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DXと飲食店の注文用タブレット

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  • 林田力
  • 2021/06/13 14:13

Digital Transformation; DXが流行語になっています。飲食店の注文用タブレットからDXを考えてみます。DXはスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」と定義しています。DXは私達の生活の良くするものです。

経済産業省「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドラインVer. 1.0」(2018年)は以下のように定義します。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

これは企業の競争上の優位性に偏った視点です。本来の定義である消費者視点を忘れないようにしたいものです。

DXは紙を電子ファイルにするような単なる電子化ではありません。経済産業省デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会「DXレポート2(中間取りまとめ)」(2020年12月28日)34頁は以下の3段階に区分します。

Digitization:アナログ・物理データのデジタルデータ化

Digitalization:個別の業務・製造プロセスのデジタル化

Digital Transformation:組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化、“顧客起点の価値創出”のための事業やビジネスモデルの変革

DXは変革が求められます。Transformationの意味からは当然です。日本では変化の英語はChangeを先ず連想するでしょう。オバマ大統領はChangeを掲げました。最近では大坂 なおみ選手が記者会見ボイコットに関連して「Change makes people uncomfortable.」とTweetしました。記者会見に出て当たり前という前時代的意識からの変化を主張しています。

英語のTransformは、このChange以上に劇的な変化のニュアンスがあります。それこそ自動車が人型ロボットに変わってしまうくらいの変化です。トランスフォーマーという玩具は正しい命名になります。「Yes, we can change.」は政治のスローガンになりますが、「Yes, we can transform.」では変身物になってしまいます。DXはビジネスモデルやプロセスを変形させるものになります。

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飲食店の注文用タブレット導入は注文を取りに行く店員の労力削減と考えられがちです。ここからはデジタル化以前の工業社会の機械化・自動化も延長線上になります。しかし、消費者の視点では異なります。店員を呼んで注文するというプロセスが不要になります。これは店員を呼ぶことに遠慮がある、呼ぶことが面倒臭いという消費者にとって画期的です。

寿司は江戸時代のファーストフードでしたが、近現代に高級化しました。それを再び消費者に身近な存在にした功労者に回転寿司があります。回転寿司の魅力は注文しなくても寿司が流れてくることです。

「回転寿司で注文しない意地を見せる」という自由律俳句があります(前田理容『冬でも薄着の彼が風邪を引いた』パレード、2021年、13頁)。回転寿司店の中には客が少ない時は寿司を流さずに客に注文させる店があります。客が少ない時は注文を受けてから握った方が店の側には効率的です。しかし、それは事業者側の効率性であり、消費者にとってのメリットではありません。注文しないことが消費者の意地になります。

近時の回転寿司チェーンはタブレットで注文する特急レーン方式が増えています。店員に声をかけなくて良い点は回転寿司も特急レーンも同じです。消費者にとっては店員に声をかけることがハードルです。

寿司以外の分野では効率を重視して、ハンバーガーチェーンのように先に注文する、立ち食い蕎麦屋のように食券制にする方式があります。しかし、これはメニューを見てじっくり選びたいという需要に応えられません。また、追加オーダーという商機を失います。飲食店の注文用タブレットは、ゆっくりメニューを選び、追加オーダーも気軽にできる上に店員に声をかけるハードルがないという価値を提供します。

この飲食店のタブレットと比べるとスーパーのセルフレジは消費者にとって価値が乏しいです。レジ店員は籠から商品を出して会計していき、消費者からみれば自動化されています。セルフレジでは消費者が商品をスキャンする手間が増えます。コロナ禍で対人接触が避けられる点はメリットになりますが、セルフレジは他の客が触れるため、どっちもどっちです。

今はレジ店員の水準が高いため、安心してお任せしていますが、今後は人手不足によりレジ店員の質が下がるかもしれません。その結果、請求誤りが頻発します。そうなるとセルフレジでないと安心できないとなるかもしれません。もしレジ店員という人間がネックになるならばセルフレジが解決策になります。

DXは単なるデジタル化ではなく、イノベーションをもたらすものです。とは言え、イノベーションを難しく考えると何もできません。イノベーションを目指す人は機械化・自動化によるコストカットを一段低いものと軽視しがちですが、機械化・自動化によって人間のプロセスを素っ飛ばすことができれば、消費者には面倒の解決になることもあります。

 

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◆林田力の著書◆

東急不動産だまし売り裁判―こうして勝った

 

埼玉県警察不祥事

 

 

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