(場面1)
戦闘機が飛び回る音。戦車の動く音。
1945年、8月の中学校。
(教師) 「いいか。アメリカ軍の兵士は畜生以下だ。みんなでやっつけるんだぞ」
(生徒)「はい。鬼畜米英!アメリカ人は鬼だ、畜生だ!」
原爆の爆発音。天皇陛下の玉音放送(ぎょくおんほうそう)。
1945年、9月の中学校。
(教師)「いいか。日本は戦争で間違いを犯したんだ。アメリカの指導のもとで日本は生まれ変わるんだ」
(生徒)「でも、先生、先月までアメリカの兵隊さんは鬼だって言っていたのに」
(教師)「いや。これからはアメリカの生き方を模範として日本人は生まれ変わるんだ」
(生徒)「・・・。先生は裏切り者だ」
(教師)「え?」
(場面2)
(高木)「桜さんは教育学部をめざしているんですよね?」
(桜 )「はい。先生と同じです」
(高木)「卒業後のことは考えているの?」
(桜 )「教師にだけはなりたくない。やっぱり、先生のような塾講師か予備校の講師かな」
(高木)「どうして教師はダメなの?」
(桜 )「あの人たち偽善者だと思います」
(高木)「どういうこと?」
(桜 )「だって、受験って蹴落としあいの椅子取りゲームじゃないですか」
(高木)「まぁ、そうだね」
(桜 )「ワンチームとか絆とか戦前の精神論は若者には通じません」
(高木)「じゃ、桜さんはどうするの?」
(桜 )「ありのままの現実を教える先生になりたい。そうしないと世界の中で生き残れないじゃないですか」
(高木)「そのとおりだけど、桜さんのように有能な女子だと男子が怖くて近寄れないかもね((笑)」
(場面3)
暴走族のバイクの爆音が聞こえる。中学校の校庭に乗り込んでくる。
(教師)「コラぁ!おまえ、何をやっている!」
(ゾク)「ハハハ、捕まえてみろよぉ」
バイクは爆音を轟かせて校外に去ってゆく。
教室内では授業中。
(生徒)「おい、班長。オレを分からせてみろよ」
(女子)「あなたには二次関数は理解できないわ。っていうか、ヤル気ない人には何も理解できない」
(生徒)「なんだと!お前は班長なんだからオレを分からせるのが仕事だろうがぁ!!」
(場面4)
女子生徒は授業後に職員室に向かう。
(女子)「先生、先生はヤクザのような反社会勢力とつながりがありませんよね」
(教師)「いきなりなんだ?あるわけないだろう」
(女子)「じゃ、どうして授業で私たちにだけヤクザのような生徒を助けるように強制するんですか?」
(教師)「そ、それはだな。クラスの一致団結というか絆というか・・」
(女子)「分かりました。では、私は来週から登校しません」
(教師)「え?」
(女子)「先生は校内にバイクで乗り込んできた人があの子の兄だってご存知ですよね?父親がヤクザってことも」
(教師)「う、まぁ、そうだな」
(女子)「私は卒業に必要な出席日数をクリアしているはずです。では、失礼します」
(教師)「ち、ちょっと待て」
(女子)「私、名古屋の南山女子を受けるんです。時間を無駄にしている余裕がないんです」(なんざん)
教師の内なる声
『学校の方針に反対したヤツが合格してしまったら学校の面目丸つぶれじゃないか。落ちろ、お・ち・ろー』
1か月後の合格発表。
(女子)「あった!やったー、これであの子たちとオサラバできる!」
(場面5)
合格報告をしに高木先生を訪れる桜。
(桜 )「高木先生、合格しました!」
(高木)「おめでとう。でも、これからだよ」
(桜 )「はーい、分かってまーす!」
(高木)「留学を考えているんだよね?」
(桜 )「はい。どこか推薦の英会話学校ってありますか?」
(高木)「私も幾つか利用したけど、どこも問題が多いね」
(桜 )「どういうことですか?」
(高木)「四日市と名古屋の英会話学校で出会ったネイティブ講師はフィリピン系、アラブ系の方もいた。白人でもフランス人とかチェコ人の方だった。つまり、英語が母国語じゃないんだよ。まぁ、一般の人はその英語の違いが分からないけど」
(桜 )「そうなんですか?」
(高木)「ヒドイ場合は不良外人だったりする」
(桜 )「それなら高木先生と英語でチャットしている方がましかな(笑)」
(高木)「そうかもしれない。月額1000円だからね」
(桜 )「今の発言はステルスマーケッティングですね(笑)」
(場面6)
塾の卒業生が塾を訪問している。
(男性)「先生、お久しぶりです」
(高木)「公認会計士の試験に合格したんだって?」
(男性)「はい。京都で事務所を開く予定です」
(高木)「すごいね」
(男性)「先生が教えてくれたことは本当でした」
(高木)「私が何か言ったっけ?」
(男性)「高校から価値観が逆転するって」
(高木)「田舎で育つと自覚がない子が多いから」
(男性)「助け合いではなく蹴落としあいが始まるって」
(高木)「そうしろとは言ってないよね。現実を伝えただけ」
(男性)「あれは助かりました。北勢中学校では愛と絆。四日市高校からは弱肉強食でした(笑)」
(高木)「四日市高校も京都大学も少数派だから多くの人の理解が得られない。黙っているんだよ」
(男性)「分かってます。私ももう大人ですから(笑)」
(高木)「先人(せんじん)に恥ずかしくない生き方をしような」
世論は振り子の運動の法則に従う。=ショーペンハウアー=
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