近年、大きな盛り上がりを見せる暗号資産業界で、ブロックチェーン技術を利用した「NFT(Non-Fungible Token)」がにわかに注目を集めている。
NFTとは、イーサリアム上のブロックチェーン技術を利用して、唯一無二の価値をもたらす鑑定書及び所有証明書の技術のことである。
NFTの取引は2017年頃から徐々に広まり、現在では、会員権や不動産の所有権証明、著作権やアートなどの分野の2次流通で広まっている。今年3月には、世界最大のオークション「クリスティーズ」で、デジタルアート作家Beepleの作品が6,934万ドルで落札され、大きな話題となった。また、ツイッターの創業者ジャック・ドーシー氏の世界初ツイートが約291万ドルで落札されるなど、デジタルコンテンツの市場が急激に活性化している。
現在、NFT事業に参入する国内企業が徐々に増えており、株式市場でもNFTに関する関心が急速に高まっている。下記では、NFT事業を開始または予定している国内企業を挙げる。
美術品オークションを企画・運営を行うShinwa Wise Holdingsは、同社が取り扱うアート作品を元にしたNFTの生成・販売事業を開始した。最初のプロジェクトとして、WCP(West Country Prince)が製作しているバンクシーのリプロダクションのエディション作品をNFT化し、シンワアートブロックチェーンに登録。2021年4月14日にNFT化した作品の販売を開始した。今後はアート作品のNFT化の領域をさらに拡げ、これを流通市場に乗せる事業を展望している。
「アート×ブロックチェーン」でより豊かな社会の実現を目指すスタートバーン株式会社は、アートの信用担保とさらなる発展を支える流通・評価のためのインフラ「Startrail(旧:ABN)」のプロジェクトを行なう。旧ABN(アート・ブロックチェーン・ネットワーク)は、SBIアートオークションが主催する美術品の競売会などで実際に利用されるなど1年超の実証期間を経て、2019年10月にABNの仕様や今後の開発計画を記したホワイトペーパーが公開。2020年3月に本格的稼働に入り、それに伴い名称をABNから現在のStartrailに改名した。その後、2020年8月にイーサリアムメインネットへ公開。アート作品と共にStartrail登録証を流通させることで、営利・非営利問わず世界中のアート関連サービスを繋げ、全ての作品の来歴を自動記録し、二次流通や二次利用を容易に行える世界の実現を目指している。
ゲームソフトメーカー大手の株式会社スクウェア・エニックスは、double jump.tokyo株式会社との共同開発による、ブロックチェーン技術を活用したNFTデジタルシールを『ミリオンアーサー』シリーズで販売すると発表。2021年夏に販売を予定している。同社は、ブロックチェーンとデジタルエンタテインメントの親和性に注目し、数年前から技術の調査や応用の可能性の検討を行っていた。今後はブロックチェーンを利用し、ゲーム内などでのユーザー間コミュニケーションの活性化などの可能性を模索するとともに、それらを通じた新たなデジタルエンタテインメントコンテンツの創出やビジネスモデルの構築を目指している。
ソーシャルゲームの企画・開発を行う株式会社オルトプラスの子会社であるOneSportsと、スマホゲームの開発・配信を行うアクセルマーク株式会社は、2020年9月30日に共同でスポーツを題材とした新作ブロックチェーンゲームタイトルの企画開発を行い、LINE株式会社の独自ブロックチェーン「LINE Blockchain」上での提供を行うことに合意したと発表。
オンラインゲーム運営を行う株式会社アエリアの連結子会社サクラゲートは、世界初となる音楽専門のNFTマーケットプレイス「The NFT Records」を全世界に向けてスタートすることを発表。The NFT Recordsは、アーティストやレコードレーベルが保有する楽曲を全世界にNFT販売するための世界初の音楽専用NFTマーケットプレイスとなる。
スマートフォンゲームの開発・運営を行う株式会社マイネットは、ブロックチェーンゲームやNFTサービスの開発を行うCryptoGames株式会社が提供する「NFT Studio」上で、保有するイラスト資産を2020年4月17日より販売。
電子書籍取次大手の株式会社メディアドゥと出版取次大手の株式会社トーハンは、業務提携の目的である全国書店の活性化を実現するために、ブロックチェーン技術を基盤とするNFTを活用した「デジタル付録」のサービスを開始すると発表。本サービスに関する技術開発は2021年夏ごろの完了を予定しており、サービス展開は年内を目指す。現在、KADOKAWA、講談社、集英社、小学館と本施策の検討を開始しており、この取り組みでリアル書店のデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現し、書店で魅力あるデジタルコンテンツを入手可能にすることで、来店者増、紙出版物の売上増、出版業界全体の活性化を図る。
ソフトウェアの開発・販売を行うアステリア株式会社は、日本円を対象としたステーブルコイン「JPYC」を発行や、デジタル資産の原本証明ができるNFTの実装技術を保持する日本暗号資産市場株式会社へのAsteria Vision Fund(米国テキサス州)を通じた出資を完了し、ブロックチェーン技術を基盤としたステーブルコインやNFTの普及推進を図る資本業務提携に合意したことを発表。
音楽コンテンツの企画・制作・販売を行うエイベックス株式会社の子会社エイベックス・テクノロジーズ株式会社は、2021年4月16日にデジタル証明書サービス「A trust」の提供を開始すると発表。A trustは、同社が2019年7月に開発したNFT事業の基盤で、ブロックチェーン技術を活用してデジタルコンテンツに証明書を付与することで唯一性・限定性を持たせながら流通させる仕組みだ。IPホルダーの著作権などの権利の保護とデジタルコンテンツの流通を目的に、NFT事業へと本格参入する。なお、同社によれば、A trustは広義の"NFT事業"であり、イーサリアム上で運用される狭義の「NFT」ではないとしている。このため、円などの法定通貨でコンテンツを簡単に購入できる。
インターネットのサービスを総合的に展開するGMOインターネット株式会社は、4月9日にNFTの売買が行えるマーケットプレイス「アダム byGMO」を提供すると発表。アートや楽曲、著名アーティストによる希少性の高いコンテンツを用意するほか、ウォレットの提供も行う。なお、提供予定日は未定としている。
ネット証券大手のマネックスグループ株式会社の子会社コインチェック株式会社は、2021年3月24日にブロックチェーン上のデジタルアイテムであるNFTを暗号資産取引所サービスCoincheckで取扱う13種類の暗号資産と簡単に交換できるマーケットプレイス「Coincheck NFT(β版)」の提供を開始。まずは、日本最大級のブロックチェーンゲーム「CryptoSpells」及び全世界4,000万DLを達成した「The Sandbox」で利用可能なNFTの取扱いを始める。今後はゲームのみならず、アートやスポーツなど幅広い分野に拡大していく予定。
フリマアプリの運用を行う株式会社メルカリは、2021年4月2日に暗号資産やブロックチェーンに関するサービスの企画・開発を目的とした子会社メルコインを設立すると発表。メルカリで売れた商品の売上金をビットコインで受け取れる機能を提供するほか、決済サービス「メルペイ」においても、決済・送金機能の提供に加え、与信、暗号資産・資産運用の機能を一つのウォレットで提供する予定。また、NFTの取引にも対応する予定で、具体的なサービスは検討中。
NFTは、画像、映像、音楽、ゲーム、テキスト、不動産まで、あらゆる分野のコンテンツに活用できることから、今後も多種多様な資産がデジタル化していくなかで、さらなるNFTの活用が期待される。特に、わが国はマンガ・アニメ・ゲームといったコンテンツに強いこともあり、NFT事業に参入する国内企業が増加する可能性が高い。