始発を待つ私と白石さん。白石さんが海が見たいって言うから、今日はちょっとだけ遠くへおでかけ。けど私たちはふたりとも待ち合わせ時間より30分以上早く来てしまったので電車はまだ来ない。朝もやのかかる駅のホーム。まだ他にひとはいない。鳥が鳴き、飛んで行き、朝日に照らされて光ってる。白石さんのおさげも光ってる。なんだか朝のこの空気っていいかも・・・って思ってたら白石さんが
「ねえ君、より気持ちの悪いこと言ったほうが勝ちっていうゲームしようよ」
ってこの朝のさわやかさをぶちこわしそうな、わけのわからないゲームに私を誘ってきた。
「・・・いいよ」
すごく・・・乗り気ではないけどね。
「きっと楽しいよ。えへへへへ」
なんか笑い方がすでに気持ち悪いような。
「気持ち悪いってたとえばどんなこと言えばいいの?」
「えーと、じゃあ君だったら『大好物は胸毛です』とか」
「私好きじゃない!」
「君、落ち着いて。これはゲームなの。だから本当のことじゃなくていいんだよ。君がこのゲームのなかでどれだけ気持ち悪いことを言ったとしても、それはあくまでゲームの中だけのお話。現実の世界には持ち込まない。それがゲームのルールよ」
「はあ、そうだとしても乗り気のなさで今とってもいっぱいになってるよ」
「そんなこと言わないで。いっしょにしよ?ね?いっしょにしてくれたら君の足なめるから!」
「・・・きもちわるいよ白石さん。舐めてなんかほしくなんかないよ。あ、それより今日行くとこどんなとこだろうね。はやく電車来ないかな」
もう話題を変えたいの白石さん。
「電車が来るまでまだたっぷり時間はあるから大丈夫だよ。さ、ゲームを続けよう」
変えさせてくれないみたい。
「ほら、もうゲームは始まってるんだよ」
「え?いつのまに?」
あ、さっきの足なめるっていうのがこのゲームだったのか。
「次は君のターン。どこからでもおいで」
白石さんは格ゲーのキャラが挑発するときみたいに手招きしてる。むむ、なんかくやしい。
「えーと、じゃあ、犬のお腹に顔うずめると落ち着く、とか?」
「・・・それははたして気持ち悪いことだろうか?むしろかわいいことじゃないだろうか?」
白石さんが失望したような目で私を見る。やめて、そんな目で見るのは。
「うぅ、そんなにすぐ気持ち悪いことなんて思いつかないよ。でも次は白石さんの番でしょ?はい、どーぞ」
「違うわ。君が私の言ったことに勝つようなことを言えるまでずっと君のターンよ」
「えぇ!?そんな・・・じゃあ・・・ええと・・・耳のうしろの、匂いフェチですっていうのは?」
「おしい!でもすごく良くなってきたよ。もっとがんばって!」
なんだろう、この励まし。とにかくまだ私の番のままみたい。他に何かあるかな。
その後もずっと私の番のままで、さんざん恥ずかしいことを言わされた後になってやっと、これは白石さんが私のことをからかってるだけなんだと気付いた。恥ずかしいことを恥ずかしそうに言う私を見て楽しんでいたようです。
そんなことをした白石さんに少しだけ腹を立てたのと同時に、誰のこともからかうようなことなんてしない白石さんが、私のことはからかったことがなんだかうれしかった。こんなことだけど白石さんにとって私って特別なのかな、なんて考えたりする。
私にとって白石さんは特別。知り合ってそんなに経ってなくて、まだよく知らないこともいっぱいあるけど、他の同級生の誰とも違うと確かに感じている。
電車を待つ白石さんの横顔。駅のすぐそばにある踏切が鳴る。白石さんは電車が来る方を見る。電車の音が近づいてきて、私たちのいるホームの前に止まる。ドアが音を立てて開く。私たちは人のまばらな車両に乗って海へ向かった。
つづく→https://alis.to/dorogamihikage/articles/3k9LrYXOQGrl
以前のお話https://alis.to/dorogamihikage/articles/3qQ6Dn4X7pwG