他カテゴリ

変わり者の家

motoko's icon'
  • motoko
  • 2019/09/19 02:21
Content image
2019年9月5日の実話記録

私は牛糞の香り漂う田園地帯で暮らしている。

私が住んでいる集落から少し離れた場所には、最近テレビで見るようなポツンと一軒家がある。

その家には、13年ほど前から腰が90度曲がったおばあちゃんが、美しい顔立ちの娘さんと移り住んでいることは知っていた。

おじいちゃんもいたようだが、一度も顔を見たことがない。去年亡くなったと聞いている。

しかし、まったくと言っていいほど近所付き合いや地域の活動をしないご家庭で、小さな集落では噂がうわさを呼び、変わり者の家と評されてしまうほど。

 

娘さんは、原付バイクしか運転できないらしく、時々バイクで食料品を買ってきて、買い物袋を窓からおばあちゃんに渡しているところを時々見かけていた。

 

今日はめずらしく仕事がオフだったので、庭に出て、愛犬タチコマと遊びながら芝生に水をやっていると、腰が曲がったままのおばあちゃんが、家の前の私道をゆっくり歩いていた。

ずいぶん昔に買ったようなデザインの黒いパンプスを履いて、カツカツと音を立てながら、それはそれは歩きにくそうだ。

 

「変わり者」 と聞いていて、少し戸惑ったけれど、腰を曲げたり伸ばしたりしながら少しずつしか進めないおばあちゃんを見て、ふと、仮想通貨ボランティア「crypvo活動」が頭をよぎった。

私にできる、小さなcrypvo?

 

「こんにちは!どこまで行くんですか?バス停まで送りましょうか?」

他人に声をかけるなんて、そうそうないので緊張した。

「いえいえ、いいんです。郵便局までいつもこうやって行ってますから。」

しかし、バス停までは私の足で歩いて10分ほどかかる。

 

「送っていきますよ!」

「いやいや、本当にいいんです。」

そういっておばあちゃんは歩いていく。

しかし、時々よっこらしょと腰を上げて一息つく姿はとても苦しそう。

 

今まで、全く話もしたことはなかったけれど、腰が曲がったままではバス停まで30分くらいかかりそうなので、少し勇気をもって行動することにした。

 

私は車をおばあちゃんの前に停めて、後部座席のドアを開けてみた。

 

「どうぞ!私もイオンまでお買い物に行くので、ついでに乗ってください。」

「そうなんですか?いいんですか?いや~~~。 本当に助かります。」

申し訳なさそうにしながらも、おばあちゃんは後部座席にゆっくりと乗りかけた。

だが、車高がありすぎたのか、なかなかおばあちゃんは座れない。

ステップ台でも積んでおけばよかった。

歳を取ると、車に座ることも、普通のペースで、しかも無痛で歩くこともできないんだ。

 

Content image

 

私は、おばあちゃんを抱えて乗せた後、ドアをゆっくりと閉めた。

普段よりもゆっくりとカーブを曲がり、制限速度以下で緩やかに運転した。

いつもなら走馬灯のような景色が、今日は額縁に飾っている田舎の風景画のよう。

 

「ちょっと早く着いてしまいましたね。郵便局が開くまであと30分、まだ少し暑いので車に乗って待ってましょう。」

「いや~~~。いいんですか?ありがとうございます。時間はいいんですか?」

「はい!お買い物に行く予定だったのでいいんですよ♪」

 

