ここ2週間で、Uniswap protocolのMKRトークンのプールサイズと取引量が激増しています。CoinGeckoのデータによると、2019年2月11日現在、CEXと肩を並べて全MKR取引量(daily)の15%を誇っています。
数値的なファクトチェックをしきれていない部分がありますが、これは
・OasisDexの停止
・KyberNetwork が Uniswapの流動性を統合
・取引増によりUniswap protocolが正のループへ
という要因が重なった結果と思われます。
2019年1月末にOasisDexが閉鎖しました。MakerDAO純正のDEXであるOasisDexはMKRの主な取引所になっていた(と思われる)ので[注1]、多量のMKRが次の流動性を求めてさまようことになります。
注1:
以前のOasisDexでのMKR取引量を示す資料を上手く探せませんでした。OasisDexのMarketContractを解析すれば分かるはずなのですが。かろうじてOasisDexのサイトから数日前までの取引量を確認できました(次図)。
1月末ごろから、KyberNetworkがUniswapをリザーブとして活用し始めました。
参考: KyberUniswapReserve
Uniswap protocolは流動性提供者がETHと任意のトークンを価格に合わせた比率でセットにした流動性トークンを作成し、取引希望者はそのトークンコントラクトとやりとりするというものです。価格は「取引量」と「コントラクト内のETHとトークンの比率」で自動決定されます。取引手数料は0.3%であり、流動性トークンコントラクト内のプールサイズが大きくなるほど売買のスプレッドが0.3%へ収束していくことになります。
参考: https://docs.uniswap.io/
KyberNetworkはベストレートなリザーブを探す際に、Uniswapの流動性トークンコントラクトを参照するようになったわけです。
さて、OasisDexを失ったMKRトレーダーのいくらかは新たにKyberNetworkを利用し始めたものと思われます。
UniswapReserveは他のリザーブよりもレートが良ければKyberNetworkの取引で利用されます。もちろん、直接Uniswapを利用し始めたMKRトレーダーもいたでしょう。とにかく、OasisDexとKyberNetworkがUniswapの流動性トークンコントラクトを用いたMKR取引を増やすきっかけとなりました。
Uniswapの流動性提供者は流動性トークンを受け取ります。流動性トークンの保有量は流動性トークンコントラクト内のプールサイズに対しての取り分を示します。取引手数料の0.3%はプールサイズとして蓄積されていくので、このことによる取り分の増加が流動性提供のインセンティブです。
流動性提供によるリターンはどの程度のものでしょうか?2月5日を例にとると、668-ETHのプールサイズに対して、trading volume は 252 ETHであり、プールサイズの38%に及びます。つまり利率は
日利: (1 + 0.38 * 0.003 / 2) ^ 1 - 1 = 0.06%
年利: (1 + 0.38 * 0.003 / 2) ^ 365 - 1 = 20%
と現状でかなり魅力的なものです[注2]。
注2:
ETH/MKRのレート変動によってはそれぞれのトークンをただHODLした場合よりも損をする場合があります。参考↓
そういうわけで、Uniswap protocolは取引量が増えると、流動性提供が増えるという性質を持っています。そして、流動性提供が増えるとより良い取引レートを提供できるので、KyberNetworkのリザーブとして利用されやすくなります。すると...正のループのできあがりです。
1: Uniswap protocol 利用の取引増
2: 流動性提供のインセンティブ増
3: ベストレート提供の確率増
4: (1へ戻る)
トップに挙げたUniswapのMKR用流動性トークンに関する統計を表す図を再掲します。Liquidityと(Trading)Volumeが共に成長していく様子が確認できます。
まとめると、Uniswap protocolを用いたMKR取引の激増は、OasisDexの停止とKyberNetworkのUniswapReserve統合というきっかけがUniswapの正のループを稼働させたものであると考えられます。
ちなみに時を同じくして、DexIndexとDEX.AGというDEX間の価格比較サービスも登場しました。これらのおかげでベストレートを見つけやすくなり、KyberSwap/Uniswapの利用頻度が増えた影響もあると思われます。
今後、他のトークンでもMKRのようにUniswap protocol利用の取引が増えていくのか注目したいところです。さらには極限まで流動性が高まると、KyberNetworkのPermissionless reserveによって、0.3%よりも狭いスプレッドで取引可能な場面も出てきたりするのでしょうか?楽しみです。
著者 kyoronut