私は名古屋の7つ大規模予備校、塾、専門学校で14年間非常勤講師をしていた。30歳から44歳までのことだ。そこで、何度か京大受験生の英作文の添削を依頼された。
私が名大卒で、アメリカ生活経験があり、英検1級を持っているので信頼された。しかし、英作文というのは採点が難しいのだ。
文体も内容も全く違うものを
「こっちは74点。あっちは57点」
と、どう評価するのだろう。
生徒の方は、赤本(教学社)や青本(駿台)の模範解答どおりに書けば、本番で満点をもらえると勘違いしている。京大「医学部」でも最高点は8割ほどだ。
教学社や駿台、河合塾の模範解答はどうやって作られるのかご存じだろうか。もちろん、講師たちが集まって作る。
私が名古屋で出会った英語講師の方たちも、似たような学歴だった。何より、模範解答となっている英語が、私の目から見ると
「これで、本当に京大に合格できるのかな?」
と、疑問に思ったレベル。京都大学を一度も受けたこともなく、合格したこともないのに
「これが京大に合格できる答案だ」
と、お金をとって発表している。
私は、名古屋大学卒業で、英検1級でも、そんな厚かましいセリフは吐けなかった。本を買っていただいたり、授業料を払ってもらうのなら、いいかげんな解答を発表できない。
私はそう考えた。実証していないのに、合格できる答案などと言えばサギだ。
自分も、一度も京都大学を受けたことがなかったから、とりあえず受験して何点くらいもらえるのか実証しようと思った。平成17年のことだ。49歳だったから、予想以上に手続きがめんどうだった。
まず、四日市高校に行って卒業証明書と調査書をもらおうとしたら、事務員の人に
「そんな前の成績表が残っているわけがありません」
とのことだった。それで、京都大学に電話して、卒業に必要な単位をとったことが証明できる書類があればよいと返事をもらった。センター試験も始めてだった。受験会場の三重大では、入口で不審者と思われ呼び止められた。
ホテルの手配や、新幹線の予約など旅行代理店で相談して、とってもらった。
平成18年、20年(文学部) 正解率の平均 66%(受験英語)
平成21年、22年(教育学部)正解率の平均 76%(資格英語)
平成24年、25年(総合人間)正解率の平均 79%(ネイティブ英語)
私はアメリカで英語を教えていたので、日本の受験参考書に懐疑的だ。not until とか take it for granted なんて、ほとんど聞いたことがない。渡米当時に、そんな受験英語で話し始めたら、いろいろ注意されて現地で使われている英語に直すのに苦労した。
英検1級や、通訳ガイドの国家試験を受けている頃に、ネイティブの講師が
「なんだ、これは?シェークスピアの時代の英語か(笑)」
と、冗談を言っていた。
でも、日本の大学だから最初の2,3回はガチガチの受験英語で解答を書いてみた。すると、成績開示の結果が6割台で、ビックリ。「ボーダーは越えるかな」という、憺たる有り様だった。
それで、次の2回は「文学部」から「教育学部」に変えて、英検1級の教本にあるような少し古い口語で書いてみた。結果は、7割台に跳ね上がった。しかし、予備校講師がこれでいいわけない。
最後の2回は、「総合人間学部」に変えて、アメリカにいた頃のネイティブの英語にスタイルを変えて書いてみた。すると、8割を突破した。
こうしてみると、京大を出ているだけでは8割はムリ。大抵の合格者は、7割台で合格している。8割に達するのは、私のようにアメリカ暮らしの経験があってネイティブの英語を知っていて、かつ英検1級ていどの英語があること。現役の頃に、旧帝程度は合格していること。
ほとんどの予備校や塾講師は、この基準に満たないけれど塾生たちは違いが分からないから問題ない。そのため、京大を落ちた先生が「京大受験講座」の指導をしている。
違いに気づくのは、京大でも上位合格、あるいは医学部志望の子だけ。
