Twitterのタイムラインを眺めていると、2日ほど前から、コインテレグラフが2018年10月26日に報じた記事へのリンクとともに、「中国でビットコインが財産として認められた」というニュースが流れてきました。
ALISの阿悉さんの記事を基に、僕の記事でもたびたび触れていますが、中国では「仮想通貨」と「ブロックチェーン」を分けて考える「币链分离」が徹底されていて、中国政府の仮想通貨に対する警戒感の強さはよく知られています。
実際に仮想通貨取引所の締め出しやICOの禁止などを進めている中国にあって、今回のニュースはTwitter上で注目されたようです。
こういったニュースが流れたときには、なるべく現地の情報を参照して自分なりの知見を蓄積するようにしていますので、その一端を少し書き留めておきたいと思います。
・深圳国際仲裁院が出した判断の原文は?
・今回の判断が中国全体の方針を変える可能性は?
・タイムリーな情報についてもソースの確認が大切ですね
冒頭に挙げたコインテレグラフの記事には、深圳国际仲裁院(深圳国際仲裁院、SCIA)が微信(WeChat)の公式アカウントに掲載した判断の原文へのリンクが貼られています。
内容を確認してみると、中国や台湾の複数のメディアで「深圳国际仲裁院」発信の情報として報道されているものと同様のものですので、おそらく仲裁院が発信したものとみて間違いないと思われます。
この原文に即して、今回の判断の内容を見てみると、まず、冒頭に掲げられた「案例综述」というレビューには、以下のように書かれています。
①ビットコインと中国の法令との関係性について…
今のところ中国では、法律および行政法規のレベルにおいて、ブロックチェーン技術に基づくビットコインのコンセプト、法的属性、キャッシュフローなどの問題について、なお明確な規定はない。
(目前中国在法律和行政法规层面尚未对基于区块链技术的比特币的概念、法律属性、交付流转等问题作出明确规定。)
②上記①の観点を踏まえて、今回の仲裁事案について…
仲裁法廷は現行の法律体系のもと、「民法総則」と「合同法(契約法)」の関連規定、および契約書による契約に基づき、誠意の原則および当事者同士の自由意思・自治を尊重する仲裁理念にしたがい、ビットコインの財産性を肯定し、法に基づき保護し、私人間のビットコイン契約の紛争を適切に処理した。
(仲裁庭在现行法律体系下,依据《民法总则》、《合同法》的相关规定以及案涉合同的约定,结合诚信原则以及尊重当事人意思自治的仲裁理念,肯定了比特币的财产属性,依法予以保护,妥善处理了私人间比特币契约纠纷。)
まず、①で中国ではビットコインが法制上、明確に位置づけられていないことを確認したうえで、②として「私人」のあいだで交わされた契約において、「ビットコインの財産性」が肯定されていることがわかります。
また、原文にはレビューに続いて、「本案裁判要点」というポイントが4点、まとめられています。
ひとつずつ、内容を見ていくと以下のようになっています。
1.私人間で結ばれたビットコインの返還契約は法的規制の義務規定に違反するものではなく、無効とみなすべきではない。中国の法令は私人がビットコインを所有し合法的に譲渡することを禁止していません。
(一、私人间订立的比特币归还契约并未违反法律法规效力性强制性规定,不应认定为无效。中国法律法规并未禁止私人持有及合法流转比特币。)
2.ビットコインはインターネット上の仮想空間に存在しており、所有および権利変更の公示方法などの点で特殊性を有してはいるが、そのことは配布の対象であることを妨げるものではない。
(二、尽管比特币存在于网络虚拟空间,在占有支配以及权利变动公示方法等方面存在特殊性,但并不妨碍其可以成为交付的客体。)
3.法令がビットコインを定義していない以上、仲裁法廷が「民法総則」第127条が規定する「ネットバーチャルアセット」として認めることはできないが、反対にそれが通貨当局によって発行された貨幣ではないと認めうる。それはまた、法定通貨を電子化したものではなく、利息も生み出さない。
(三、在法律法规就比特币予以定性前,仲裁庭无法正向认定其为《民法总则》第127条规定的“网络虚拟财产”,但可以从反向认定其既不是由货币当局发行的货币,亦不是法定货币的电子化,不产生利息。)
