(台北郊外の北投というところは温泉地として有名。写真は日本統治期に作られた「瀧乃湯」です)
情報の安全性と信頼性を確保したうえで、効率的かつスピーディに情報をやり取りするということが、「分散型台帳技術」といわれるブロックチェーンの特性を、存分に発揮することができるように思います。
社会のあらゆる場面を情報技術が支えている現代にあっては、それはあらゆる社会的システムのなかで必要とされる技術だと言えるかもしれません。
たとえば、「流通」ということに関していえば、「食品トレーサビリティ」へのブロックチェーンの導入が世界各国で試みられているように、流通の上流から下流までの情報を安全かつ効率的に活かしていこうという取り組みが進められています。
今回は、こうした動きに関わって、コモディティサプライチェーンをめぐるさまざまな課題を、ブロックチェーンを活用したプラットフォームを構築することによって解決しようとする台湾のスタートアップの動きが目に留まったので、書き留めておきたいと思います。
・台湾の「BSOS」が技術開発をスタート
・コモディティサプライチェーンの解決すべき課題って?
・プロジェクトが結実していくかどうか?
台湾のネットニュースサイト「ETtoday新聞雲」の記事によれば、台湾のスタートアップである「BSOS」が2018年9月6日に台北で記者会見を開き、世界で初めての「大宗商品供應鏈金融的數據交換區塊鏈平台(コモディティサプライチェーン金融データ交換ブロックチェーンプラットフォーム)」の開発を進めていることを明らかにしたそうです。
「BSOS」は「Blockchain for Global Commodity Supply chain Operation System」を略したもので、この社名からもBSOSの取り組みが、コモディティサプライチェーンのためのプラットフォームをブロックチェーンを使って開発するものだということがうかがえます。
BSOSの公式ウェブサイトに掲載されている運営メンバーにはスタートアップらしい若いメンバーが顔を揃えていて、実際に「TechNews科技新報」の記事にも、「團隊成員非常年輕(グループのメンバーは非常に若い)」と書かれています。
ただ、「顧問」として、「台灣金融科技協會(台湾フィンテック協会)」の初代理事長で、亞州大學(Asia University)Chair Professorの王可言さんや、「亞太區塊鏈發展協會(アジア太平洋ブロックチェーン発展協会)」の理事長で台湾大学副教授の廖世偉さんなどが名を連ねていて、二人は記者会見にも登壇していたようです。
いずれの人物も、そしていずれの組織も、台湾のブロックチェーン関連ではよく名前が出てくる人物や組織です。(たとえば、以下の記事などを合わせて読んでいただければ嬉しいです)
これから技術開発を進めていこうという若いスタートアップのプロジェクトですが、台湾のブロックチェーンをめぐるキーパーソンが実質的に参画することで注目されていくのかな…という感じがしますね。
BSOSはブロックチェーンを活用することによって、コモディティサプライチェーンのどのような課題を解決しようと考えているのでしょうか?
上に挙げた「ETtoday新聞雲」の記事には、以下のように説明されています。
目標在透過區塊鏈技術的特性,使得供應鏈內企業在保有完全隱私的前提下,進行可信賴的數據交換,解決供應鏈上下游間的不信任問題,對於提升供應鏈運作效率,穩定企業間的合作關係多所裨益。
(目指すのは、ブロックチェーンの技術的特性を活かして、サプライチェーン上の企業の個人情報を完全に保護したうえで、信頼できるデータ交換をおこない、サプライチェーンの上流と下流のあいだにある不信任の問題を解決し、サプライチェーンの運用効率を向上させ、企業間の協力関係を安定させることへ大きく貢献することである)
「供應鏈上下游間的不信任問題(サプライチェーンの上流と下流のあいだにある不信任の問題)」ということが解決すべき課題として挙げられていますね。
このあたりの課題について、BSOSの公式サイトには以下のような2つの状況が挙げられています。
大宗商品供應鏈產業集中度較低,各主體間缺乏高效的市場供需資訊交換機制,供應鏈整體利益難以最大化。
(コモディティサプライチェーン産業の集中度は比較的低く、それぞれのプレイヤーのあいだには効率性の高い需給関係に関する情報を交換するメカニズムがかけており、サプライチェーン全体の利益を最大化することが難しい)
大宗商品供應鏈因信用機制不完善,交易大多發生在「熟人圈」,限制了交易規模和產業發展。同時,中小型企業更常面臨信用不足、融資困難的問題。
(コモディティサプライチェーンには信用メカニズムが不十分であり、取引の多くが「顔見知り」のあいだでおこなわれており、取引規模と産業発展を制限している。同時に、中小企業は常に信用不足や、融資を受けることが難しいという問題に直面している)
まず、サプライチェーンにおける多様なステークホルダーのあいだでフラットに情報共有できるような状況を生み出し、一体として商品価値の向上に資することが目指されていることがわかります。
そのうえで、固定化されがちなサプライチェーンにおける取引を流動化させることで、中小企業(やおそらく新規参入者)が参入しやすい環境を作るということを目指しているということのようです。
ここにブロックチェーンに基づく情報交換プラットフォームや、トークンを介した中小企業の業界進出を支えていくといった解決方法が模索されているというように理解できますね。
とりわけ、産業構造が固定化されやすいコモディティサプライチェーンに照準を合わせたことからは、より効果的にこうした課題を解決していこうという姿勢がうかがえます。
また、BSOSの公式サイトには、コモディティの産業規模が約10〜20兆アメリカドル、世界のGDPの20%を占めるということが掲げられていますから、このあたりも今回の取り組みに結びついたひとつの要因だろうと思います。
BSOSは2018年7月に、台湾やアメリカのシリコンバレーでネット産業やブロックチェーン関連の企業で働いていた人々によって結成された、本当にまだスタートしたばかりのスタートアップだそうです。
公式サイトに掲載されているマイルストーンには、2018年12月にミニマムな試験的商品の公表、2019年3月にオンラインでの試験運用、2019年9月には具体的な運用事例を上げることを目指しているとのことです。
ホワイトペーパーも公表されていますし、マイルストーンに示された計画の実現に向けて着々と開発を進めていくと思いますが、それがいかに展開していくかということが注目されますね。
とりわけ、市場規模が非常に大きいコモディティのサプライチェーンに切り込んでいくことを目論んでいるわけですから、台湾発のスタートアップがどこまで入っていけるのか…
このことが、プロジェクト全体の成否に大きく関わってくるように思います。
加えて、今の時点でおこなわれた記者会見が台湾の複数メディアで報じられているということは、上に挙げた顧問の顔ぶれが注目されているということもそうだと思いますが、台湾のなかでブロックチェーンに関するプロジェクトへの注目度が上がっているのかな…ということも感じます。
これからコツコツとプロジェクトの実現に向けた動きが見えてくるかどうか…僕もコツコツと情報を追いかけていきたいと思います!