もちろん、予備校や塾講師ばかりか、学校の教師でも京大合格レベルの英語を指導できる先生は限られている。でも、問題ない。そもそも、京大受験生などほとんどいない高校ばかりだから、誰も先生の英語力不足に気づかない。
「自殺する」を英語で書いてもらうと、
do suicide take suicide make suicide get suicide など、いろいろ現れる。ひどいのになると play suicide などというのもあった。受験英語では、考えられる組み合わせかもしれないが、正解は一つもない。
commit を使う。理由をいろいろ考えても仕方ない。ネィティブがそう言うのだ。ごちゃごちゃ言うな。
この「ごちゃごちゃ言うな」は、英語で何と言うのだろう。受験英語に毒されていると、
「シス単に“ごちゃごちゃ”という単語はありません」
と言う。重症だ。
英作文というのは、
「自分がその立場なら・・」
という想像力が大切なのだ。その苛立ちの瞬間に自分が発する言葉。それが、
Don't complain! なら、それが正解なのだ。英作文に優劣をつけるのは、上級者になると難しい。人格が現れるからだ。
京大レベルになると、初歩的なミスなどほとんどしない子の集団だ。
したがって、指導する方も文法や語彙だけでは対応できない。様々な場面での人の反応を体験してきた人生経験豊富な人でないとムリ。
ところが、予備校や塾の現状を見てほしい。学校の先生を見てほしい。私の知っている講師や教師は・・・
私の実験で分かったことは、京都大学の英語二次試験の採点基準は
受験英語<資格英語<ネイティブ英語
という、当たり前の結果だった。ただし、その区別がつかない人には、有益な情報とならない。
私は教材研究のために、Z会を8年間続け、河合塾や駿台の「京大模試」を10回受けた。未熟な生徒は
「すっごい!真っ赤になって戻ってきた」
と感動していたが、私には
「頑張っているのは採点者だけで、生徒のプラスになるアドバイスがない」
としか見えなかった。
この実験は楽ではなかった。英検1級や通訳ガイドの国家試験に合格するまでに39通の「不合格通知」「合格通知」を受け取った。
京都大学を1回受けるには、受験料や交通費、宿泊費を合計して7万円かかった。だから、7回受けると50万円以上かかった。
そのため、禁酒禁煙・ギャンブル、女遊びなどする時間もお金もなかった。もともと好きではなかったが。
結局、10年ほど時間が必要だった。
私は文系出身なので「数学」を指導する時も、同じ手を使った。オリジナル、チェック&リピート、1対1、赤本を2周ずつやった後で、京大二次試験で正解率を確認してから、数学Ⅲの勉強を始めた。
京大理系を受ける四日市高校の上位の子の指導をすれば、数学Ⅲの習得度が確認できた。
とにかく、実証することが大切。
「仮説は実証されなければ真実ではない」
この実験で分かったことは、
1、学校で教えられている「受験英語」では、京大英語で高得点は望めない。
2、予備校、塾、学校の教師が京大卒、英検1級でも高得点は望めない。
3、8割越えをしている先生を見つけるのは、極めて難しい。
この3点だ。
そこまで極めても、違いが分かる人など日本にそう多くない。毎年、京大を受験するのは1万人弱。合格するのは3000人ほど。その 0.1% の人が私に気づいて通信生になってくれる。
一部、続かない人もいるけれど、通塾生と合わせたらビジネスとして十分に成立する。私は大規模にするつもりがない。優秀な生徒がそんなにいるわけないからだ。
万一、知名度が全国区になり申し込みが殺到したりしたら通信生は閉鎖するつもりだ。少数精鋭が私のスタイルだからだ。
現在は、
「Youtube 動画や、ブログなどのネットで情報はどれほど拡散するか」
の実験中だ。4年でアメブロの「受験生」ランキングが1位となったが、通信生はまだ受け入れられるので閉鎖はしない。何年間あれば、SNSで受け入れ不可になるまでの生徒が集まるのかが、知りたい。
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