仕事に貴賤が有るはずがない、たとえ嫌われ仕事の筆頭である重犯罪人の首を落とす『首切り役人』だろうと、お偉い貴族様が務められる『領主』だろうと尊い使命感に燃える教会の『修道女』だろうとな。それぞれ必要とされた大事な仕事であるのに変りはない。
違いがあるとすれば、「難しい仕事」か「簡単なお仕事」の違いがあるだけだ。 「うほほーい、見える。見えるぞ、素晴らしい完成した姿がはっきり、クッキリと見える。これはもう生涯随一の『簡単なお仕事』じゃわい!」
「そうか。苦労して手に入れた素材、お気に召したようで何よりだ。で、『部品《パーツ》』は何時頃仕上がるんだいワフードさん?」
鍛冶師の仕事場に持ち込んだ素材を見て大層喜んだ体のワフードさん曰く、それほど待たせないとのことでキール達は達人の鍛冶仕事を見学することにしたのだった。 竜の鱗を炉でじっくりと熱し、片手槌でリズムよく叩いて曲面を作り出していく。真っ赤に変色した鱗がやがて小柄な少女の胴体、腕、脚へと変貌していく様子は見ていて飽きないものだった。
「よし、とりあえず仮組をしていくぞ。まずは、胴体にそのお嬢さんの首を繋いでみるかの。どうだ、首は動かせるようじゃのう。動きに不都合はないかの?」
『仮初の身体としては及第点をやっても良いが・・・・・・
反応速度が遅すぎて、これでは戦闘の役には立てぬな。済まないな、キール』 「ちょいと、お嬢さん。電気ウナギで作った神経系統では満足できぬということかいのう?
おお、そうじゃ。キールから預かったとっておきの素材があった。これはそれを見越してのことか。竜もそれが判っておったようじゃのう」
ワフードが包んでいた布を開いて水晶のような球体を取り出して、それを怪しげな薬品に漬けるとにやりと笑った。
「ワフードさん、そいつは前にも言った通り貰ったんじゃない竜から預かったものだ。壊さないでくれよ」
「まあまあ、慌てなさんな。竜も言っておったのだろう?用が済んだら勝手に竜の元に帰ると、ならどう人間が加工しようと平気じゃよ」
鍛冶師ワフードが薬品壺から取り出した透明な糸を電気ウナギ製の神経と入れ替えていく。よどみない勢いで瞬く間に入れ替えは終わった。
「ほうれ、お嬢さん。これならどうじゃ」
『ほう、ただの人間がここまでの細工を施せるとは見直したな。確かに電気より光で伝達する方が早いからな。
しかし、このような魔導の神髄に通ずる知識をどこで仕入れたのだ?』
「まあ、長年この仕事をしておると偶に変わった仕事を任されることがあっての。何でも遠くから来た若者だったのう、月を目指す船を造れと無茶を言いおったわ。はっは」
遠い目で昔を懐かしむようにワフードは笑った。