吉本興業は闇営業問題でブラック企業体質を露呈しました。この吉本興業の組織体質に迫った書籍が、竹中功『吉本興業史』(角川新書、2020年)です。著者は吉本興業で広報を担当していました。吉本興業の歴史を踏まえて、組織体質を明らかにします。
本書は芸人を大事にする家族主義経営だった吉本興業が何故、ブラック企業と批判されるようになったのかという問題意識に立っています。宣伝文には「温かかった“ファミリー”は、なぜ“ブラック企業”と指弾された」とあります。組織が拡大するにつれて芸人とのコミュニケーションが乏しくなり、距離が拡大したという論調はステレオタイプを感じます。
そもそもの問題設定が正しいでしょうか。家族主義経営とブラック企業を真逆のものと考えるから、何故となります。これに対してブラック企業を家族主義経営の延長線上と考えれば疑問ではなくなります。
家族主義経営はステークホルダーを個人と扱わず、共同体の一員と見ます。それ故に共同体の秩序を乱す存在と認識されたら、パワハラ体質をむき出しにして排撃します。家族主義経営が崩壊したからブラック企業になったのではなく、家族主義経営だからブラック企業になりました。昭和の価値観では許容されていたかもしれませんが、ダイバーシティの21世紀ではブラックになります。
新型コロナウイルス感染拡大の影響でNHK大河ドラマ『麒麟がくる』は2020年6月に放送を休止しました。その間に過去の大河ドラマをダイジェスト放送しました。1973年放送の『国盗り物語』には「疲れ死にする奴はそれだけの器量よ」と21世紀では問題になりそうな台詞があります。昭和時代にはブラック企業という言葉はありませんでしたが、ブラック企業は普通に存在したのでしょう。21世紀に昭和の感覚のままでいるとブラック企業と批判されることになります。
林田力「吉本興業・岡本社長のパワハラ言い訳は何故腹が立つか」ALIS 2019年7月28日
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