DAO(ダオ − Decentralized Autonomous Organization)に関するお話です。 DAOは、自立分散型組織と訳され、株式会社に変わる新しい組織として最近話題になっています。 2022年は、『DAO元年』になりそうな予感をヒシヒシと感じます。
私が先日立ち上げた、DAO化を目指すオープン・プロジェクト「NFTJPN」(エヌエフティ-ジャパン)の立ち上げの体験を通じて、現時点で共有できそうな知見を得たので12項目にまとめました。 DAOを作る際などの参考になれば幸いです。
DAOをはじめるとき、「何を実現するためのコミュニティなのか」のビジョンを打ち出すことはとても重要です。
NFTJPNのビジョンは、「日本のNFT作品を海外コレクターに購入してもらいたい」です。
立ち上げ当時の情勢を振り返ると、 「日本には素晴らしいNFT作品がたくさんあるのに、なかなか海外コレクターにリーチしていないよね」 という課題を、多くの人たちが感じ始めていた時期だったように思います。
ならば、 みんなで力をあわせて海外コレクターとの関係を構築すれば、上手くいくのではないか? と考え、NFTJPNの企画案をTwitterでつぶやいたのでした。
みんなで「共通のハッシュタグ」を作り、選抜作品を「Twitter投稿」をするというシンプルなアイデアです。
もし、単に「DAOやってみたい」だけでは人は集まらなかったと思います。 多くの反響をいただけたのは、ビジョンが明確で、みんなが叶えたいこととマッチしたからだと考えています。
DAOの運営は、基本的に「来る者は拒まず、去る者は追わず」という思想で進めることになります。 すると、どうしても参加者間のリテラシーに差があったり、途中参加でプロジェクトの情報を網羅的に理解していない人が出てきます。 それは仕方が無い事なのですが、参加者間の情報格差が広がりすぎると、上手く機能しなくなってしまいます。
基本的に、DAO内でのやりとりはすべてネット上のテキストベースの非同期コミュニケーションが主です。 顔をつきあわせての対面コミュニケーションはおろか、通話などの同期コミュニケーションをとることも少ないのです。 そのため、情報伝達に齟齬が生じないように、円滑なコミュニケーションをデザインすることが大切です。 そこで大切になるのが、「シンプルさの徹底」です。
NFTJPNでは、開始1ヶ月で800名を超える参加者が集まりました。 実際に起きた事例ですが、 当初予定していたTwitter投稿に加えて「Instagram投稿もしよう!」などの前向きな案も出てきます。 こうした選択肢が増え複雑化する案は、ことごとく保留にしてきました。 ちょっとしたことですが、参加者の人たちがプロジェクト全体像を掴みづらくなることを避けたいからです。
プロジェクト全体としてこなれてくるまでは、初見の人でもプロジェクトの全体像がすぐに理解できるように「シンプルさを保つ」ことが、非常に大切なのです。
「DAOを実現するための、明確なテンプレ―ト」は、まだ確立されていません。 「Loot」のように、ビジョンとシステムを世に放ったら、あとはコミュニティが勝手に自律分散的に機能してDAOが始まる、というパターンは究極の理想形でしょう。 ただ、これは世界トップクラスの影響力の持ち主だけがなせる技であり、理想論です。
関連ページ:Loot(OpenSea)
NFTJPNを進める上で私がイメージしたのは、イーサリアムにおけるヴィタリックのような初期の旗振り役です。
ヴィタリック Vitalik Buterin(イーサリアムの共同創設者) @VitalikButerin
「DAOを目指す」と宣言した上で、ビジョンと仕組みを構築しながら、途中まで旗振り役がトップダウンで進め、徐々に権限を分散化させていく。 このやり方は、ビジョンやその実現方法が明確な場合は、「行うべきこと」や「スケジュール」がクリアになって、プロジェクトの成功率が高まると考えます。
NFTJPNでは、ガバナンス投票にまつわる権限など、徐々に裁量を分散化していくように段階的にDAO化を進めていっています。
DAOにおいて、「ボランティア(無償活動)ではない」ことは欠かせないせない要素です。 「プロジェクトに参加することで、経済的リターンも期待できる」ことは、DAOが新しい組織体系として注目を集めている大きな理由の1つなのです。
インセンティブ設計として、コミュニティの行く末を決める投票権にあたる「ガバナンス・トークン」を、参加者に配布することが定番です。 プロジェクトの時価総額に連動するケースが多いです。
ストック・オプションのようにふるまい、プロジェクトが成功すると、参加者に経済的なリターンを設計できます。 ガバナンス・トークンに価値が付けば、タスクへの対価支払いも行えます。
NFTJPNでは、同様のコンセプトで「ガバナンスNFT」という投票権をコミュニティの参加者に配布することを予定しています。 DAO参加に興味ある方は、Twitterアカウント @paji_a までDM・リプライください!
