今回は「国内NFTは、なぜプライベートチェーンなのか?」について解説します。
先日、楽天が「Rakuten NFT」というNFTマーケットプレイス事業をローンチしました。
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特徴のひとつとして、パブリックチェーンではなく、プライベートチェーンだという点が挙げられます。 イーサリアムチェーンのような世界中に分散化された、純度の高いNFTではなく、楽天という会社が中央集権的に管理するプライベートチェーン上のNFTだということです。 楽天に限ったことではありませんが、なぜ、国内NFTサービスは「プライベートチェーン」なのでしょうか?
その答えは、やむにやまれぬ事情があるものと推察します。 日本国内において、大企業が一定規模の継続事業として、スピード感を持ってNFTに取り組む場合、プライベートチェーンの選択肢しか無いというのが現実なのだと思います。 何でパブリックチェーンじゃないんだ!というご意見はもっともだと思いますが、少し見方を変えればポジティブな面も見えてきます。 プライベートチェーンのNFTサービスを呼び水として、これまでブロックチェーンに馴染みの無かった幅広い一般客層や企業が、パブリックチェーンNFTに目を向けてくれるきっかけになると思われます。 純度の高いパブリックなNFTに向けて、大勢の人達が一歩ずつ階段を登って来てくれる、そんな歓迎すべきムーブメントなのかもしれません。
「世界に通用する日本の大企業、日本発IPがNFT化され、世界を席巻する!」。 これは、NFTの可能性を信じる人なら、IPの権利を持たない企業や個人でも、誰もが夢見る未来だと思います。 だからこそ、技術選択において”世界標準”にかなっていなような一手(パブリックチェーンではなく、プライベートチェーン)を見てしまうと失望も大きくなるのだと思います。
参考記事:既存IPはNFTをどのように攻略していくべきか 参考記事:NFTの純度について ―フルオンチェーンとパブリックチェーンどちらが良いか?―
皆さんにお伝えしておきたいことがあります。 私の観測範囲では、「Web3・NFT・DAOの概念を深く研究せずして、何もわからずプライベートチェーンを選択している」、このような企業担当者の方には出会ったことがありません。 サービス担当者の方々も、”将来はパブリックチェーンが中心になる”ということは、当然理解しています。 しかし、現実問題、実現可能なラインとして、プライベートチェーンに着地させている印象です。 ここ1~2年でNFTに取り組むとしたら、社内的に通せるのは、ここしかないと、賢明に着地させているイメージです。
海外では大きな市場のパブリックですが、国内対象にビジネスをしている企業にとっては、国内はまだ大企業が取り組むほどの市場規模はありません。 未来の投資としての”パブリックチェーンで実証実験”と銘打っても弱腰と言われてしまうので、”プライベートチェーンでNBA Top Shotの再現を狙う”というのは、現実的にベターな意思決定になり得ます。
希少性の高い1点モノの作品をNFT化して、数千万円〜で海外販売してみる等、一部の商材であれば、パブリックを活用できるケースは大いにあります。 ただ、既存の国内のファンも踏まえてNFT購入未経験者にいかに気軽に触ってもらい、消費者の安全性を保てるか?という視点で考えると、無難にプライベートを選択したくなります。
皆さんも、「パスワード忘れ」を一度は経験したことがあるでしょう。 パブリックで展開するということは、「パスワード忘れ」したら銀行口座に誰もアクセスできないハードボイルドな世界。 これを、若年層からお年寄りまで網羅して積極的に使ってもらうなどということは、ロジカルな社内説得は厳しいでしょう。
二次流通で高値がつくことで、一種の投資・ギャンブルのようになることもありますよね。 NFT化する作品やコンテンツ自体は”どうでもいい”、という状態になると、有力ブランドやIPとコラボ担当としては立つ瀬がなくなってしまいます。 現実的なバランスを考えると、二次流通は無し、あるいはプライベートならではの”上限価格”を決めるような制限をするところに落ち着きます。
もしもパブリックでローンチし、うまくワークしたとしても、最終的に購入したファンが二次流通で大きな転売益を上げてしまった場合、どのような問題が起こり得るでしょうか。 収益を使い込んでしまって納税できず、自己破産が起こるかもしれません。 そのような場合は、サービスを展開する企業側にも、NFT購入時の”説明責任”や承諾の”重点確認”などが論争の的になるかもしれません。 「自己責任でしょ」と一蹴できないのが、責任ある企業ならではの悩みだったりするのです。
このように、「NFTをやらない理由」はいくらでもあるのです。
いま挙げたのは、「パブリックチェーンを使わないほうがいい分かりやすい理由」の、ごく一部です。
こうしたひとつひとつの懸念やリスクに対して、現場担当がどれだけカロリーを消費し、企業内のコンサバな各部門の担当とすり合わせをして、調整をかけらるか。 そこが勝負の分かれ目です。
トップダウンの「NFTをやろう!」も現場から「NFTをやりたい!」も、既存事業の”柱”に悪影響がある場合、その”柱”担当・上層部から自己防衛が働くのが当然です。 そこを突破するには、Web3の本質を確信レベルで深く理解し、圧倒的な熱量と調整力と社内信用力のすべてをぶつける覚悟が必要です。
すでに独自経済圏が強く、”もうひとつの帝国”を作る発想が出発点のケースもありえます。 ただ、それは過去のパソコン通信と、世界のネット企業群を比較すれば、どういう未来が待っているかは容易に想像がつくはずです。 一方で10年先を見越した意思決定をできる大企業は、そんなに多くはありません。
NFTの根幹をなすブロックチェーン技術によって、クリエイターとファンがダイレクトに価値が繋がる世界に入っていきます。 アプリケーションレイヤーさえ”プロトコル”化するとき、中・長期的にはこれまでのビジネスモデルの定番だった手数料ビジネスはダメージを受けます。
・ここ数年を見据えるのか? ・10年先を見据えるのか? ・その両方を狙い、プライベートをパブリックへのステップとして位置づけるか?
など、”山の登り方”はさまざまです。
私は、仮にプライベートであろうと、国内ファンがNFTの魅力や本質を理解する意味で意味があるので、あらゆるアプローチは歓迎すべきこととして、前向きに捉えたいと考えています。
ブランドや、リテラシー水準の高くない既存ファンを背負っていて身動きが取れない状態の大企業を横目に、失うものがほとんどないリスクを張ったスタートアップ的な動き方をするチャンスは、まさに今でしょう。
90年代、起業家ならネットでお買い物ができる未来を想像できていた人は多かったはずです。
当時も、実際に早くから取り組めた人は、とても少なかったのです。 分かっている未来にどれだけ”純度”高く、中・長期的視点でコミットできるのか? そんな問を、自分たちにも向けられているような、大切な事象がたくさん起こっているように感じました。
「NFTに取り組むあなたは、どういう未来に賭けますか?」
※この記事は、パジ(@paji_a)の発言をベースにかねりん(@kanerinx)が編集して記事化しています。
※この記事の元投稿は、HiDΞで連載中のマガジンです。(JPYCの投げ銭も可能)