ブロックチェーンの技術やサービスが発展していくために行政機関が果たす役割として、法整備や企業の活動を保護・育成するということがあります。
加えて、行政サービスのなかに積極的にブロックチェーンを導入し、普及拡大に一役買うことも必要だと思います。
たとえば、「スマートシティ(智慧城市)」の実現は、そうした役割を包括的に果たしていくプロジェクトのひとつですね。
以下の記事に少し触れましたが、香港は行政機関として「スマートシティ」実現に関するブループリントを公表していて、行政のなかへブロックチェーンを含めた新たな技術を導入していくことに積極的な姿勢を示しています。
今回は、香港の行政機関である金融管理局(金管局)がブロックチェーンを活用した新たな取り組みを始めるという記事を目にしたので、少し書き留めておきたいと思います。
・香港金管局がブロックチェーンを活用したプラットフォームを構築!?
・中国平安集团がブロックチェーン技術を提供
・ブロックチェーンを利用したトレードファイナンスの取り組み
・行政機関と金融機関との協働が果たす役割
イギリスのFinancial Times傘下の中国語経済金融ニュースサイト「FT中文網」の記事によると、香港の行政機関である金管局が2018年8月にブロックチェーンによるトレードファイナンスプラットフォーム(貿易融資平台)の提供をはじめることを明らかにしたということです。
このプラットフォームの実現によって、融資業務の効率化、コスト削減、マッチングの適正化(中小企業への融資)、過剰な融資の防止などの効果が見込まれているようです。
こうした効果から考えると、プラットフォームの利用者として見込まれているのは銀行をはじめとする金融機関であり、記事によれば既に、滙豐(HSBC)やスタンダード・チャータード(渣打、Standard Chartered)などを含む21の銀行が参加を表明しているとのことです。
金管局は財政を管轄する「財政司」の一セクションであり、香港の「事実上の中央銀行(事實上的央行)」と呼ばれる行政機関です。
ここで金管局が「事実上の」中央銀行と呼ばれるのは、中央銀行なら必ず持っている通貨発行権を有していないことが大きな理由のひとつとなっています。
(香港の通貨発行権は、上に挙げた滙豐と渣打に加えて、中国銀行の3行が有しています)
したがって、金管局の公式ウェブサイトによれば、局の管轄業務は主に香港ドルの利率の維持(香港ドルはアメリカドルとのペッグ制を採用)や為替管理、および金融システム・銀行システムの健全な発展などにあるとされています。
今回の取り組みも、金融システムの健全な発展の一環として実施されるものだと位置づけることができそうですね。
今回のプラットフォームを支えるブロックチェーン技術を提供したのは、中国平安集团(Ping An Group)ということです。
中国平安集团は公式ウェブサイトによれば、1988年に中国で初めての保険株式会社として創設された企業で、現在は保険業に加えて、金融業(銀行、投資)を軸とするグループ企業となっています。
グループ内にはフィンテックに関する技術開発を担う「金融壹帳通(OneConnect)」という企業があり、ここが今回のプラットフォームに関する具体的な技術開発を担ったようです。
金融壹帳通の公式ウェブサイトによると、事業の方向性は「创新、共享、开放、合作(イノベーション、シェア、オープン、クーパレーション)」をスローガンに、「人工智能、区块链、云平台、生物识别(AI、ブロックチェーン、クラウドプラットフォーム、バイオメトリクス)」に関する技術開発をおこなっているとのことです。
上に挙げた「FT中国網」の記事によれば、金融壹帳通は2018年に入ってからシンガポールに拠点を開設するなど、海外での事業展開に力を入れはじめていて、今回の香港での技術提供は中国国外での大きなプロジェクトとなっているようです。
香港政府機関と中国のフィンテック開発企業、それぞれの思惑が一致するなかで進められるプロジェクトとして、注目を集めていることがうかがいしれますね。
記事には、もうすでに多くの銀行がトレードファイナンスにブロックチェーンを活用していることが指摘され、その具体的な事例のひとつとして滙豐銀行の取り組みが取りあげられています。
台湾の科学技術系ニュースサイトの「iThome」が報じた記事によれば、2018年5月にシンガポールの滙豐銀行が、オランダのING銀行とアメリカの食品産業グループのCargillと提携して、R3コンソーシアムが開発した「Corda」を利用したP2P即時トレードを、世界で初めて実施したことを明らかにしたということです。
特に、時間を要する信用状(L/C)取引の時間短縮を実現したということで注目を集めたようです。
「R3コンソーシアム」はブロックチェーン開発をおこなうR3社を中心に、国際的なブロックチェーン金融機関コンソーシアムとして結成されている団体で、日本のSBIグループや台湾の中国信託商業銀行などが加入しています。
金管局が構築するプラットフォームには、すでにこうした実績を作りつつある滙豐銀行などが参加を表明しているということで、金融機関のこうした取り組みへの期待と熱心さを垣間見ることができますね。
香港では通貨発行権を金融機関が有していることからもわかるとおり、伝統的に民間企業が大きな力を持っていたこともあり、民間企業が主導的に行政機関と協力する土壌があるように思います。
金管局も金融・銀行業の健全な発展を主要な業務としているように、業界の動向を敏感にキャッチし、業界の発展に寄与する方向で金融行政を展開しているようです。
加えて、国際市場に開かれた経済活動や人口規模など、香港特有の社会・経済状況がこうしたスピーディな取り組みを実現する大きな要因となっていることは確かだと思います。
それでも、行政機関が金融機関とどのような関係性を構築すれば、ブロックチェーン・フィンテックの発展に寄与することができるのかということのヒントが、香港での取り組みには示されているように感じます。
行政機関が民間企業の取り組みを健全に育成し、市場の環境を整備するとともに、率先してブロックチェーンの導入モデルを提供していく…
そうした行動を通じて、ブロックチェーンの普及・発展に積極的な姿勢を示すことが、ブロックチェーンの発達に寄与する部分は大きいだろうと思います。
ブロックチェーン・仮想通貨の発展には行政機関の動きも大切だと感じますので、こうした動きもコツコツと追いかけていきたいと思います!
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