コインハイブCoinhive裁判の控訴審判決が2020年2月7日に東京高等裁判所でありました。一審の無罪判決を破棄する逆転有罪判決で、罰金10万円を言い渡しました。弁護側は上告を表明しています。既成事実を追認することで問題なしとする公務員感覚丸出しの残念な判決と感じます。
コインハイブはWebサイト閲覧者のパソコンの処理能力を用いて仮想通貨マイニングを行うプログラムです。このコインハイブをサイトに設置したウェブデザイナーが2018年2月に神奈川県警から家宅捜索を受け、3月末に不正指令電磁的記録に関する罪(コンピュータ・ウイルスに関する罪)で罰金10万円の略式命令を受けました。ウェブデザイナーは不服として裁判を請求しました。一審の横浜地裁(本間敏広裁判長)は2019年3月27日に無罪を言い渡しました。横浜地検は無罪判決を不服として2019年4月10日付で控訴しました。
この事件は刑事事件化することが非常識と感じます。ウェブデザイナーはコンピュータ・ウイルスに関する罪とされますが、コインハイブは、そもそもコンピュータ・ウイルスとは概念的に異なります。似ているから罪にするという類推解釈は、罪刑法定主義が禁止しています。
ウェブデザイナーは以下のように指摘します。「警察の人からは「事前に許可(もしくは予感させること)なく他人のPCを動作させたらアウト」というような説明を受けたのですが、解釈がめちゃくちゃアバウトで「不正な指令」についてまるで考慮されていないことがわかると思います。これだとアドセンスどころかアナリティクスやオプティマイズ、世の中のいろいろなJSがアウトですし、予感というのもリテラシーによって大いに幅があります」(「仮想通貨マイニング(Coinhive)で家宅捜索を受けた話」doocts 2019年1月7日)
現実問題としてポップアップ広告などJavaScriptでPCのリソースを消費する広告はいくらでもあります。HTTP通信をテレビのように一方的に決まった情報を送るだけの機械と考えるならば幼稚です。結局のところ、警察や検察が違法と考えるから違法であるという理屈にしかなりません。それを裁判所が追認する背景には、略式命令が出ており、同様な処分を受けた人々も多数存在するために無罪判決にすると面倒なことが増えるという公務員感覚になるでしょう。
この事件は無罪判決が検察官控訴により、有罪判決になりました。これもグローバルスタンダードからは異質です。日本国憲法第39条は「何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない」と定めます。これは二重の危険を禁止したものとされます。国家が同一の事件で市民を二回以上も刑事上の危険に晒してはならないとの原理です。
日本では一審と控訴審は同一の事件の手続きであり、検察官控訴は問題ないと扱われていますが、これは世界的には異質です。検察官控訴を禁止したり、検察官控訴は法律問題に限ると制限したりしています。控訴審を官僚的なヒエラルキーではなく、誤判救済のための砦というグローバルスタンダードの人権感覚で見るならば、検察官控訴による逆転有罪判決の異常性が理解できます。