「新陰流、参る!」
数度の斬撃が、身体に突き刺さる。いや、確かに斬られた。それを魔導の力で高速で修復しているだけだ。だから、痛みは刺すように痛覚を刺激する。
「くっ、好き放題に斬りおって。しかし、奴、宗厳《むねとし》の攻撃の呼吸が読めない。どこから来るのよ、奴の剣は動いてもいないのに・・・・・・」
(大体先だっての攻撃は、確かに右脚の鋭い蹴りによる衝撃波?
そんなことが、ただの剣法使いに出来ることなのか?
おかしい、何かある・・・・・・ 何か裏があるはずだ・・・・・・)
もう、何度も斬り飛ばされた腕を修復しながら闇の中で宗厳の気配を探るがどうにもおかしい。
『こうなったら仕方ない。魔人セーレ、疾くと現れて我の敵をうち滅ぼせ!』
七十二柱の壺《真鍮の壺》から煙が立ち上り、いつもの愚痴と共に小太りで禿頭の魔人が宗厳の前に現れた。
『ほんとに、ご主人様は魔人遣いが荒過ぎる。この地獄の序列七十位にして二十六の軍団を統べるプリンスである吾輩に、こんな辺境の人間ごときを始末せよとは。
はん、どうせまた何か裏があって手柄を立てたと思ったらご主人様お気に入りのアンドロマリウスとか、新参者の忍者かぶれの馬魔人とかに美味しい所を持って行かれるんでしょうが・・・・・・
今回ばかりは、痛っ!
何を勝手に吾輩の大事な腕を斬るとか、有り得んだろうが人間ごときが!』
愚痴を零す魔人の出現に何かの策が有るのかと五秒ほど推移を見守っていた宗厳だが、余りの底の浅さに見切りを着けて斬撃を放った結果であった。
「やはり化生の類か?仲間を呼んだようだが、役立たずだったな」
『そうね、あんたの怪しげな技の正体も見抜けなかったし。正直、こんなに早くやられるとは思ってもみなかったわ』
『何を言っておられる、ご主人様。先ほどのは油断しただけのこと、今度はこちらから仕掛けます、ぞ!』
魔人セーレがその自慢の光速戦闘に入ろうと動き出した正にその時、魔人の首が音もなく滑り落ちていった。
「ふっ、また詰まらぬものを斬ってしまった。次はもう少し歯ごたえのある、できれば静かなのを頼みたいものだな」
『くっ、それにしても尾張柳生の技がこれほどとは。マスターに聞いていたのとは毛色が違い過ぎる。 ただ、実戦的で容赦ないことだけは確かだけれど・・・・・・』
「ふっ、化生の女に語る剣理は無いが。冥土の土産に『転び《まほろび》』とでも教えてやろう。新陰流の極意は、一度《ひとたび》抜かば、勝つ。それ以上でもそれ以下でも無い。但馬のなんちゃって剣禅一如とは違うのだ」
『臨、兵、闘、者、皆、陳、列、在、前! お待たせし申した、ご主人様』
どこか、地の底から聞こえるような距離感が掴めぬ九字を切る声がしたかと思うと焦げ茶色の忍び装束を来た馬面魔人が、ソローンの前に膝を着いて現れた。
『おお、サミジナ来たか。では、あの者も?』
『はは、後はご主人様が呼べば済む手はずとなっており申す』