2018年10月から11月にかけて、中国のネット情報を管理している「国家互联网信息办公室(Cyberspace Administration of China, CAC)」が「ブロックチェーン情報サービス管理規定(区块链信息服务管理规定)」の草案を公表し、パブリックコメントを募集していました。
以下の記事にまとめましたが、こうした動きについて、「中国がブロックチェーンを規制するのはないか」ということで、日本語、英語、中国語の各種メディアが報じていました。
この記事を書いた時点では今後の動向については「未定」と報じられていましたが、今回、正式な規定として公布されたということで、各メディアの報じ方とともに、少し書き留めておきたいと思います。
・各言語のメディアはどう報じている?
・実際の条文はどうなっている? ←条文の内容を提示しているので長いです
・実際の運用はどうなっていくか?
今回の「ブロックチェーン情報サービス管理規定」について、日本語で読める記事としては「CoinPost」が「中国政府、ブロックチェーン企業対象の検閲法案を公布:「分散型」の発展とは」という記事を発信しています。
タイトルに「検閲法案」という表現が使われているように、この記事はブロックチェーンサービスの提供者に対する「検閲」や「管理強化」に焦点を当てた内容になっています。
中国関連の日本語記事としては珍しく、中国のCACが公布した規定が参照リンクとして貼り付けられていますが、書かれている内容は簡潔なものにまとめられています。
他方、英語メディアでも「coindesk」や「CCN」で記事になっていました。
coindeskの記事はシンプルですが、2018年10月の草案との相違点が指摘されています。
また、CCNの記事は日本語のCoinPostの記事と同様に「検閲」という部分にフォーカスされているようですが、条文の内容を多く踏まえて報じています。
また、台湾ではテック系ネットメディアの「數位時代」や「iThome」が記事にしています。
いずれの記事も「実名化(實名化)」や「実名登録(實名註冊)」、「ライセンス制(執照制)」といったワードで、規定の具体的な内容を報じるとともに、草案にはなかった規定として、罰金に関する条文に触れています。
以上のように、各言語の記事のスタンスはそれぞれ異なっている部分がありますが、CCNの記事を除く各記事はすべて、今回の規制の背景として、ブロックチェーンを活用した「検閲逃れ」の事例が中国で生じたことに共通して言及しています。
この事例については、上に挙げた僕の記事のなかで触れましたが、中国国内で発生したセクハラ・性暴力の告発や偽ワクチンの流通に関するニュースがブロックチェーン上で公表・発信されたことを指しています。
今回の規制が公布された社会的背景が各国のメディアで共有されているというのは興味深いことだなと感じます。
中国国内では、中国の国営報道機関である「人民日報」のニュースサイトである「人民网」が、2019年1月10日に以下のように報じています。
中国共産党中央サイバースペース委員会事務室公式サイトの情報によると、CACは2019年1月10日に「ブロックチェーン情報サービス管理規定」(以下、「規定」)を公布し、2019年2月15日から施行される。
(据中共中央网络安全和信息化委员会办公室官方网站消息,国家互联网信息办公室2019年1月10日发布《区块链信息服务管理规定》(以下简称“《规定》”),自2019年2月15日起施行。)
ちなみに、「人民网」の記事には、上に触れた「検閲逃れ」の事例については言及されていませんでした。
この記事がソースとしている「中共中央网络安全和信息化委员会办公室(Office of the Central Cyberspace Affairs Commission)」の公式ウェブサイトには、以下のページに規定が公表されています。
このページによれば、法令は「国家サイバースペース事務室令(国家互联网信息办公室令)」第3号として、事務室主任の庄荣文(荘栄文)さん名で2019年1月10日付で公布されています。
