令和最初の年越し、西暦2020年代の幕開けは日産自動車のカルロス・ゴーン(Carlos Ghosn)前代表取締役会長の出国が話題となりました。ゴーンさんは日本の司法制度の非人間性を指摘しました。それは事件の発端である日本版司法取引にも当てはまります。
ゴーンさんとグレッグ・ケリー代表取締役が有価証券報告書の虚偽を記載したとして金融商品取引法違反容疑で逮捕されました。これは日本版司法取引(協議・合意制度)によるものです(「逮捕の取締役「虚偽」指示…執行役員ら司法取引」読売新聞2018年11月20日)。
司法取引と言えば自分の罪を認める代わりに刑を軽くするイメージがあります。ところが、日本版司法取引は似て非なる制度です。自分の罪ではなく、他人の捜査や公判に協力する見返りに、刑の減免を受けるチンコロ型です。道徳的に問題があります。
司法取引は組織犯罪対策の名目で導入されました。司法取引は半グレ・ヤンキー集団や危険ドラッグ密売組織など組織実体が不明な反社会的集団を追及する武器になります。ところが、実際の運用は建前とは異なります。企業が個人に責任を負わせるために利用されています。
司法取引の初適用は、三菱日立パワーシステムズの元取締役などが行ったタイ公務員への贈賄事件でした。企業は元取締役に対する捜査に協力する代わりに不起訴になりました。ゴーンさんの事件も三菱日立パワーシステムズ事件と同じく会社が個人を突き出すパターンです。
東京地検特捜部は6月の司法取引制度開始直後から制度の適用に向けて具体的な手続きを進めていたとされます(「日産役員と司法取引…制度開始後即座に動いた特捜部」テレビ朝日2018年11月25日)。最初から司法取引の利用法として会社に個人を突き出させるパターンを考えていたのではないでしょうか。司法取引で会社が免責されるならば、問題が起きれば生贄を差し出せば良いとなり、コンプライアンスやガバナンスは吹っ飛んでしまいます。
これを半グレ・ヤンキー集団や危険ドラッグ密売組織に当てはめれば不合理は明らかです。組織の人間を突き出せば、半グレ・ヤンキー集団や危険ドラッグ密売組織自体を見逃すことになります。伝統的な暴力団と警察の取引と変わりません。犯罪を行った暴力団幹部が末端組員に「お前、自首してこい」と言うことが公権的に行われることになりかねません。組織犯罪を追及するどころか、組織犯罪を存続させる制度になってしまいます。