DAOをはじめるときに、「ビジョン」を語って人が集まってきたら、その瞬間からは時間との戦いです。 ビジョンに共感した「熱量」は時間が経つたびに減っていくため、実際に動くものをいち早く作って、「言っているだけではないこと」を示すことが、参加者の「熱量」をより高め、信頼を得るためにとても重要です。
NFTJPNの場合、火曜日にTwitterのつぶやきでビジョンと実現方法を書いたあと、直後にDiscordを立ち上げ、その週末の土曜日と日曜日に、イベント形式の「プレ運用第1弾」を開催することにしました。 1週間以内を意識しました。
「日本のNFT作品を海外コレクターに買ってもらう」というビジョンを達成するためのアプローチは無数にありますが、最小の方法はTwitterとスプレッドシートの”ありもの”だけでイベントを開催することでした。 素早く実現し、参加者の目に見える形でプロジェクトを一緒に動かすことで、初期の熱量が保たれたと感じます。
NFTJPNは段階的にDAO化を目指すオープン・プロジェクトとして発足させたこともあり、当初はトップダウン方式で「ビジョン」を実現する体制を固めていきました。
「プレ運用」イベントを行うときに必要となる役割から、登場人物を整理し、Discordチャンネルを役割ごとに作りました。
クリエイター 審査員 海外コレクターへの営業 システム開発 イベント運営(目視班/連絡班) SNS運用 スポンサー などです。
会社でいう、部署のようなイメージです。
これにより、役割に応じた必要なスキル・ステータスや稼働時間がクリアになっていき、コミュニティの参加者が「自分だったら何に貢献できるか」が明確になりました。 「プレ運用」を実施するために必要なタスクや懸念点も整理され、自律していったのです。 特に、「人力作業を軽減するシステム」や「イベント運営マニュアル」が作られた”事件”は、DAOの可能性を感じた瞬間でした。
運用が始まったあとは、コミュニティの参加者全体で、定期的な振り返りによって、改善点や解決策が見つかり、ビジョンを実現するためのアプローチの精度が高まっていきます。
NFTJPNの場合、プレ運用したあとの振り返りで以下の点などが浮き彫りになりました。
・ビジョンの実現に向けて、足りていない部分(例えば、海外コレクターに認知を広げるための直接的なアプローチ)
・かかわる人たちの負荷が大きすぎる問題(プレ運用第1弾では、審査員1人平均10時間以上の稼働。応募データを確認する目視班が、5~10名体制で丸2日間張り付いた、など。)
こうした課題への対策として、
・英語堪能なメンバーによる海外コレクターへの直接ヒアリングを行う機運が高まったり、
・応募フォームを改良したり、
・システム開発で目視班/審査員の手間を大幅に削減したり
と、イベント開催ごとにPDCAが回る流れとリズムを確立していきました。
DAOを盛り上げていくには、常にたくさんの人にコミュニティに参加してもらい、ビジョンの実現のために”ボール”を一歩でも前に進めてもらうことが大切です。 その時に大切になるのが、「行動指針」です。
NFTJPNでは、プレ運用後の振り返りで、「海外の有力コレクターへのアプローチを加速させていきたい」という話をしていました。 ちょうどそこへ、ミスビットコイン・藤本真衣氏(@missbitcoin_mai)が現れました。 著名な海外コレクター・WhaleShark氏にNFTJPNを紹介してくださり、フォローまでしてくれたことで、コミュニティが沸き立ちました。
コミュニティの内外で、ことあるごとにプロジェクトの「ビジョン」と、自分たちが置かれている「現在地点」を伝え続けていく。 そうすることで、参加者が状況を把握して、行動に移しやすくなります。 そして、「”ボール”を前に進める人が素晴らしい」という雰囲気も、あわせて醸成できると理想的です。
