このALISもそうですが、仮想通貨とSNSを結びつける試みは世界中でおこなわれているようですね。
デジタルコンテンツに対する報酬として仮想通貨を発行するというフレームワークは、ブロックチェーン技術との親和性、コンテンツ作成のモチベーション、コンテンツ保護、コミュニティの活性化などなど、多くのメリットを生み出すものとして捉えられて、たくさんのアイデアを喚起するのだと感じます。
以前に台湾初の仮想通貨「MITH(秘銀幣)」が発行されるSNSプロジェクト「ミスリル(Mithril)」について記事を書きましたが、これに近いアイデアが香港から実現に向けて動き出しているようです。
ホワイトペーパーもまだまだこれからというもののようですが、期待感を感じましたので、ここに少し書いておきたいと思います。過去記事より少し長くなっていますがご覧いただければ嬉しいです。(文中の日本語訳はざっくりとした粗訳ですので、厳密なものではありません。参考までにご覧ください(^^;)
香港発のプロジェクトは「Matters」といいます。ウェブサイトはこちらに公開されています。アドレスを見ると、「info.matters.news」とあります。まだ具体的に製品が公開されているプロジェクトではありませんから、公式サイトではありますけれど情報発信のページという位置づけのようです。
Mattersはブロックチェーン技術を基本とした「内容平台」と位置づけられています。「内容平台」というのは、そのまま「コンテンツプラットフォーム(contents platform)」のことを指します。noteやMediumなどがコンテンツプラットフォームと呼ばれていますね。
位置づけとしてはSMSとも重なり、実際にそのような機能を備えてもいますが、それよりももう少し、コンテンツの創作に比重を置いたサービスプラットフォームであるというイメージでしょうか。
Mattersのウェブサイトを見ると、このプラットフォームの果たす役割が3つ挙げられています。
まず、「基於社群的 UGC 優質內容生產平台(コミュニティのUGCによる優れたコンテンツを生み出すプラットフォーム)という役割です。
「UGC(User Generated Contents)」とは「ユーザー生成コンテンツ」などと訳されるように、サービス上でユーザーが作ったデジタルコンテンツのことを指しますね。Mattersがコンテンツプラットフォームであることが示されていますね。
次に、「基於數字貨幣的創作激勵機制(デジタル通貨による創作モチベーションメカニズム)」という機能です。
Mattersでは「MAT」というトークンを発行し、記事の創作・評価にこのトークンを付与することで、創作者に「長尾效應(ロングテール効果)」をもたらすことを目指しているようです。
最後に、「基於知識信用的內容評價體系(ナレッジクレジットによる内容評価システム)」という機能です。
コンテンツがトップページのより上位に掲載されるかどうかは評価の高低によって決定するというシステムを導入することが目指されています。
この3つの役割を見て、「おや?」と思いました。そう、ALISが今まさに実現しようとしていることと重なって見えるんですね。
実際に、Mattersを生み出した張潔平さん(日本語の感覚だと「平」が名前の最後に付くと男性かと思ってしまいますが、女性の方です)のコメントが掲載されているこの記事を読むと、その思いをより強くします。
張潔平さんは、もともと香港のネットメディアである「端傳媒(Initium Media)」の総編集長だった方です。その方がこの仕事を離れてMattersを始めようと思ったのは、「好內容到底要怎麼活下去?(良い記事というのはいったいどのようにして生み出されるのか?)」という問題意識からだったそうです。
また、そうした問題意識の底流には、商業メディアに深く根差す「広告に依拠したビジネスモデル」の限界と弊害への焦慮があるようです。記事では、「媒體現在面臨的問題,就是廣告模式和網路技術的聯手謀殺(メディアが現在直面している問題は、広告モデルとネット技術とが手を取りあって殺しに来ているということです)」という、やや刺激的な張潔平さんのコメントが強調されています。
そこで立ち上げたのが、上に挙げた3つの役割を軸とするMattersというわけですが、この記事のなかで意識されている先行事例がsteemitなんですね。
とりわけ、Mattersではsteemitで起きている「とある問題」を克服することを目指していると書かれています。
その問題とは、steemitの評価メカニズムが、「大概就是多人看的就是好的、有錢人看的就是好的,所以會造成嚴重的階層固化問題,這也是為什麼 steem 現在呈現在前面的內容很糟糕。(だいたい、多くの人の見ているものが良いものである、お金を持っている人が見ているものが良いものである。そうしたことによって深刻な階層固定化という問題が生じていて、これもなぜ、steemがなぜ、つまらない内容の記事がトップに上がるのかということにつながっている)」ということのようです。
Mattersではこの問題を解決するために「知識信用(Knowledge credit)」というメカニズムを採用するとしています。
「知識信用」というのは張潔平さんによれば、「有別於與社會信用,用戶必須自己在平台上持續累積貢獻(社会の信用とは別に、ユーザーは自らプラットフォーム上で持続的に貢献していく必要がある)」という形で形成されていくもののようです。
「持續累積貢獻」というところが注目されますね。そして、長くユーザーが記事を発信し続けるためのシステムが、上に挙げたような3点だということですね。
この評価メカニズムをMattersの独自性として押し出すために、張潔平さんが話した以下のような説明が、なかなか興味深いです。
傳統的媒體採行的是廣告模式:多人看的,就是好的;而臉書採行的是社群模式:朋友推薦的,就是好的;今日頭條採行的是以演算法個人化:常看的,就是好的。至於 Matters 的模式,一言以敝之:被很多知識信用高的人肯定,就是好的。
(伝統的なメディアが採用したのは広告モデル―多くの人が見たもの、それが良いものである。フェイスブックが採用したのはコミュニティモデル―ともだちが推薦したもの、それが良いものである。今日頭條が採用したのはアルゴリズムに基づくパーソナライゼーション―よく見ているもの、それが良いものである。それでは、Mattersのモデルは、一言でいえば、多くの知識信用の高い人が良いと言ったもの、それが良いものである)
文中にある「今日頭條」は中国のニュースサイトで、アマゾンなどで見られるレコメンドのようなメカニズムで、ユーザーの関心のある記事をトップに持ってくるシステムになっています。
Mattersの目指すところがイメージできるとともに、steemitやALISと同じ流れのなかにイメージされていることが想像されますね。
Mattersはまだ始まったばかりで、今はコミュニティの形成に尽力しているところのようです。ウェブサイトに掲載されているロードマップによれば、ホワイトペーパーの公開が2018年5月、ブロックチェーンへの接続が同年6月、スマホアプリの公開が同年9月、プラットフォーム正式公開が同年10月となっています。
まだまだどうなっていくのか、実際の形が見えてこないとわからないところがありますが、今年のうちに公開に向けた動きが立て続けに起こってくるようですので、引き続き追いかけていきたいと思います!
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台湾の「ミスリル(Mithril)」というプロジェクトについても書きました。