2020年に入ってopyn, Hegic, Primitiveといったオプション系のDeFiプロジェクトが出てきました。こちらの記事ではオプションの用途として、UniswapのImpermanent lossをヘッジできることが挙げられています。本記事では、どの程度のヘッジをするためにどの程度のオプションサイズが必要なのかを考察します。
UniswapのImpermanent lossとは、流動性提供者が負うリスクのことで、流動性プールに入場時と退場時のアセットの価格変動によって生じるものです。詳しくはこちらをご覧ください。
オプションはプットとコールの買い/売りで様々な戦略をとれますが、今回の目的は価格変動に由来する損失をヘッジすることなので、価格変動で利益の出る戦略をとります。プットとコールの両方を買うロングストラングル/ストラドルです。
参考: https://www.hoxsin.co.jp/guide/option/strategy.htm
本記事では計算のし易さのために、ストラドル(プットとコールで行使価格が同じ)を使います。
1 ETH = 100 DAIの価格のときに、1 ETHと100 DAIでUniswapプール入場したとしましょう。そこから1 ETH = 200 DAIと価格が2倍になったときにプールから退場するとします。
(手数料収入は無視しますね。)
こちらの記事で解説したことを使うと、退場時に得られるのは
sqrt(1/2) ETH + 100 * sqrt(2) DAI
です。わかりやすい数字に直すと
0.707 ETH + 141 DAI
です。ETHとDAIはプールの性質上、等価になっているので、DAIでまとめて表せば
282 DAI
です。
さて、プールを特に使わず、1 ETHと100 DAIをHODLしていた場合の資産価値は
300 DAI
ですね。そういうわけで、6%ほどのImpermanent lossが発生してしまいました。
ではここで、天下り的ではありますが、1 ETHを100 DAIで買うコールオプションを0.17 ETH分だけ持っていたらどうでしょうか?これを行使すれば、17 DAIで0.17 ETHを買うことができ、0.17 ETHをすぐに売れば34 DAIになります。すると、プール退場時の資産は
0.707 ETH (= 141 DAI) + (141 - 17 + 34 ) DAI = 300 DAI
です。HODLしていた場合の価値と同じになりましたね。
先の例では0.17 ETH分のコールを買っておけば2倍の価格変動からくるImpermanent lossを相殺することができました。このオプションサイズと価格変動の関係を定式化します。変数を以下のように定義しましょう。
a := オプションサイズ / プール資産のサイズ
r : = 退場価格 / 入場価格
先の例で退場時に得られるDAIは
100 * sqrt(2) DAI
でしたが、100を1と取り直してしまって、2をrで置き換えれば、
sqrt(r) DAI
です。
オプションを買っていたときの退場時資産の式は
sqrt(r) + sqrt(r) - a + a * r DAI
と変数で置き換えられます。
対して、HODL時の資産は
r + 1 DAI
です。
これらが等しくなることがヘッジの条件なので、そのときのaをrで表すと
a = (2 * sqrt(r) - r - 1) / (1 - r)
となります。
ちなみにリターンは、
(2 * sqrt(x)/(1 + x)- 1 + a * (x - 1)/(1 + x)) * 100 %
と表せます。一見複雑ですが、Impermanent lossとオプション取引益の和になっています。例に挙げたa = 0.17 の場合、それぞれの関係は以下の図のようになります(price_ratioがrのことです)。設計通り、r = 2のところで和(Net P&L)が0になっていますね。
UniswapのImpermanent lossをヘッジするのに必要なオプション取引のサイズを定式化しました。
実利用では、ここにオプションプレミアムとUniswapの取引手数料の期待収益という要素が加わって判断をすることになります。
↓書き忘れた分を見事に補完してもらいました。
続編記事↓