教育・子育て

積極的な医療検査により冤罪を防ぐ 質量分析・遺伝子解析の結果無罪となった虐待疑い2事例

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  • 林田力
  • 2023/08/18 11:31

日本弁護士連合会がシンポジウム「積極的な医療検査により冤罪を防ぐ 質量分析・遺伝子解析の結果無罪となった虐待疑い2事例」を2023年8月18日に対面とオンラインのハイブリットで開催されました。リアル会場は弁護士会館2階講堂「クレオ」BC(東京都千代田区霞が関)で、オンラインはIBM video streamingで配信されました。

 

子どもの虐待は大きな社会問題です。たとえば2018年には埼玉県警熊谷署地域課の巡査が「泣きやまないことから感情が噴出し」、生後3カ月の乳児を10回程度揺さぶって死なせた事件が起きました。一方で児童相談所や警察が定型的に虐待と決めつけた冤罪が起きています。

 

シンポジウムでは無罪判決事例を題材として、SBS; Shaken baby syndrome / AHT; Abusive Head Traumaの虐待疑い案件の問題点を提示しました。SBS/AHTは乳幼児の頭部損傷という特定の要件があると暴力的な揺さぶりがなされたと推認し、虐待を認定する仮説です。この仮説によって事故や病気なのに虐待とされた冤罪事件が起きています。

 

シンポジウムは二つの基調講演がありました。

第一に川上博之弁護士の「SBSを中心とする虐待疑い事案の問題点」です。予定では宇野裕明弁護士ですが、川上弁護士に代わりました。

第二に川上弁護士、岡本伸彦医師(大阪母子医療センター 遺伝子診療科)、後藤貞人弁護士の「担当した2事例の報告」です。無罪判決の2事例は大阪地裁2022年12月2日判決と大阪地裁2023年3月17日判決です。

 

当事者や弁護人が無罪立証・原因解明をしなければならない状態です。推定無罪とは真逆の実態があります。無罪判決の事例では亡くなった赤ちゃんのへその緒を使って遺伝子検査し、遺伝子変異があったことを立証し、死因が虐待ではなく、遺伝子変異によるものとされました。

 

以下の質問がなされました。「検察官の見立てた原因(虐待など)に疑いがあれば、それだけで無罪になるのではないか。弁護人から反対仮説を示す必要はあるか」。これは反対仮説が必要と回答されました。

 

続いてパネルディスカッションです。秋田真志弁護士、笹倉香奈甲南大学教授、古川原明子龍谷大学教授、徳永光獨協大学教授が登壇しました。コーディネーターは陳愛弁護士です。最初に日弁連刑事弁護センター「SBS/AHTが疑われた事案における相次ぐ無罪判決を踏まえた報告書」(2023年3月)を紹介しました。

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 報告書では14頁以降で「日弁連刑事弁護センターが把握しているSBS/AHT事案の一覧」をまとめています。否認・自白事件の判決の一覧です。時代が下ると無罪判決が増えています。無罪判決の理由は時代が下ると犯人性の否定から、事件性の否定に移る傾向があります。犯人性の否定は揺さぶりを認めながら、起訴された被告人が揺さぶりをしたとは認められないというものです。事件性の否定は揺さぶり自体が存在しないというものです。

 

シンポジウムの共催は一般財団法人イノセンス・プロジェクト・ジャパン、龍谷大学犯罪学研究センターです。イノセンス・プロジェクト・ジャパンはヒューマン・ライツ・ウォッチと共に刑事司法に関する共同プロジェクト第1回シンポジウム「人質司法を考える」を開催しました。

 

日弁連刑事弁護センター報告書は以下のように書きます。「被疑者、被告人とされる養育者は、乳幼児の急変に驚き、子どもを守れなかったという自責の念などから、誤った自白に陥るリスクも高いといえる。取調べへの弁護人立会いを認めるなどの配慮も検討されるべきである」(12頁)。取り調べへの弁護人立ち会いは「人質司法を考える」でも指摘されました。問題意識が重なります。

 

日本の医学界ではSBSが通説化していました。子どもを病気で病院に連れて行ったら、SBSと診断されて、虐待と決めつけられた例があります。カナダでは無罪判決を契機として、全てのSBS有罪判決の再調査を行いました。SBS仮説の問題点を明らかにした書籍が刊行されています(Keith A Findley, Cyrille Rossant, Kana Sasakura, Leila Schneps, Waney Squier, Knut Wester,  Shaken Baby Syndrome: Investigating the Abusive Head Trauma Controversy Cambridge University Press 2023.)。SBS仮説自体がエビデンスに欠けるという主張が出ています。海外に比べて日本が遅れている点も人質司法に重なります。

 

冤罪被害者が発言しました。「警察や児童相談所は話を聞いてくれませんでした。児童相談所の対応は酷かった。母親と引き離された経験がトラウマになっています。夜中に泣き叫び、母親を探して夜中に飛び出しました。子ども達は母親と引き離された経験を忘れていないと思います。冤罪をなくしていくように社会全体を動いていくことを願っています」。辛い経験を思い出しながら話しており、非常に辛そうに語っていました。

 

冤罪に加えて親子分離の問題があります。秋田真志、古川原明子、笹倉香奈『赤ちゃんの虐待えん罪 SBS(揺さぶられっ子症候群)とAHT(虐待による頭部外傷)を検証する!』(現代人文社、2023年)には子どもと引き離された親の苦しみをまとめています。警察や児童相談所が医師のSBSの診断が科学的に間違っていると再検証しようとしていません。乳児の時期に親子が分離されることは子どもの成長にも悪影響を及ぼします。

 

虐待認定にエビデンスに欠ける医師の判断をベースとしたAI; Artificial Intelligenceが導入されて、虐待の冤罪が起こることを危険視する発言がなされました。市民学習交流会「子どもにとって教育のデジタル化は何が問題か?」でも子どもの進路決定にAIが使われる危険性が指摘されました。AIを利用する場合は、入力データやアルゴリズムが妥当か、偏りがないかの説明責任が問われます。

 

 

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