新型コロナウイルス感染症(COVID-19; coronavirus disease 2019)は経済や社会を大きく変化させました。今までとは違うWithコロナのNew Normal時代に突入しました。大きな範囲で需要が変化し、全ての業界が急速かつ柔軟な環境変化に対応する必要があります。消費者の生活意識や消費行動の変化に適応する必要があります。
これまで人が集まることは賑わいや活力と捉えられていましたが、New Normal時代は密集・密接・密閉の3密を作ると忌避されるようになります。人口密度の高さはメリットからデメリットになるかもしれません。不動産業界も大きな構造変化に巻き込まれます。
不動産売買は様子見の傾向が強まり、地価下落圧力が強まるでしょう。もともとコロナ以前の不動産市場はバブル気味と評価されており、アフターオリンピックの地価下落が確実視されていました。不動産不況は「来るか否か」ではなく「いつ来るか」 の問題です。
日本では率直な見解は海外メディアが先に表明する傾向があります。3月の時点で東急不動産が東京オリンピック・パラリンピック延期で大きな打撃を受けると指摘されました。文中のHARUMI FLAGは晴海五丁目西地区第一種市街地再開発事業です。
「地元のIR候補の中で最も大きな打撃を受けたのは東急不動産であり、その株価は過去1か月間に40%以上の価値の損失を被ってしまった。オリンピック村の五輪後の形態であるHarumi Flag(ハルミフラッグ)がオリンピック延期の影響を受けた場合、同社は120億米ドル(約1兆2900億円)の借金の借り換えを検討するか、20億米ドル未満(約2150億円)の現金を掘り下げる必要があるかもしれない」(ダニエル・チェン「新型コロナウイルスと東京五輪、IR計画を脅かす」AGB NIPPON 2020年3月20日)。
7月には住宅ジャーナリストの榊淳司さんが、不動産業界のコロナ倒産が2020年8月以降に本格突入するとの予想を表明しました。「アレコレ思いを巡らすと、東京の不動産市場は秋以降に急速に不安定化しそうな気配を感じる。様子を見ている個人のプレーヤーがパニック売りに走るのは、今年の終わりから来年あたりか。さらに深刻な下落は来年の春以降ではなかろうか」(榊淳司「不動産業界のコロナ倒産、8月以降に本格突入か」ZAKZAK 2020年7月27日)
この記事の上手いところは最初に不動産業界のバブリーな現状を書いているところです。「持続化給付金とかその他いろいろもらえるものをもらったら1000万円近くになりました」など不動産屋の羽振りの良い状況を描写します。その財源は税金か赤字国債です。真面目な納税者にとって愉快な話ではありません。不動産業界のコロナ倒産に同情心を起こさないようにしています。
近時は政府が紙幣を刷って配布すれば皆がハッピーになるというナイーブな見解が一定の支持を得ています。しかし、上記の不動産屋の羽振りの良さに対して不快感を抱くことは健全な経済感覚を持った多くの人々の反応でしょう。この事実が、政府が紙幣をばらまいても上手くいかないことを示します。社会の公正さに対する信頼を維持できなくなるでしょう。
Withコロナ時代に現代貨幣理論Modern Monetary Theory; MMTのような理論の支持が広がることは滑稽です。MMTへの大きな批判はインフレーションです。田中芳樹『銀河英雄伝説』でジョアン・レベロは紙幣の発行高を増やすと「紙幣の額面ではなく重さで商品が売買されるようになる」と答えました。現実に日本では江戸時代に荻原重秀の貨幣改鋳でインフレが起きました。インフレが起きることは直感的に理解できるものですが、MMTの支持者はインフレが起きないということを長々と力説する傾向があります。
Withコロナ時代はインフレだけが問題でないことも明らかにしました。緊急事態宣言下は、いくら現金を持っていてもイベントや旅行などの消費ができませんでした。私達はインフレーションが起きなくても、貨幣の意味がなくなってしまう経験をしました。貨幣は財と交換できるから価値があり、貨幣だけを増刷しても問題解決にはなりません。第二次世界大戦後のインフレも財の絶対量の不足や流通の機能不全が背景にありました。
閑話休題。記事はマンションデベロッパーが「継続企業の前提に関する注記」(GC注記)を記載したことに言及します。現実に株式会社THEグローバル社は2020年5月15日公表の2020年6月期第3四半期決算短信でGC注記を記載しました。
「物件の販売、ホテルの稼働回復等、業績に影響を及ぼす期間を予測することが困難であり、これに伴い事業継続資金が必要になることも想定されますが、現時点では金融機関等からの新たな資金調達について確実な見通しが得られている状況にはありません」(株式会社THEグローバル社「継続企業の前提に関する事項の注記についてのお知らせ」2020年5月15日)
GC注記は継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在する場合の情報開示です。営業赤字の継続など企業が将来に渡って事業を継続する上で問題がある場合に財務諸表に注記をつけ、リスクの内容を開示します。GC注記は企業経営に黄信号が点灯したことを意味します。GC注記までには至らないが、事業継続に重要な疑義を生じさせる事象がある場合は「継続企業に関する重要事象」を記載します。
THEグローバル社は有利子負債が2019年6月期末時点で400億6,400万円でした(「THEグローバル社(東証1部)がGC注記、コロナで業績悪化」東京商工リサーチ2020年5月19日)。コロナ以前から構造的な問題を抱えていたと言えるでしょう。
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埼玉県警察不祥事