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またしても自分の好き嫌いが足枷になっていたことに気づいた話

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  • クロサワ
  • 2026/02/27 09:51

「ビバリウム Adoと私」(原作:Ado/著者:小松成美)を読みました。

 

まず、Adoさんのことは何年か前にやっていたオールナイトニッポンをちょくちょく聴いていたくらいで、あまり知りませんでした。

ラジオは本当に面白くて、いつも笑わせてもらっていました。

 

音楽性の好き嫌いで言えば正直なところ苦手な部類でした。

あしざまに言いたいわけではなく、本当に単純な"好み"の問題として、ボカロ曲に苦手意識があります。

その点について、読了後に様々な反省があったので書き残します。

 

若い頃から耳にはしていたニコニコのボカロ曲特有のサウンドに対して「素人臭いな」とか偉そうな感想を抱いたりしているうちに「アップテンポなピコピコ音はどうしてもうるさい」と感じてしまうお年頃になってしまった。

 

ただ、ボーカルとして圧倒的だとはずっと思っているので、曲調の趣味が合うものに限らず「やっぱスンゲェなぁこの娘」と思いながら何曲か聴いているうちに自然と自分の"聴ける"曲の幅が増えていきました。

学生の頃から数年前までなら絶対に聴かなかった音楽がいつの間にか嫌ではなくなっている。

そんな中ライブの映像を見たら度肝を抜かれて、それからは僕の中で彼女は日本のエンタメ及びボーカリストとしての技術的な極致と位置付けるようになりました。

 

同世代以上には、曲調やテクニックを詰め込みまくった技巧派自体に苦手意識のある方が少なくないと思うのですが、一度先入観や好みを捨てて歌唱力評価という嫌らしい視点で聴いてみていただきたいです。

彼女は日に日に進化しているのでできるだけ新しい曲がいいと思います。

そんなわけで、小説を読むまでは「もっと俺好みの曲を歌ってくれたらいいんだけどな」と思ってました。

 

さて、

件の本を読み終えてみると、先述の『自分の聴ける曲の幅が増えていきました』というのは、まんまとAdoにやられていたんだなということに気がつきました。

そしてこれまた先述の『ボカロ曲に苦手意識があります』という点にトドメを刺された気持ちです。

音楽としての好みはまぁ好みの話なのでこれはもうどうしようもないのですが、文化としてのボカロにものすごく興味が湧きました。

 

「好き・嫌い」で「理解」をしようとせず目を逸らしてしまえばどんどん自分の世界が狭くなることはよく知っているつもりだったし、意識的に人よりは何でもかんでもインプットし続けてきた自負もあったのに。

ちょっと目を向けただけで『なるほどこれは面白い』と思える自分好みな世界観がそこにあったのを見落としてしまっていた自分にがっかりしました。

彼女の圧倒的な歌唱力と、今回の本がなければ一生それに気がつけなかったかもしれない。感謝。

 

ニコニコ動画の「歌ってみた」と言う文化はご存知でしょうか。

当然知っているでしょうが、あらためて。

 

主に「ボカロP」「歌い手」「絵師」と呼ばれる人たちが居ます。

彼らはインターネット上で作品を発表します。

例えばボカロPがボーカロイドに歌わせた曲を世に放つ際、インストも併せて世に放つそうです。

そうすると様々な「歌い手」がその「歌ってみた」を世に放ちます。

世に放つ際には発信者のアイデンティティとなる「絵師」によるアイコンや、動画なんかも必要になってきて、一つの作品に対して様々な職人が関わっていくことになります。

他にも「踊ってみた」やファンアート等、様々な作品が派生的に生まれたりします。

携わる人たちは互いにリスペクトを持ちながら。

 

これって最高だと思うんです。

僕の思う理想郷に近い。

当然存在は知っていたし、その程度のことはなんとなく理解していたはずなのに「好みでない」と言う理由で深く考えようとしてこなかった自分が恥ずかしいです。

 

小説の中で、彼女はこのボカロという文化を広めるために活動しているとしきりに言い続けていました。

この文化における「歌い手」として活動し続けることが、メジャーデビューの際などに権利云々の問題でネックになったことは明らかです。実際に彼女自身や周りの大人たちがかなり苦労したことが小説には書かれていましたが、彼女は世界の歌姫となった今もなお「歌い手」を自称し続けています。

思えばラジオでもしきりに言っていたはずなんですが、小説の中で彼女自身がいかにこの文化に救われてきたかについて、彼女の辛い体験を交えて、おそらく痛みを伴うであろう形で人生を賭けて発信してくれなければ見向きもできなかった。

つまり、僕は彼女の狙い通りの感想を抱くに至ったわけです。

彼女はこれからも自らが定めた使命を果たし続けるでしょう。

「もっと俺好みの曲を歌ってくれたらいいんだけどな」なんて身勝手なことはもう思っていません。

応援しています。

 

 

 

ここからは本の感想ではなく、これを読んで自分の中に生まれた余談です。

作中でそのような意図は全く語られていないことはハッキリ前置きしておきます。

 

僕はかねてから著作権というものについて、現代においては無用の長物ではなかろうかと思っています。

二次創作やリミックス、引用やオマージュによって一つの作品が時代を超えて広がっていくのが好きなので、必要以上に「権利」というお墨付きを与えるのはその阻害になっていやしないかと思うのです。

巨大資本から作家を守るためのものだということはよくわかりますが、SNSやNFT等で個人による自己防衛も充分可能になってきた今、相対的に巨大資本による囲い込みのための手段という側面の方がかえって強くなってきてしまっているように思います。

だから僕はここ数年、誰に管理されなくても権利を主張できるWeb3に関心を寄せていたりもします。

著作権そのものというより「管理者からの過剰な保護」という余計なお世話の方に違和感を覚えていたのかもしれない。

 

そしてAdoから教わったボカロ文化はまさにそんな世界だと思いました。

DAO的に言えば、

一つの作品に対し、自由なフォークと派生プロジェクトが常に発生し続ける文化と言えるかと思います。

誰に管理されてそうなるわけでもなく、派生が価値を増幅し続けます。

トークンはないが、再生数という形で貢献が可視化され、相互に利益も得られます。

 

少なくともこの文化圏には「創作よりも防衛が優先される空気」はあまりなさそうです。

Web3は思っていたよりも、というよりも世間一般よりもむしろその空気が強いように思います。

中央不在で個人の自己防衛力が高まれば創作側にリソースが向くと思ったのですが・・・。なんか思ってた方向にはまだ進んでないですね。文化が追いついていないだけかもしれませんが。

Web2からあるボカロ文化は、互いの権利を明確にし、理解しあった上でそれを互いに「許可する」という儀式によって創作活動をブーストさせてきたのでしょう。プラットフォーム側もかなりそれを後押ししてきたようです。権利の理想的な運用に思えます。

 

こんな世界が20年前からあったことにも、自分がそのことに目を向けていなかったことにも驚きです。

世間知らずもいいところです。勉強になりました。

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