条文のうち、上に挙げた各言語の記事のなかで言及されていた「検閲」ということに関しては、第17条と第18条に以下のように規定されています。
第17条:ブロックチェーン情報サービスプロバイダはブロックチェーン情報サービスユーザーが発信したコンテンツや日記などの情報を記録し、記録のファイルを6か月以上保存し、関連執行部門が法に基づいて調査するときには提供すること。
(区块链信息服务提供者应当记录区块链信息服务使用者发布内容和日志等信息,记录备份应当保存不少于六个月,并在相关执法部门依法查询时予以提供。)
第18条:ブロックチェーン情報サービスプロバイダはネット管理部門が法に基づいて実施する監督検査に協力し、必要な技術的サポートと協力を提供すること。
(区块链信息服务提供者应当配合网信部门依法实施的监督检查,并提供必要的技术支持和协助。)
「法に基づいて」実施される監督行政機関の調査への協力がユーザーが発信するコンテンツにまで及んでいるということで、従来の中国におけるネット管理の枠組みが適用されるだろうということがうかがえますね。
また、「実名化」に関する規定としては、以下の第7条と第8条が該当するようです。
第7条:ブロックチェーン情報サービスプロバイダは管理規則とプラットフォーム規約を制定ならびに公表し、ブロックチェーン情報サービスユーザーとサービス契約を締結し、双方の権利義務を明確にし、法律規定の遵守とプラットフォーム規約の承諾を要求すること
(区块链信息服务提供者应当制定并公开管理规则和平台公约,与区块链信息服务使用者签订服务协议,明确双方权利义务,要求其承诺遵守法律规定和平台公约。)
第8条:ブロックチェーン情報サービスのプロバイダは「中国ネットセキュリティ法」の規定に照らして、ブロックチェーン情報サービスの利用者に対して、組織番号、身分証番号、あるいは携帯番号などに基づく本人による身分認証をおこなわなければならない。本人による身分認証をおこなわないユーザーには、ブロックチェーン情報サービスプロバイダは関連サービスの提供をおこなってはならない
(区块链信息服务提供者应当按照《中华人民共和国网络安全法》的规定,对区块链信息服务使用者进行基于组织机构代码、身份证件号码或者移动电话号码等方式的真实身份信息认证。用户不进行真实身份信息认证的,区块链信息服务提供者不得为其提供相关服务。)
このうち、第8条は2018年10月に公表されていた草案では第10条に規定されていた内容で、「組織番号」の提示が追記された以外は草案どおりの内容となっています。
「仮想通貨」取引で求められる「KYC(Know Your Customer)」の範疇を超えて、ブロックチェーンに基づくサービス全体にも適用していく動きとして位置づけることができますね。
さらに、「ライセンス制」ということに関しては、第11条の以下の条文が該当するようです。
第11条:ブロックチェーン情報サービスプロバイダはサービスを提供する日から10営業日以内にCACブロックチェーン情報サービス登録管理システムを通じて、サービスプロバイダの名称、サービス種別、サービス形式、アプリケーション分野、サーバーアドレスなどの情報を登録手続きに基づいて申請すること
(区块链信息服务提供者应当在提供服务之日起十个工作日内通过国家互联网信息办公室区块链信息服务备案管理系统填报服务提供者的名称、服务类别、服务形式、应用领域、服务器地址等信息,履行备案手续。)
この条文を見る限り、「ライセンス制」というよりも「登録制」という感じですね。
なお、第13条にはサービスプロバイダのウェブサイトに「登録番号(备案编号)」を表示するように規定されています。
また、この第11条の規定に基づいた手続きをおこなわなかった場合には、第22条に基づき「1万元以上3万元以下の罰金(一万元以上三万元以下罚款)」が課されるとなっています。
このほか、条文の内容をいくつかピックアップしておきます。
第2条は規定で使用されている用語の定義について…
「ブロックチェーン情報サービス(区块链信息服务)」:「ネットサイト、アプリなどの形を通じて社会の人々に提供される情報サービスとしてのブロックチェーンの技術あるいはシステム(区块链技术或者系统,通过互联网站、应用程序等形式,向社会公众提供信息服务)」
