(台湾の中部には緑豊かな山々が広がっています)
台湾の論説誌「天下雜誌」で「區塊鏈(ブロックチェーン)」の特集が組まれていたので購入しました。
僕がALISでこれまでに書いてきた取り組みが多く紹介されていて、とても勉強になったのですが、まだ記事にしていなかった取り組みのなかに興味深いものがありました。
キーワードとしては、「地方創生×ブロックチェーン」…日本でも注目されているこうした動きについて、少し書き留めておきたいと思います。
・南投・竹山の「地方創生」の取り組み
・「開発」よりも「保存」、「新設」よりも「維持」
・世界とつながる「トークンエコノミー」
2018年7月に発売された「天下雜誌」第651号の特集は、「區塊鏈是夢想還是騙局?(ブロックチェーンは夢?それとも詐欺?)」と題して、台湾におけるブロックチェーンを用いた取り組みが紹介されていました。
ウェブ版の記事はこちらです。
その冒頭に取り上げられていたのが、台湾の南投県竹山郷でおこなわれている取り組みでした。
記事は、「意想不到的區塊鏈實驗場(思いもよらなかったブロックチェーンの実験場)」という見出しとともに、以下のような紹介文から書き出されています。
在這裡,沒有城市喧囂、也沒有瘋狂的比特幣炒家,民宿「天空的院子」創辦人何培鈞與回鄉創業的工程師黃俊毓,正默默地打造一個烏托邦實驗。
(ここには、都会の喧騒もなく、我を忘れたビットコイン投資家もいない。民宿「天空の家」を作った何培鈞さんと、故郷に戻って創業したエンジニアの黃俊毓さんは、ただ黙々とユートピアの試みをおこなっている)
竹山郷は、台湾の中部に位置する南投県の南西部に位置する山間の村です。
ここに「天空的院子」という民宿を作った何培鈞さんは、黃俊毓さんと「小鎮文創」という会社を企業し、以下のような取り組みをおこなっているそうです。
(「小鎮文創」の公式ウェブサイトはこちら)
何培鈞想讓觀光同時改善當地經濟、生態和文化的系統,黃俊毓建議他不如善用區塊鏈,記錄生產履歷,並發行社區代幣「光幣」
(何培鈞さんは観光と同時に地元の経済、エコシステム、文化システムを改善しようと考え、黃俊毓さんは彼にブロックチェーンを活用し、生産履歴を記録し、コミュニティトークンとしての「光幣」を発行するよう提案した)
ブロックチェーンを活用した「トークンエコノミー」の提案ですが、現在、竹山では5軒の商店が実際に「光幣」による経済活動を試験的におこなっているようです。
これが冒頭の文章にある「烏托邦實驗(ユートピアの試み)」ですが、加えて「正默默地(ただ黙々と)」と書いてあるのは、この「トークンエコノミー」の取り組みが、ICOなどで外部から資金調達するのではなく、竹山郷内での仕事に対してトークンを発行し、竹山郷内で使用するというスタンスを徹底していることに由来しています。
こうした竹山郷での取り組みは、中央政府の行政機関である「經濟部」から「社會價值貨幣化(社会的価値のトークン化)」の事例として注目されているようです。
何培鈞さんたちの「トークンエコノミー」に対するスタンスは、目立った産業がほとんどない地域をどのように再興していくかということに対する考え方が影響しているようです。
台湾のビジネス系ニュースサイト「數位時代」が何培鈞さんたちの取り組みをまとめた記事には、現状の台湾における「地方創生」政策の限界について書かれています。
具体的には、「地域創生」の方法としてよく採用される山村の「観光地化」が、かえって地域住民の生活を壊すことにつながってしまうということへの警戒が語られています。
「観光地化」のメリットとデメリットについては社会学的・文化人類学的な観点から多く指摘されていますが、記事にも、山村の商業への偏重と他地域との同質化・均一化が、地域の「特色」を消してしまうことが指摘されています。
そこで、何培鈞さんは以下のように語っています。
地方創生關鍵在於人,在於文化,在於歷史,「保存」比「開發」重要,「維護」比「新建」重要,是讓外地遊客去試著融入當地的美好與不美好,而不是為了觀光客改變當地風貌。
(地方創生の鍵は人にあり、文化にあり、歴史にあり。「保存」は「開発」より重要であり、「維持」は「新設」より重要である。外からの観光客に現地の良いところと良くないところに入ってもらい、観光客のために現地の景色を変えることはしない)
何培鈞さんたちが竹山郷で「トークンエコノミー」の構築を目指しながら、ICOなどを実施せず、「ただ黙々と」、郷のなかで地道にトークンを回そうとしている様子は、地域の「保存」と「維持」に立脚していることがわかりますね。
竹山郷での「トークンエコノミー」の具体的な取り組みは郷の内部でおこなわれているものですが、これをプロジェクトとして見た場合、世界各地の「トークンエコノミー」のプロジェクトと直接つながる可能性を持っています。
上に挙げた「數位時代」の中国語の文章を見てもらってもわかりますが、この取り組みは「地方創生」という表現とともに紹介されています。
この「地方創生」という表現について、「數位時代」の記事は、これが日本の「地方創生」をそのまま取り込んだ「新語」であると説明しています。
また、台湾のオピニオンニュースサイト「The News Lens」には、日本の西粟倉村の取り組みを詳しく紹介したうえで、竹山郷の取り組みに触れています。
日本の「地方創生×ブロックチェーン」の先進的な取り組みである西粟倉村の事例の文脈で、竹山郷の取り組みが理解されていることがうかがえますね。
さらに、竹山郷での取り組みを進める何培鈞さんは、2018年7月にマレーシアのクアラルンプールで、自らの取り組みについて講演をおこなうなど、積極的な外部発信を展開しているようです。
ブロックチェーンによる「トークンエコノミー」の構想は、地域の課題を解決するとともに、世界ともつながるんだな…ということを、こうした動きから感じられます。
こうした取り組みが地域経済の立て直しに本当につながるのか、これから他の地域にも広がっていくのか…今後の動きについても、コツコツと追いかけていきたいと思います!
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