(台湾の玄関口、桃園空港へと向かうMRT台北駅。チェックインカウンターもありますよ)
ブロックチェーンを仮想通貨を含む金融サービスに活用していくにあたって、KYC(Know Your Customer)とAML(Anti-Money Laundering)にどう対処するかという課題は、世界各地でいろいろな模索がおこなわれていますね。
台湾のブロックチェーン・仮想通貨に関する法制度整備も、この2点をめぐって主な議論が展開されていると感じます。
こうした法制度の展開に合わせる形で、技術的に課題解決を目指す動きが生まれてきています。
今回は、こうした課題の解決を目指した技術開発をおこなっているシンガポール発のスタートアップの技術を台湾の企業が導入したというニュースを目にしましたので、書き留めておきたいと思います。
・遠東航空のALLNトークンがMaxonrowの技術を採用
・Maxonrowってどんなスタートアップ?
・ブロックチェーンが身近な存在になるきっかけに?
台湾の経済紙「工商時報」のウェブサイトに2018年11月10日に掲載された記事によると、台湾の大手航空会社である「遠東航空」を傘下に持つ「樺福グループ(樺福集團)」が、独自トークンALLNの発行について、シンガポールのスタートアップである「Maxonrow」と提携したことを明らかにしたそうです。
樺福グループによるALLNトークンの発行と遠東航空でのトークン利用については2018年8月に以下の記事を書きましたが、この時点ではまだ試験運用という段階でした。
台湾のデジタル系ニュースサイト「iThome」の記事に掲載されている遠東航空のCOO(營運長)でありALLNのCEO(執行長)である曾金池さんのコメントによれば、8月以降、ALLNトークンを使って遠東航空の国内線チケットを購入した旅客数が1,000人に達したということです。
これを多いと捉えるか少ないと捉えるかは難しいところですが、仮想通貨に対するネガティブなイメージを多くの人がなお持っていて、法制度の整備が進められている真っ只中の台湾では注目すべき状況かなと思います。
また、曾金池さんは遠東航空が今回のMaxonrowとの提携によって、法制度に沿ったエコシステムの構築を目指していくとともに、以下のような課題の解決を目指すと説明しています。
ALLNトークンは将来、イーサリアムから実名認証制を打ち出しているブロックチェーンスタートアップのMaxonrowのメインチェーンに移行させていく。これによってイーサリアムのトランザクションスピードの遅さを解決し、実名制の問題もクリアできる。
(ALLN幣未來將從以太坊,陸續移轉到主打實名認證制的區塊鏈新創Maxonrow邁盛絡的主鏈上。為的就是解決以太坊交易速度慢,以及沒有實名制的問題。)
今回の提携がイーサリアムからの移行を想定したものだというところが注目されますね。
今回、遠東航空と提携したMaxonrowは公式ウェブサイトのトップページには、「リアルライフに真のブロックチェーン(現實生活中的真實區塊鏈)」というキャッチコピーとともに、以下のようなフレーズが掲げられています。
Maxonrowは世界で初めて、社会・政府・企業の実体経済とブロックチェーンをつなげる
(Maxonrow是全球第一個將社會、政府與企業的實體經濟和區塊鏈科技聯繫)
実体経済との連繋ということだけではセールスポイントがイマイチよくわかりませんが、具体的には冒頭に触れたKYCとAMLをめぐる課題に対するソリューションを提供することに注力しているようです。
今回の提携について報じた「ETtoday新聞雲」の記事に掲載されたMaxonrowのアジア地区CEOのJin Taiさんによれば、以下のような課題の解決を目指しているということです。
当社が推し進める実名制のブロックチェーン技術は政府や企業への導入にぴったりであり、KYCとAMLを備えることで、実名制ブロックチェーン技術は大企業が自らの本当の顧客は何であるかということを理解できるようにする。
(該公司所推出實名制的區塊鏈技術相當適合政府與企業的採用,且因具備KYC與AML概念,這項實名制區塊鏈技術可以讓大企業了解到自己真正的顧客為何。)
企業や政府機関がブロックチェーンを導入する際のハードルをブロックチェーンの「匿名性」にあると設定し、その解決を目指すことで企業などへの導入をサポートするということのようですね。
台湾のネットニュースサイト「INSIDE」に掲載された創業者でCEOのRodrigo Crespoさんのインタビューには、以下のようなソリューションの提供をまずは考慮したと語られています。
MAXONROWはまず、基本的な身分認証オンチェーンシステムを設計し、大多数の人々が法律ルール、金融取引、デジタルIDをまとめることを可能にし、煩雑な審査にかかわる手作業を経ることなく、登録せずに(登録も可)各取引におけるKYCを即時処理できるようにした。
(MAXONROW首先設計了基礎身份認證上鏈功能,可讓絕大多數民眾把法律規範、金融交易與數位身份捆綁在一起,不用經過繁瑣審核的人工工作,就能即時不記名(記名也可)之方式完成每筆交易的KYC環節。)
ブロックチェーン・スマートコントラクトによって、個人情報の処理を速やかに、しかもユーザーがストレスをほぼ感じることなく完了でき、そのうえでKYCをめぐる問題も解消することができるようなプラットフォームを提供していることがうかがえますね。
Maxonrowの公式サイトに掲げられているソリューションには、KYC・AML関連以外にも、DApps、Web Explorer、ウォレット、取引所など、多様なサービスが挙げられています。
Maxonrowはまだ創業から1年が経とうかというところだということで、今回の遠東航空との提携はこれからの事業展開の足がかりとして位置づけられそうです。
これからの具体的な事業展開を期待しつつ、見守っていく必要がありそうですね!
企業や行政機関によるブロックチェーン導入をサポートする技術・サービスの開発は、世界各地で着々と進んできている印象があります。
そのなかで、技術導入の際のハードルにフォーカスして、具体的なソリューションを提供する企業の存在は貴重ではないかなと感じます。
また、今回の提携の場合、Maxonrowの技術導入を決めた遠東航空は、自社グループ内でALLNトークンの発行とそれによるエコシステムの構築を進めてきた実績があります。
ALLNトークン自体、遠東航空のチケット購入に使用できる形でサービス構築が進められているとともに、シンガポールの仮想通貨取引所であるMBAexに上場するなど、着々と流通範囲を広げている印象があります。
そうした先進技術導入に積極的な企業が具体的なソリューションを採用することによって、ブロックチェーンの社会実装がよりスピーディに進んでいくことが期待されているように感じます。
この提携から始まるサービスが多くの人々に受け入れられるかどうかが、これからの注目点だと思いますので、これからの動きもコツコツと追いかけていきたいと思います!