そう言えば昔もマスターに言われて街を壊したんだったっけ。終わったらマスターが色々とご馳走作ってくれたなあ、蝙蝠また食べたいなあ・・・・・・
街ごと凍らせたらマスターびっくりした顔して、でも後で一杯褒めてくれたなあ ・・・・・・
マスターと最初に転移した時は手を握ってくれたなあ・・・・・・
ま、マスターにもう一度逢いたい・・・・・・
「ソローン!」
え? だ、誰、私の名を呼ぶのは? ・・・・・・まさか、マスター?
霞の掛かったような視界が鮮明になった。目の前に見あげるほどの巨人が、巨人が纏う漆黒のマントは正しくもう一度目にしたいと思い描いていた人が纏っていたもの!
『ああ、ま、マスター、マスター!な、なぜ?
いままで、あれほど探し抜き、声も枯れるほど叫んでも応えてくれなかったのに・・・・・・』
ホムンクルスが、湧き上がる感情を抑えきれず言葉に成らぬ声をあげた。
「おいおい、漸くこっちの世界に戻って来たか。悪いけど、そいつはお前のマスター、いや、ジョージさんじゃない。
おい、もういいぞ。戻れ!」
『・・・・・・ ムガット』
『でも。マスター、どうしてそんなに大きくなったんですか?
え、私を大きな背中で守るためですか。もう、マスターたら。やっぱり、私のマスターです・・・・・・
あ、消えた? マスター?』
男が命ずると、巨人は無数の白い物の渦となりやがて大部分は消えていった。残ったたった一つの白い物が男の右肩に留まった。
「おーい、下僕一号!
いつまでもお前のボケに付き合っていられないんだよ。
それに、この大陸には俺の作った発射場がある。あれを無かったことにされちゃあ宇宙の歴史が壊れるんだよ。
そうそう、ジョージさんからの伝言だ!」
『え?あなたは・・・・・・
いえ、それよりもマスターの伝言の方が大事。早く寄こしなさい、お客様!』
男は苦笑すると、虹色に輝くカードをホムンクルスに投げ渡した。
ホムンクルスが輝くカードを手にすると、漆黒のマントを纏った男が笑いかけた。 「馬鹿娘、俺は何時だってお前の側にいるぞ。さあ、シャキッとしろ。
魔人どもを従属させよ、お前の力を取り戻せ。魔導の神髄を思い出せ!」 『・・・・・・ かしこまりました、マスター』
ホムンクルスの魔導の力が本日で一番高まった瞬間であった。
南西大陸で停まっていた時間が流れ出した。
ヴァサゴは、とてつもなく強大な魔導の力が我が身を圧し潰そうとする様に苦悶の声をあげるしかできなかった。先ほどまで従順に従っていたホムンクルスが怒りの目で睨みつけていることに魂の奥まで恐怖した。
だが、流石に数万年も過ごした魔人だけに劣勢を感じさせぬ声で問うた。
『それほどの怒りを我に向けるか、伝説のホムンクルスよ。
いろいろと、行き違いはあったにせよ。我とお主の中ではないか、水に流せ。そうすれば今一度、お主の力になろう』
『・・・・・・ まあ、よかろう。
ヴァサゴよ、我が下僕として再び仕える栄誉をやろう。
疾くと、七十二柱の壺《真鍮の壺》に還れ!』