ある日の深夜・・・
一枚、二枚、三枚、・・・・・・
「うー、五月蠅いなあ。一枚二枚って、番町皿屋敷かい?」
七枚、八枚、九枚、十枚・・・・・・
「おいおい、十枚あったらいいじゃん。なぜ、まだ数える?」
四十九枚、五十枚、五十一枚・・・・・・
「ええ、いつまで続くんだよ!もう、文句言ってやらあ!」
私は、ベッドから抜け出すと手早く着替えて声のする方に歩き出した。
声はまた最初から数え直しているらしい。
十一枚、十二枚、十三枚・・・・・・
「ふう、何処だろうここは? 声は、あっちからか」
三十一枚、三十二枚、三十三枚・・・・・・
私は声が聞こえる方にまた進む。
古びた屋敷の崩れた塀から覗くと井戸端で洗い物をしている人影が見えた。
黒いワンピースを着た少女に話しかけた。
「ねえ、あんた夜中に五月蠅いわよ。近所迷惑なんだから、一枚足りないくらいいいじゃない」
ああ、一枚足りない!
『え、あなたはどなたですか?』
「わたしは、近所のマンションに住む者よ。あんたが夜中に一枚足りないとか、一枚二枚とか延々と数える声が不気味で安眠妨害なのよ!」
『そうですか、私には時間が無いので放って置いてください』
一枚、二枚・・・・・・
「ちょっと、人の話聞いてる?」
『五十六枚、五十七枚、ああ一枚足りない!』
「もう、貸しなさい!私が手伝ってあげるわよ!」
『え?なんで?』
「はいはい、一枚、二枚・・・・・・」
「ふう、五十六枚、五十七枚、そーれ、五十八枚!ほら、ちゃんとあるじゃないメダルは五十八枚あるわよ」
『え、そ、そんな汚れたメダルを認める訳にはいきません!』
「何を言ってるのよ、例え阿呆などっかの市長が汚したってさあ。
ほら、こうして洗ってあげれば輝く金メダルに。
ね、元通りでしょ」
少女は、渡された金メダルを見ると悲し気に泣き叫んだ。
『嫌あ、醜い歯形があ』
汚れが落とされたためか、金メダルにはより一層明瞭な歯形が浮かんでいた。
それを見て絶望した少女は、数えるのも止め力なく井戸端から姿を消した。
翌日、爽快に目覚めた私は一つの地方都市が日本から消えたことをネットのニュースで知った。
何故か昨日の彼女の声が聞こえた気がした。
ああ、一枚足りない!