あらゆるDAOにおいて、立ち上げから運用まで軌道に乗せるためには、必須な要素があると感じます。
箇条書きで10個を列挙します。
①ビジョンを伝える力(言語化し発信する力)
②広報力(SNSなどでのリーチ/影響力)
③ITツールの使いこなし力(Discord/スプレッドシートほか)
④プロジェクト・マネージメント力(全体設計、役割分担)
⑤ディレクション力(進行管理、コミュニティ管理)
⑥Web3理解度(DAO、ガバナンス・トークン知識ほか)
⑦ドキュメンテーション力(共有やナレッジの蓄積ほか)
⑧事業グロース力(プロダクトやサービスのロードマップほか)
⑨バックオフィス力(法律・税務の知識、人事・総務など)
⑩パッション(行動力/実践力/スピード感など)
これらは、1人ではなく、複数人でカバーしていく前提で、DAOメンバーの役割分担をしていくと良いでしょう。
DAOはその性質上、ネット上でのコミュニケーションが中心となります。 また、常に新しい参加者が増えていくことで、実行可能なことが増えていきます。 そのため、内に閉じるのではなく、適切に外へ外へとコミュニティの盛り上がりを伝えていくほうが、理に適っています。
NFTJPNでは、月1回のプレ運用イベント時に、クリエイターや審査員の方たちによって、Twitter上でハッシュタグやツイートが自然となされるようにコミュニケーションが設計されています。
また、作品応募時にデータの間違いがあったときには、運用メンバーの個人のTwitterアカウントから、クリエイターへ連絡しています。 このプロセスを敢えてオープンに行うことで、同時にイベントの盛り上がりを伝えることにも繋がっているのです。
オープンにできることはなるべくSNSで行うという意識を持つと、新たなコミュニティ参加者を巻き込むことに繋がるわけです。
どんなに熱狂的なDAOでも、タイミングによってはDiscordチャンネル内で人が閑散として、盛り下がっているように見える時期があります。 こうしたときに、場の空気を察して、盛り上げられる人たちがいると、心地よいコミュニティが醸成されていきます。
新しい参加者がいると、みんなで温かく迎えてくれるなど、気遣いができる人たちがいると、コミュニティの空気感がまったく違ったものがあります。
また、新しい参加者も書き込みしやすい「雑談」の場は、気楽に関連するニュースや粗いアイディアを投げ込むときに重宝します。ビジョン達成に一直線で進みすぎると、”一部の人”だけのコミュニティに見られがちになるので、要注意です。
コミュニティ参加者の大半は閲覧中心なので、こうした雰囲気づくりを行える「コミュニケーター」の役割は重要だと感じます。
NFTJPNを立ち上げてみてよく分かったのですが、 「これは難しいかもしれない」と思うことでも、とりあえずコミュニティに問いかけてみるのが良いということです。 誰かからスマートな解決策が返ってきたり、それを実現できる人が参加した、などのミラクルが起こることがあります。
たくさんの人たちが集まるDAOの可能性のひとつが、ここにあります。
・通常では考えられない多くの人手
・専門性やスキルを持ったハイパーな人たち
・投資家ばりの経済的支援ができる人
など、これまでの組織の枠組みを超えた繋がりがあります。
一見すると実現不可能に見えることであっても、これらの人材が結集 ビジョンのもとに実現可能になってしまうことがあるのです。
そのためには、役割にこだわらず、率先して「困りごとを共有し合う」ことが大切です。 そういうコミュニケーションが、「だったらこういう解決策があるよ」というやりとりを発生させるきっかけになります。 フラットな関係で、支え合う仲間という意識で接すると進めやすいと思います。
※この記事は、パジ(@paji_a)の発信をもとにかねりん(@kanerinx)が編集してNFT記事化しています。
※この記事の元投稿は、HiDΞで連載中のマガジンです。(JPYCの投げ銭も可能)