本当はついでなんかじゃない。

おばあちゃんは本当に近所で噂されるほどの変わり者なのか、話を聞いてみようとおもっていた。

「おばあちゃんは、この土地に住んで長いんですか?」

知っていることをわざわざ聞いてみる。

「13年になりますね。以前は四日市に住んでいたんです。」

「ご主人は去年お亡くなりになったとお聞きしました。」

「そうなんです。朝ご飯を食べて話した後、椅子に座っていたので、呼んだら答えなかったんですね。 ゆすったら、もう死んでいました。82歳だったんですね。」

「そんな。。。死因はわからないんですか?」

「わからなかったんですね。そのまま元気なまま、逝ってしまいました。」

おばあちゃんの顔は微笑んでいるのに、バッグを握りしめる手は泣いている。

「そうだったんですね。。急にお亡くなりになって、それはつらいですよね。」

「さみしいですね。ふと帰ってきてくれるんじゃないかと、思うときがよくあるんですね。」

誰かに話したかった。肉親以外の誰かに。そんな声も同時に聞こえてきた。

「主人は酒癖が悪くて、人見知りだったので仕事を退職したらあまり人と関わらなくてもすむ場所に住みたいといって、この土地に住んだんですね。仕事は大工でした。

主人の酒癖については、私の母から言わせると、

『連れ添うということは、お酒があろうとなかろうと、互いに何かの癖があるものだ。女癖、喧嘩癖、それぞれ悩みながら一緒に添い遂げるもの。』

というので、52年も一緒にいたんですね。

主人はお酒に飲まれていたけれど、きちんと仕事をしてくれたし、お金はちゃんとポケットにいれてボタンを閉めて大事に持って帰ってきてくれた。

若い後輩には、自分が夕食を食べずに、気前よく飲ませてあげていた。

よく、家族が亡くなったという話は人から聞くんですが、残された人の気持ちは、経験しないとわからないんです。これは本当に、残された人にしか感じられないんですよ。」

一生懸命ご主人のことを話すおばあちゃんの声を聞いていると、だんだん、目の前の景色がゆらゆらと揺れて見える。

 

私は、とっさに娘さんの話に切り替えた。

「そういえば、娘さん、とても美しい方ですね!」

「^^。ありがとうございます。主人の親戚は皆、美男美女だったんです。そしてとても頭がよくて学校でも1番だったそうです。主人はそうでもなかったですけど^^。」

おばあちゃんの笑顔はかわいらしい。

そう言っている間に朝9時になり、郵便局が開いたので、後部座席のドアを開けておばあちゃんを降ろし、郵便局に案内した。

「えっと、何の用事ですか?振込とか、郵便とか。」

「姉が、年金が足りないから1万円貸してというので、送るんですね。現金書留を用意してきました。今まで何度も送ってますけど、返さなくていいとお手紙を入れてるんですよ。うちもお金はないけれど、これくらいはしないとね。主人はもっと人のためにしていたから。」

Content image

みんながいう「変わり者」の真の姿は、ただただ夫の精神を純粋に愛するすずらんのような女性だった。

 

Content image

 

おばあちゃんを家に送り届けると、庭の木から鳩がこちらをじっと見つめている。

気のせいなのはわかっているけれど、どうしても鳩とおじいちゃんの姿がかさなる。

 

おばあちゃんが愛しているおじいちゃんは、まだ確かにここにいて、おばあちゃんと暮らしている。

おばあちゃんの魂と一緒に昇りたくて、でも、今はおばあちゃんを見守りたくて。

 

(もう少しだけの間、妻のこと、助けてくれませんか)

 

時空を超えた、言葉ではないおじいちゃんの声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

Supporter profile iconSupporter profile iconSupporter profile iconSupporter profile icon Supporters link icon
Article tip 15人がサポートしています
獲得ALIS: Article like 49.92 ALIS Article tip 291.80 ALIS
motoko's icon'
  • motoko
  • @motoko
一応攻殻機動隊所属です。いろんな仮想通貨を試しています。無料で集めるのもすきです。庶民派ですが、未来に希望を抱いています。https://twitter.com/motokokusagane

投稿者の人気記事
コメントする
コメントする
こちらもおすすめ!
Eye catch
他カテゴリ

警察官が一人で戦ったらどのくらいの強さなの?『柔道編』 【元警察官が本音で回答】

Like token Tip token
114.82 ALIS
Eye catch
ビジネス

海外企業と契約するフリーランス広報になった経緯をセルフインタビューで明かす!

Like token Tip token
16.10 ALIS
Eye catch
トラベル

無料案内所という職業

Like token Tip token
84.20 ALIS
Eye catch
クリプト

ジョークコインとして出発したDogecoin(ドージコイン)の誕生から現在まで。注目される非証券性🐶

Like token Tip token
38.31 ALIS
Eye catch
クリプト

Bitcoinの価値の源泉は、PoWによる電気代ではなくて"競争原理"だった。

Like token Tip token
159.32 ALIS
Eye catch
ゲーム

【初心者向け】Splinterlandsの遊び方【BCG】

Like token Tip token
6.32 ALIS
Eye catch
他カテゴリ

テレビ番組で登録商標が「言えない」のか考察してみる

Like token Tip token
26.20 ALIS
Eye catch
他カテゴリ

警察官が一人で戦ったらどのくらいの強さなの?『柔道編』 【元警察官が本音で回答】

Like token Tip token
114.82 ALIS
Eye catch
グルメ

バターをつくってみた

Like token Tip token
127.90 ALIS
Eye catch
他カテゴリ

京都のきーひん、神戸のこーへん

Like token Tip token
12.10 ALIS
Eye catch
他カテゴリ

SASUKEオーディションに出た時の話

Like token Tip token
35.87 ALIS
Eye catch
クリプト

NFT解体新書・デジタルデータをNFTで販売するときのすべて【実証実験・共有レポート】

Like token Tip token
121.79 ALIS