櫻井豊『人工知能が金融を支配する日』(東洋経済新報社、2016年)は人工知能AI; Artificial Intelligenceが金融業界で利用される未来を論じる書籍です。株式などの金融商品を売買するトレーダーがAIに取って代わる未来は現実化しつつあります。さらに多くの仕事が人工知能の対象になると予測されています。
本書のタイトルは「人工知能が金融を支配」であり、AIの発達に悲観的なイメージを抱きたくなります。しかし、AIによる判断は人脈コネが物を言った社会からの解放というプラス面があります。AIトレーダーの登場も金融取引が人間のブローカーを通じてではなく、電子取引で行われるようになったためです。ブローカーを介するとブローカーの不正問題を考えなければならなくなります。それよりは電子の方がまだ消費者にとって正直と見ることもできるでしょう。
好むと好まざるとにかかわらず、AIは発達し、普及していく。ところが、日本は遅れています。経験と勘に頼りがちです。旧大蔵省の旗振りの護送船団方式によって、横並びの行動に慣れてしまい、イノベーションを起こせなくなっています。ロボットや人工知能を人間的に考えるところが日本の強みと考えられていたが、それはAIを道具として活用していく上で弱みになります。
本書は悲観的な将来予想として、AI技術が一握りの人や企業に独占されることを指摘します。この懸念は既に多くの指摘があります。GAFA; Google, Amazon, Facebook, Appleのような巨大IT企業への批判はAI以外の面でも根強いものがあります。しかし、古代から現代に至るまで市民の人権を侵害する最大の主体は国家です。巨大ファンドやIT企業の登場は、国家を相対化するという面があります。巨大ファンドやIT企業への批判は、権力を独占していた国家の側の既得権擁護の側面があり、消費者がそれに乗せられないようにしたいです。
別の未来予測として優れた技術が広く共有化されるケースがあるとします。そこでは個々の金融機関による競争の意味が薄れ、公共的なサービスという側面が強くなるとします。しかし、キャピタルゲインの投資は儲かる人と損する人の出るゲームであり、勝ち負けが存在します。新たなアルゴリズムの開発などイノベーションも存在します。競争はなくならないのではないでしょうか。