「ブロックチェーン情報サービスプロバイダ(区块链信息服务提供者)」:「一般大衆に向けてブロックチェーン情報サービスを提供する主体あるいはノード、ブロックチェーン情報サービスの主体のために技術サポートを提供する機構あるいは組織(向社会公众提供区块链信息服务的主体或者节点,以及为区块链信息服务的主体提供技术支持的机构或者组织)」
「ブロックチェーン情報サービスユーザー(区块链信息服务使用者)」:「ブロックチェーン情報サービスを使用する組織あるいは個人(使用区块链信息服务的组织或者个人)」
第5条ではプロバイダの管理責任について…
ブロックチェーン情報サービスプロバイダは情報コンテンツのセキュリティの管理責任を果たし、ユーザー登録、情報レビュー、緊急対応、セキュリティ保護などの健全な管理制度を構築すること
(区块链信息服务提供者应当落实信息内容安全管理责任,建立健全用户注册、信息审核、应急处置、安全防护等管理制度。)
第10条では情報サービスの規制について…
ブロックチェーン情報サービスプロバイダとユーザーは、ブロックチェーン情報サービスを利用して国家の安全に危害を加え、社会秩序を撹乱し、他者の合法的な権益を侵犯するなど、法律や行政法規が禁止する活動を行なってはならず、ブロックチェーン情報サービスを利用して法律や行政法規が禁止する情報コンテンツを製作、複製、発表、宣伝してはならない。
(区块链信息服务提供者和使用者不得利用区块链信息服务从事危害国家安全、扰乱社会秩序、侵犯他人合法权益等法律、行政法规禁止的活动,不得利用区块链信息服务制作、复制、发布、传播法律、行政法规禁止的信息内容。)
また、第10条の規定に違反した場合の罰則については、第21条で…
ブロックチェーン情報サービスプロバイダが本規定第10条の規定に違反し、法律や行政法規が禁止する情報コンテンツを製作、複製、発表、宣伝した場合には、国家、省、自治区、直轄市のCACが職責において警告し、期限内に改正する責を負い、改正されるまで関連業務を休止しなければならない。改善を拒んだり状況が悪質な場合は、2万元以上3万元以下の罰金を科す。罪を犯した場合、法に基づき刑事責任を問われる。
(区块链信息服务提供者违反本规定第十条的规定,制作、复制、发布、传播法律、行政法规禁止的信息内容的,由国家和省、自治区、直辖市互联网信息办公室依据职责给予警告,责令限期改正,改正前应当暂停相关业务;拒不改正或者情节严重的,并处二万元以上三万元以下罚款;构成犯罪的,依法追究刑事责任。)
さらには、規定公布前からブロックチェーン情報サービスを提供している企業に対しても、第23条で「本規定が発行した日から20営業日以内に本規定に基づいて関連手続きをおこなうこと(本规定生效之日起二十个工作日内依照本规定补办有关手续)」とされています。
すでにブロックチェーン関連のサービスを提供している企業に対しても、この規定に基づいた企業活動を求めているというのは興味深いところです。
これらの条文の内容を見る限り、中国のこれまでのネット対策の枠組みに基づいて、非常に広範な形でブロックチェーン技術・サービスの開発企業およびユーザーに対する管理を徹底していこうという姿勢がうかがえますね。
2018年10月に草案が公表されてから、わずか2か月半で公布に至った今回の規定ですが、従来の中国におけるインターネットの管理・検閲の法制度からすれば、遅かれ早かれこうした規制が準備されていたと言えるかもしれません。
もちろん、これまでのインターネットの中央集権的な在り方とは異なる特徴を持つブロックチェーンを、従来の方法でどこまで規制・管理できるのかということについてはいろいろな見方があるだろうと思います。
中国による今回の法整備は、国家とブロックチェーンとの関係性を見定めるうえで、ひとつの有効なモデルケースになっていくのではないのかなと感じています。
こうした法環境のなかで、ブロックチェーンはどのように展開・発展していくのか…
これからの動きをコツコツと追いかけていきたいと思います!