暗号資産をつかったライフスタイルを提案するブロックチェーンサービスのAvacus株式会社は5月29日、暗号資産交換業者への届出を完了したことを発表した。これにより今後はみなし業者としてサービス運営体制を強化し認可を目指していくとしている。
規制に関するところでは、オンチェーン化に向け開発を進めていくことが昨年末に発表されていたため、ここにきてまさか交換業を取りに行くとは、正直に言うと大変驚いた。
この記事では、Avacusが交換業取得へ乗り出した経緯とともに、その戦略について独自視点から解説していく。
改正資金決済法、いわゆるカストディ規制が成立したのは今から1年前の昨年5月31日。それまでの現行法では取引所や交換所のみが暗号資産(仮想通貨)交換業の認可が必要だったものが、改正法では「他人のために暗号資産の管理や交換・移転を行う」だけでも交換業登録が必要となるカストディ事業者へ該当し、規制の対象となることなどが盛り込まれた。
取引所以外のほぼ全ての暗号資産事業者が該当するため、小規模なスタートアップらの重責となることは明らかで、実際にこの改正法の成立を機に多くの暗号資産事業者は撤退もしくは事業転換を余儀なくされることとなった。
「交換業を取るか、廃業するか」に関わる問題であるため、多くの事業者がなるべく見解を後出しにしたいという空気感が漂う中、Avacusは他の事業者に先駆ける形でいち早くユーザーに対しその立場と見解を発信した。
当時Avacusは、その1ヶ月前に「Avacus株式会社」を設立したばかりだった。
CEOであるまつかぶ氏自らがユーザーに対し、逆風に立たされている現状の立ち位置を明らかにした上で「事業存続への道を模索している、僕達に少しでも力を貸してほしい」と語りかけた。
それから1年が経ち、今回も交換業への届出が完了した早い段階でユーザーへ報告する形が取られた。おそらく「規制問題で存続を心配しているユーザーを安心させたい」意味合いと「Avacusの本気度を見せたい」ねらいがあるのではないかと思う。Avacusらしい、彼らのインテグリティ(真摯さ)が表れている。
彼らは1年経っても相変わらず圧倒的な熱量を持ち続けていた。
Avacusの交換業申請が驚きをもって嘱目されるのには、ひとつには業取得への負担の重さがあろう。暗号資産交換業の認可を得るためには大きなコストや時間がかかるほか、コンプライアンスなど法規制に則った体制の整備などが必要となり、事業規模の大きくないスタートアップにとってその負荷は大きい。資金的な体力勝負も意味するため、プレスリリースが流れると「あのAvacusが?!」と、ユーザーだけでなく界隈中のざわつきがタイムラインを駆け抜けた。
Avacusは暗号資産をつかったショッピングサービス(AvacusShopping)のローンチからはじまり、クラウドソーシングサービス(AvacusAsk)送金SNSサービス(AvacusPay)暗号資産版フリーマーケット(AvacusBazaar)とこの2年半で複数のプロダクトを世に出しており、アップグレードを含めると何らかのリリースをほぼ毎月打っている。ブロックチェーン企業として比類のない発信量を誇ってきたが、有名な仮想通貨メディアから全国紙の電子版までここまで広く掲載されたのはこれがAvacus史上初めてだと思う。
暗号資産交換業者の審査の流れは、以下の通り。
①届出(事前審査)
②本申請
③審査
④暗号資産交換業の登録が完了
届出から半年以内に本申請を行い、申請後の審査におよそ1年ほどかかるとされている。その間、サービス内容・運営方針が変更される可能性があり、変更がある場合には都度周知されるとのことだ。
では審査の結果、残念ながら認可に至らなかった場合にはどうなるのか。
Avacusは現在動いているサービスサイトとは別に、オンチェーン版のサイトを開発中であることが公表されており、交換業の審査に通らなかった場合はオンチェーンで回避するものと思われる。
※改正法では、秘密鍵を預からないウォレットや、マルチシグのキーを一部のみしか保有しない場合などに関しては原則カストディ規制の対象外とされている
オンチェーン版の開発は「Avacusをもうひとつ作るくらいに難易度が高いもの」であるらしいが、無事交換業を取れた場合にはせっかく開発を進めたオンチェーン版はお蔵入りとなる可能性が高く、執念が感じられる。気合がすごい。
先日のステーブルコインDaiの対応にしても、いくら数週間前に海外ユーザーが突然爆増したとは言え、数日で思い立って即実装できたとは考えにくく、ある程度以前から準備していたのではと推察できる。
もっと言うならば、海外ユーザーの爆増も準備の賜物と言えよう。
Avacusは競合サービスであるPurseが閉鎖を宣言する以前から、サイトを多言語に対応させたり、日本以外のAmazonをサポートしたり、着々と海外進出へ準備を重ねてきた。その周到な準備があったからこそ、突然のユーザー流入にも機を逃さず対応できたのである。
ユーザー流入後は日本以外のユーザーランクを撤廃しわずか1日で実装するなど、思い切った決断と瞬発力が彼らの強みだが、その裏には彼らの見えない努力と想像を絶する綿密な準備があるように思う。
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Avacusが交換業を取りに行ったり株式会社化したりすることをICO当初から想定し目標としていたのかどうかは定かではないが、少なくともこの2年半で環境は激変した。
悪い言い方をするが、法改正により多くの暗号資産事業者が死んだ。
利用者保護のための規制とは言え、取引所以外のビジネスを一律に規制し「暗号通貨」の文化そのものを殺してしまうことは果たして本当に利用者保護と言えるのだろうか。新しい技術やそれがもたらすビジネスモデルは既存の業法や規制の枠組みに抵触する場合もあるだろう。勿論、最適化された規制は利用者保護に有効だし技術的な課題もあるということは承知の上で、過剰に強化された規制は社会的課題を技術によって解決しうるイノベーションの芽までも摘んでしまう恐れがあると思う。そして何も育たなくなってしまう。わざわざにそんな劣悪で痩せゆく土壌に種を植えて育てたいと思う物好きもほとんどいない。Avacusは物好きで少し頭がおかしいので除外する。(これは褒め言葉であり冗談である)
小規模なスタートアップとしては異例と言えるAvacusの交換業申請の背景には、志半ばで廃業せざるを得なかった多くの同業やトークンエコノミーの夢をも背負っているという自負があるのかも知れない。と同時に、勝算もあるのだろう。
ふと1年前のまつかぶ氏の言葉を思い出したので転載しておく。
遠くない未来、今の生態系に日本人以外のユーザーもワッと入ってくるかもしれませんね。<中略>
今こそ暗号通貨を通して世の中を面白くする最大のチャンスだと思います。同時に、もしかしたら最後のチャンスかもしれません。
「日本人以外のユーザーもワッと入ってくる」という予言は1年が経った今、まさに現実になっている。
はたしてこれから1年後には、どんな未来が待っているだろう?
どちらに進むとしても、Avacusという前例ができることは後続のスタートアップに道を開く。
Avacus民としてはコミュニティ活動を通じて全力で応援しつつ、彼らのハードワークに感謝しながら、今後もこれまでと変わらない暗号通貨生活を引き続き楽しんでいけたらと思っている。
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