2018年9月ウガンダでのパイロットプロジェクトを始動した、ロンドン拠点のBlock Commodities。1,000人の小規模農家にトークンというかたちで肥料購入のためのローンを提供しました。
ザンビアで肥料を販売していた現Block Commodities(旧African Potash)Executive Chairman Chris Clevely氏が、小規模農家がマイクロファイナンスなどのローンで肥料を購入していること、そのために買いたくても買えない現状があることに気づき、彼らが必要量の肥料を入手し、より生産性高い農業を実現するためにこの事業を思いついたそうです。
単にローンを貸し出すだけでなく、適切な化学肥料の使用により生産量・質ともに改善された作物が、今まで小規模農家がリーチできなかった市場へと流通していくところまでを含めたトークンエコノミーが設計されています。
パイロットは走り出したばかりで、インパクト評価は難しい状況ですが、2030年には25億人に達すると予測されているアフリカ大陸の人口増加、それに伴う食糧不足、そして人口の6割を占める農業の生産性を考えると、今後注目したいプロジェクトと言えるでしょう。
Clevely氏のインタビューによれば、Farmer 3.0パイロットプロジェクトはこちらの座組みで実現したそうです。用途に応じて、いくつかのトークンが登場します。
wala :マイクロレンディングのためのトークン発行役
Ethereum基盤の金融サービスモバイルアプリを開発している、南アフリカCape Town発のスタートアップ。CEOはTricia Martinez氏という女性です。ユーザーは、アプリ内で探してきた仕事の報酬としてDalaトークンを受け取り、そのトークンをユーザー間での送金や各種サービスの支払いに使うことができます。現在Androidのみ提供中、+10,000ダウンロード。
Farmer 3.0では、wala発行のDalaトークンをBlock Commoditiesが12%の利子をつけてマイクロローンを提供しています(従来の利子は、45%程度)
ost:作物の販売で得た収益を消費に使うためのトークン発行役
ICOの必要なく、独自トークンを発行しブロックチェーンエコノミーを創れるOpenSTプロトコルを開発しているプロジェクト。ベルリン、NY、香港、インドに拠点があるようです。サイドチェーンで取引を実行するため、スケーラビリティ問題の懸念なくブロックチェーンエコノミー(e.g. Farm 3.0)を実現できます。図のOSTトークンはこのサイドチェーン上での取引を実行する時に用いられ、Ethereumの手数料、gas価格高騰問題も回避できます。Farmer3.0では、農家の人たちが学校の授業料やその他支払いでディスカウントを受けられる仕組みにOSTトークンが用いられているようです。
swarm fund:プライベートエクイティファンドとして機能するFarmCoin発行役
swarm fundは米国拠点の非営利組織で、非中央集権型プライベートエクイティファンドを目指して、証券をトークン化するSRC20というプロトコルを開発しています。既存の証券法にのっとってトークン化された有価証券の取引ができるため(e.g. 不動産を分割所有)2018年に注目されました。詳しく知りたい方はこの記事がおすすめです。
このswarmプラットフォーム上で購入可能なFarmCoinを通じて、アフリカ農業の生産性向上に欠かせない交通や備蓄機能、教育などのインフラに誰もが(swarmユーザーとして)投資をできるようになりました。
FinComEco:Farm 3.0の共同運営主体
イギリスの金融サービス企業で、外部パートナーと提携しブロックチェーン事業を積極的に立ち上げているGMEX Groupが、新興国の農業/金融分野に特化して設立した子会社FinComEco。Block Commoditiesと共にジョイントベンチャーFACES(Farm Asset Coin Eco-system)を設立し、Farm 3.0における農家のKYCや農作物の流通拡大を担っていくようです。
Ugandaのパイロットでは、ここに現地パートナーとして小規模農家とのコネクションを持つ肥料ディストリビューターPure Grow Africaが加わっています。
Farm 3.0は各国の政府や現地パートナーとテイラーメイドでプロジェクトを仕上げるスタンスのようですが、以下のメリットは共通かなと思います。
■スマートコントラクトにより不明瞭かつ非効率だった商流が変わる
■セキュリティトークンへの投資というかたちでより多くのグローバルマネーがアフリカの農業インフラに流れる
■将来的に、ローン借入/返済などの蓄積データを小規模農家がその他の非中央集権型サービスにアクセスする時の信用評価として活用できる。データの主権は、農家自身で、中央集権的に使われることはない
以下、具体的なスマートコントラクト実行の流れを見ていきましょう。
Farm 3.0のスマートコントラクト概要
①バイヤーは、スマートフューチャーコントラクトで商品取引所から特定の作物を購入することに同意。
②商品取引所は、プログラム参加農家に対して$XX百万トークンを貸し出すことをトークン提供者に通知。
③トークン提供者は、現地ディストリビューターにXX MTの肥料が必要になることを通知。ディストリビューターは信用状に基づき、グローバル市場から肥料を仕入れる。仕入れに対する報酬は、農家からトークンで支払われる。④作物が収穫され、商品取引所に売られると(i.e. スマートフューチャーコントラクトの条件が合致)ディストリビューターのトークンは取引所が法定通貨に交換、もしくはトークンの利子として支払われる。
swarmのFACES紹介ページには、川上から川下まで契約・取引が自動化されることで、従来の銀行ローンから50%、消費者ローンから75%安くローン提供ができるようになり、結果として小規模農家の収入が増えるだろうと書かれています。
まとめ
2018年にケニアの小規模農家のお宅におじゃました時は、生産性というより、作った農作物を売る市場がない方が課題でした。その地域みんながコーヒーやらパイナップルやらミルクといった同じものを生産しているので、逆に売れ残りを腐らせてしまうことに悩んでいました。
なので、Farm3.0が目指す生産性の向上がアフリカの小規模農家にとって一番必要とされている策なのかは、専門家の方の意見を是非聞いてみたいところです。また、White Paperなどの詳細資料が見つからず、本当に新しい商品取引市場を開拓できるのか?、報酬として受け取ったトークンはどこでどう使っていくのか?etc.の疑問も残ります。ただ、金融包摂やサプライチェーンへのアプローチとしてブロックチェーンの強みが生きているプロジェクトだなという心象は受けました。パイロットの結果、楽しみです。