(台北郊外、陽明山から見た台北市内の夜景。台湾には夜景が綺麗なところもたくさんあります)
ブロックチェーンの特性を活かして新たな産業が生まれることはもちろん、既存の仕組みのなかにブロックチェーンが組み込まれることによって、これまでは解決が困難だった課題が解消され、新たな可能性が生み出されていくということが期待されるようになってきていますね。
特に、地方行政と地域産業が分かち難く結びついているような地域レベルでの課題解決に、ブロックチェーンを導入しようという動きが、台湾でも盛んになってきているように感じます。
たとえば、地域の主要産業である農業にブロックチェーンを導入することで、農産品の流通をめぐる課題解決や品質の向上などを生やしていこうという議論や動きが提起されるようになってきています。
今回は、台湾のなかでも有数の農業地帯である台湾北西部の新竹(しんちく)というところで、ブロックチェーンをはじめとする多様なデジタル技術を導入して、農業や観光業を変えていこうとする取り組みが始まったというニュースを目にしましたので、少し書き留めておきたいと思います。
・新竹県が最先端技術を農業・観光業に導入?
・プロジェクトを支える技術は誰が提供しているの?
・ここにも統一地方選の影響が出てくるかも?
台湾の大手紙「聯合報」のウェブサイトに掲載された記事によると、新竹県は2018年9月14日に「新竹縣智慧觀光與物聯網農業應用啟動記者會(新竹県スマート観光・IoT農業アプリ始動記者発表会)」を開き、ブロックチェーンの活用について言及したそうです。
具体的に、新竹県長の邱鏡淳さんが説明したところによれば、ブロックチェーン上に開発したアプリに産地情報を載せていくということで、実現すれば地方行政組織としては初めての取り組みになるということです。
(ブロックチェーン上に開発したアプリ、原文では「「區塊鏈」應用」となっていますが、dAppsのことではないのかな…dAppsだと「分散式應用程式」とかと表現するはずなんですけれど…)
もとより、この記者発表会の目的はブロックチェーンだけではなく、「物聯網、大數據、AR、VR等新興科技技術(IoT、ビッグデータ、AR、VRなどの新たな科学技術)」を、農業や観光業といった地域産業に導入していこうという大きな取り組みへの関心を喚起するというものだったようです。
新竹というところは、台湾の北西部にあって、豊かな土壌に支えられた農業や畜産業が盛んにおこなわれている地域です。
日本では新竹といえば「米粉(ビーフン)」で有名かもしれません。
また、台湾が世界の半導体製造で大きなシェアを誇るようになって以降、新竹は最先端テクノロジーの集積地としての役割を果たしてきました。
この記事を読まれる層の方には、こちらのイメージの方が強いでしょうか?
今回の計画は、こうした地域的特色を持つ新竹で、生まれるべくして生まれたプロジェクトなのではないのかなという印象を強く受けました。
台湾の経済ニュースサイト「鉅亨網」が報じた記事によると、今回のプロジェクトを技術的にサポートしているのは、「鴻海」傘下の「亞太電信」の子会社である「富鴻網」という企業だということです。
「鴻海」は日本でも2016年にシャープを買収した企業として名が知られていますが、元々はパソコンやスマートフォンのODM・EMSの大手企業として世界的に知られています。
その傘下の「亞太電信」は台湾の三大通信会社(中華電信、台湾大哥大、遠傳)に次ぐキャリアとして、特に4Gの普及に大きな役割を果たしている企業です。
そして、その子会社の「富鴻網」は公式ウェブサイトによれば、この亞太電信の通信網の設置拡大、維持管理を担う企業であると説明されています。
公式サイトによれば、近年はIoT(物聯網)にも力を入れているようで、多様な社会システムやビジネスシーンの「智能化(スマート化)」を目指しているようです。
「鉅亨網」の記事によれば、今回の技術的サポートでは、たとえば「雲端農作產銷平台(クラウド農産品プラットフォーム)」や「智慧商務服務系統(スマートビジネスサービスシステム)」といったものを構築し、ここでブロックチェーンを活用したトレーサビリティや、企業と零細農家とのマッチングを効率的に実現することで、「提高農民收入,並鼓勵青農回鄉(農民収入を向上させ、若い人の帰農を促す)」ことが目指されているとのことです。
そのほか、農業に観光的要素をマッチングさせた「観光農場」をIoTシステムと結びつけることで、ネット上で効率的にチケットを販売できるプラットフォームを構築するとともに、ARやVRを取り入れた「沉浸式體驗服務(没入型体験サービス)」を提供できるように環境整備を進めていくそうです。
IT分野ですでに実績があり、かつIoTのような先進的な技術にも取り組んでいる企業が技術的にサポートしているということで、大きな注目を集めているのかなと感じました。
今回、大々的に記者発表会が開催され、技術提供をおこなう企業のサポートを受ける形で実施が公表されたこの取り組みは、おそらくこれからコツコツとサービス実現に向けた動きが表れてくるだろうと思います。
ただ、こうした地方行政が主導的におこなう取り組みにとって気になるのは、やはり今年11月におこなわれる統一地方選挙の行方です。
統一地方選と地方行政におけるブロックチェーンをはじめとする新たな技術との関係性については、以下の記事に少し書き留めていますが、新竹県でも新竹県長選挙が実施されます。
新竹県長選には4名が立候補しています。
そのうち、現職県長の邱鏡淳さんは出馬せず、後継候補である現副県長で国民党の楊文科さん、元県長の鄭永金さんの息子で民進党の鄭朝方さん、民国党という小政党の主席ながら現台北市長の柯文哲さんから支持されていると言われている徐欣瑩さんの3名が有力候補だと言われています。
このうち、現職県長の後継候補である楊文科さんは今回の取り組みの方針を支持するような報道がなされていますが、ほかの候補者のスタンスについてはまだはっきりと報じられてはいないようです。
プロジェクトが実際に走り出せば、誰がリーダーになったとしても急な方針転換は難しいと思いますが、選挙の影響がどの程度出てきそうかは、こうした候補者がこれから発信していくスタンスによるのかもしれないなと感じています。
こうした動きも頭に留めながら、プロジェクトの行方もコツコツと追いかけていきたいと思います!