『俺が必ず、姉さんを救ってみせる!例え、何度繰り返そうと絶対あきらめない!!』
俺は富の女神エンドロ・ペニーに急かされても慌てることなく精神を集中させた。さっき女神を挑発したおかげで、最低限引き分けていれば負けないという|安全牌《セーフティ・ネット》を勝ち取った。だから、俺は負けない。
武器《スィラーフ》鎧《ディルア》の中で力を溜め、活路が見えた瞬間に巨大な惑星サイズのサイコロを武器鎧の全身を使って揺り動かす。
運命の賽の目は、四で止まりそうに見えたが一転がりして六で止まった。
「ふん、運のいい奴。死に際を弁えぬ、武士道にあるまじき輩とも言えるかしらね。まあ、いいわ。私が負けることなど有り得ないのだから、はあー!」
躊躇なく気合を込めてエンドロ・ペニーが右手で掴んだ巨大なサイコロは勢い良く何度も転がり、そして止まった。賽の目はやはり六だった。
「くうっ、本当に腐っても女神だけのことはあるようだな」
(まさか、奴は賽の目を操れるんじゃないだろうな?そうだとしたら、いずれ俺の集中力が落ちたとき、人間の俺では勝てないかも知れないのか?)
「リュ、リュラーン!」
「ご主人、がんばるにゃ」
姉さん《キリュウ》とネコの声援が聞こえた気がした。
- 遥か昔 ー
ただ、ただ生き残るのに必死だった。個が滅んでも、他の個が命を繋げば、いやせめて命を繋ぐ情報だけでも残せればいい。
こうして、長い年月を旅して命の設計図だけを他の生命体の機能を使って複製、増殖する。これが長大な年月と距離を旅する為に選ばれた手段だった。
地球では、こうした単体では増殖できない、生命とも呼べないものをウィルスと呼んでいた。ウィルスは寄生した生物の遺伝子を時に改変し、また別の生物に新たな遺伝子を運ぶ|メッセンジャー《伝達者》となった。
あらゆる苦難に耐えメッセンジャーは遺伝子を運んだ。あるときは、惑星規模の核戦争を、惑星の全球凍結を、小惑星の衝突を、銀河同士の衝突をも乗り越え遺伝情報を伝えるという使命を果たして来た。
えっ、何で銀河の衝突を俺が覚えているんだ?俺は、一瞬様々な生命の死を感じ、ウィルスとして宇宙を駆け巡った記憶を追体験した。
確かに人間の身体の中にもウィルスの遺伝子が継承されていると聞いた覚えがあるが、それが天の川銀河の中心で富の女神と対峙している異常体験によって喚起された一瞬の奇跡、螺旋が紡ぐ幻の記憶なのか?
「竜さん、魔導の本質を、あなたのスキルを思い出しなさい!」
白衣を来た美人さん、ネコさんの叱咤激励がはっきりと聞こえた。
そ、そうだな。相手は女神なんだ、百回だろうが一万回だろうが六の目を出し続けるのなど造作も無いことだよな。
俺は、覚悟を決めた。