(香港の街並みには「二階建てトラム」がぴったりマッチします。バスじゃないですよ)
ブロックチェーンが普及していくにあたって、その技術開発やサービス開発を担うスタートアップの役割は欠かすことができません。
僕の記事でも多くのスタートアップの取り組みを取り上げてきましたが、同時に、経営体力のある大企業がこうした分野に参入することもまた、技術の発展・普及には大切ですね。
中国では、「阿里巴巴(アリババ)」や「腾讯(テンセント)」、「京東」などがブロックチェーンの導入に積極的な姿勢をみせています。
このなかで、アリババがブロックチェーンの開発に具体的にどう向き合っているかということがうかがえる情報を目にしましたので、少し書き留めておきたいと思います。
・「阿里巴巴達摩院」のウェブサイトが開設
・「ブロックチェーン研究室」の目的は?
・この2年で大きな動きが生まれていく⁉︎
中国の経済ニュースサイト「每经网」が2018年9月29日に報じた記事によると、アリババグループの技術研究所である「达摩院(達摩院、Alibaba Damo Academy)」の公式ウェブサイトが公開されたということです。
达摩院は、2017年10月に開催されたアリババグループのテックカンファレンスである「雲棲大會(The Computing Conference)」で設置が公開された研究所で、3年で1,000億人民元(約1兆5千億円)の予算が投入されると、公開当時の「工商時報」の記事で報じられています。
ちなみに、「工商時報」の記事には研究所の名前が「达摩院(DAMO)」とされた理由として、「The Academy for Discovery, Adventure, Momentum and Outlook」の略称であるとともに、創業者の馬雲(Jack Ma)さんが好きな武侠小説に出てくる少林寺の聖地の名称をかけていると説明されています。
达摩院の公式ウェブサイトによれば、向こう20年の世界を見据え、「活得要比阿里巴巴长(アリババよりも活発に)」、「服务全世界至少20亿人口(全世界の少なくとも20億人へのサービス)」、「必须面向未来、用科技解决未来的问题(未来に向きあい、テクノロジーで未来の問題を解決する)」という発展の方向性が馬雲さんによって示されているようです。
アリババグループの技術的基盤を一手に担う機関として期待されている様子がうかがい知れますね。
公式ウェブサイトによれば、达摩院には「机器智能(Machine Intelligence)」、「数据计算(Data Computing)」、「机器人(Robotics)」、「金融科技(Financial Technology)」、「X实验室(X laboratory)」という5つの研究分野に、以下の14の研究室が付属しているようです。
なお、研究分野と研究室の英語名は、公式サイトの英語表記に基づいています。
机器智能:语音(speech)、视觉职能(Vision)、语音技术(Language Technology)、决策智能(Decision Intelligence)、城市大脑(City Brain)
数据计算:计算技术(Computing Technology)、智能计算(Data Analytics and Intelligence)、数据库与存储(Database and Storage)
机器人:智能交通(Intelligent Transportation)
金融科技:金融智能(Financial Intelligence)、区块链(Blockchain)、生物识别(Biometrics)
X实验室:量子(Quantum)、人工智能(AI)
このうち、ブロックチェーン研究室は「金融科技(フィンテック)」の分野に位置づけられています。
そのうえで、ブロックチェーン研究室の研究目標は、以下の7つにまとめられています。
・共识协议(Consensus Protocols)
・密码学安全与隐私保护(Cryptographic Security and Privacy Protection)
・区块链技术结合可信执行环境(Blockchain Technology Combined with Trusted Execution Environment)
・跨链协议(Cross-chain Protocol)
・智能合约语言与整体安全性分析(Smart Contract Syntax and Security Analysis)
・区块链技术与IoT结合(Blockchain and IoT)
・区块链技术与安全多方计算结合(Combining Blockchain Technology with Secure Multi-party Computation)
コンセンサスプロトコル、セキュリティ、プライバシー保護、クロスチェーン、スマートコントラクト、IoTなど、汎用的なブロックチェーン活用の方向性が強く意識された研究目標となっている印象です。
また、同じページには、商品追跡や保険契約、慈善活動や賃貸契約といった具体的な活用シーンも提示されています。
「金融科技」の分野に置かれているブロックチェーン研究室ですが、金融業についての具体的な提示が見られないのは、中国政府による「币链分离(仮想通貨とブロックチェーンを分離する)」という方針が踏襲されていることを想像させます。
そうした点も含めて、これからのアリババグループのブロックチェーン開発・活用の方向性が、ここからうかがうことができますね。
达摩院のブロックチェーン研究室のサイトには、具体的な金融サービスへの展開が明示されていないとはいえ、中国の経済系ニュースサイト「36Kr」の記事にありますように、研究室の責任者になった张辉(張輝)さんは、アリババグループの主力事業である「支付宝(Alipay)」を運営する「蚂蚁金服(アントフィナンシャル)」のブロックチェーン分野の責任者でもあります。
以下の記事にも書きましたが、アントフィナンシャルはブロックチェーンを活用した国際送金サービスの試験運用を実施しています。
こうした金融サービスももちろん想定したうえで、アリババグループのブロックチェーン活用をこの研究所から生み出していくということだと思います。
上に書きましたように、研究所は2017年10月に開設され、すでに1年が経ちました。
3年間で1,000億人民元という巨額の運営資金を投入しているということは、残り2年で大きな成果を生み出すことが期待されているということでもあると思います。
アリババがここからどのような技術・サービスを生み出していくか…他企業の動きも含め、これからもコツコツと動向を追いかけていきたいと思います!