尾田栄一郎『ONE PIECE 96』(集英社、2020年)は光月おでんを中心とした過去の話が完結します。ゴール・D・ロジャーはワンピース(ひとつなぎの大秘宝)に到達します。自分達は早過ぎたと言っています。ワンピースは適切な時期に使うものなのかもしれません。ワンピースを使うことで世界が変わるのかもしれません。それが世界政府に都合の悪い変化なのかもしれません。
黒炭オロチは自分が贅沢して威張りたいだけのチンケな小悪党と思っていました。ところが、そのオロチにも重たい過去がありました。昭和の村社会の犠牲者です。日本社会の醜さが凝縮されています。私は危険ドラッグ売人のように自分の利益のために他者を痛めつける存在を全く理解することができません。オロチは、そのような下種とは異なりました。
カイドウは化け物的な強さがありますが、人格が破綻しており、ボスキャラとしての魅力に欠けていました。しかし、おでんとの戦いで卑怯な手をつかった味方を抹殺し、おでんに詫びました。ここにボスキャラの美学があります。もっとも醜い存在は卑怯者です。卑怯者は勝利に貢献しても味方から抹殺されることが教育的です。
ワノ国は日本の伝統文化趣味を反映させた世界です。これまでの『ONE PIECE』とは雰囲気が異なります。あまりに長過ぎると従来からの『ONE PIECE』ファンが離れないかと感じてしまいます。これは空島編やスリラーバーク編でも感じました。しかし、『鬼滅の刃』の大ヒットを見ると、和風趣味は先見性があったと言えるかもしれません。
一方でワノ国は日本の伝統文化を持ち上げるような設定ですが、日本社会の悪いところも突いています。日本を美化して自画自賛するだけのクールジャパンとは異なります。日本社会の体質にはうんざりさせられますが、『ONE PIECE』が人気ナンバーワンの漫画になっていることは救いです。
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