを!
嫌だにゃ、あそこは何にも無いにゃ。二度と御免だにゃ。許してにゃあ!』
魔人バアルを囲む無数の漆黒の球体が覆い尽くすとやがて消えていった。その痕には何も残さずに。
極大魔導を行使したにも関わらずソローンは、もう一つクリスタルの容器に己の紅い血を満たすと愛する主人のもとにいそいそと二つの容器を捧げ持って傅いた。
『マスター、お待たせしました』