4.ビットコインは法定通貨ではなく、また、それを財産として法律上の保護を受けることを妨げるものではない。ビットコインは財産性を有しており、人力で所有やコントロールをなしうるものであり、経済的価値を有し、当事者に経済的な利益をもたらしうる。これは当事者のあいだで合意した内容であり、法律の規定に違反しておらず、仲裁法廷はこれを認める。
(四、比特币不是法定货币,并不妨碍其作为财产而受到法律保护。比特币具有财产属性,能够为人力所支配和控制,具有经济价值,能够给当事人带来经济方面的利益。这是当事人一致的意思表示,并不违背法律规定,仲裁庭对此予以认可。)
要点はいろいろとあるかと思いますが、基本的な部分として、今回の判断が「私人」間のビットコイン譲渡の問題に関わるものであり、「私人」のあいだでのやり取りにおいて、ビットコインの財産性が認められるというものだ、というところが注目されるところかなと思います。
また、中国の現在の法令のなかで明確にビットコインなどの仮想通貨の位置づけがなされていないという状況をきちんと踏まえていること、つまり、既存の枠組みを超えないような判断がなされていることも、もうひとつの注目点かなと感じます。
今回のニュースが日本のTwitterで注目されたのは、この判断が中国における仮想通貨の姿勢を変えていく可能性があるのではないか?という点にあるのかもしれません。
ですが、僕自身はそうした見方にまで広げて今回の判断を捉えることについては、少し懐疑的、好意的に見積もって、もう少し様子を見る必要があるのかなと感じています。
それは、今回の判断を示した深圳国際仲裁院(SCIA)というところの、中国国内における微妙な立ち位置から考えて、この判断がどこまで支持されるのかなという感触があるからです。
中国の国際仲裁院といえば、「中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)」というところがあり、深圳国際仲裁院はもともと、このCIETACの深圳分会として設置された組織でした。
ところが、2012年に深圳分会は上海分会とともにCIETACから分離し、それぞれ独立した仲裁組織となりました。
このあたりの経緯については、「Chase China & Asia」に掲載された邱奇峰さんの詳細なレポート(日本語)に詳しくまとめられていますが、こうした経緯から、中国国内での深圳国際仲裁院の立ち位置は微妙な問題を含んでいるといえます。
このことから、今回の深圳国際仲裁院の判断が中国全体に波及していくかどうかということについては、やや懐疑的に今のところは考えています。
実際に、中国の国営メディアである「新華社」や「人民网」といったニュースサイトでは、今回の深圳国際仲裁院による判断のニュースは報じられていません。
その代わりに、2018年10月22日に「深圳市福田区人民法院」が「仮想通貨の投資・取引は法律による保護を受けないので、投資者は理性的に判断するように(虛擬貨幣的投資交易不受法律保護,投資者要保持清醒理性。)」という方針を示したというニュースが掲載されています。
人民网の記事は、こちら。
こうした点から、今回の判断が中国の仮想通貨に対する姿勢にすぐさま影響を与えるかもしれないという見通しについては、好意的に見たとしても、今後の動向を引き続き見守っていく必要があるのではないのかなと感じます。
今回のコインテレグラフの記事からソースを確認してみたことは、もちろん誤報だからそうしたというわけではなく、より情報の詳細を理解するために原文に当たってみました。
そうすると、原文がベースとする認識の微妙なニュアンスや、そもそもこの判断を出した深圳国際仲裁院の立ち位置など、ひとつの記事からはわからなかったことを感じることができました。
特に、今回のようなひとつひとつの動きが、今後、どのような動きへとつながっていくかということを考えるためには、現地の情報を幅広く追いかけていくことが大切なんだなとあたらめて思いました。
今後も、台湾・香港・中国の情報をコツコツと追いかけていきたいと思います!