白馬岳や八方尾根から東の方向を眺めると、高妻山の手前に東山連山が横一直線に広がっている。堂津岳はその最高峰である。しかし一見してどれがその山かはわからない。あまり目立たず、あれが堂津岳だと言い当てる人はかなりの山好きの人だろう。雪深くアクセスも不便なため登山者はあまりおらず、残雪期限定の山。ところが、山頂からは北アルプス、雨飾、火打、妙高、高妻、戸隠など360度のパノラマ大展望が広がる隠れた名峰である。
その堂津岳のふもと、鬼無里(きなさ)村の奥裾花(おくすそばな)自然園は湿原が広がり、そこに咲き誇るミズバショウ群落は本州随一、尾瀬よりも広大であるという。湿原の回りのブナ原生林にも遊歩道が整備されており新緑の中、散策を楽しめる。
2019/5/25土
4:30 1150mキャンプ場発
5:00 登山口
6:00 稜線
8:55 1927m堂津岳
9:05 堂津岳北峰 9:45
13:15 自然園 14:10
14:40 キャンプ場着
上昇量 1580m
距離 21km
登山前日に自宅を出て、鬼無里の湯に立ち寄り21時頃自然園の駐車場に到着する。広大な駐車場には車がたった一台、横でテントを張っていた。駐車場となりのキャンプ場は営業していない。きれいな公衆トイレの明かりだけが煌々としていた。
トイレから少し離れたところで車中泊。月の出ていない夜空には、星がこぼれ落ちてくるほど散りばめられていた。静かで快適な夜だった。
翌日、明るくなって出発。駐車場から登山口までは舗装路を徒歩で30分ほど。車の進入は禁止されている。自然園入り口の横に「中西山登山口」の表示がある。ここから堂津岳へと向かう。
登山道に入るとしばらくは沢の音を聞きながら背の高いブナ林を歩く。登山道から少し離れたところにミズバショウが咲いていた。サラサラと水の音、鳥の声、ブナの緑、自然を体に感じながらゆっくり歩いて行く。
登山道は沢に沿って延びており、水は次第に細くなって斜面から湧出する水場となる。水の出が少ないので汲みにくい。細いパイプが水の流れる枯れ葉の下に埋まっていたので取り出して突き刺すと、パイプからちょろちょろ水が流れ出た。手ですくって飲むとうまかった。帰りもここで給水しよう。
水場を過ぎてしばらくで稜線に出る。稜線の雪はあらかた溶けていた。5月初めなら藪は雪で埋まって樹木も新芽を出す前なので、純白の白馬を眺めながらの素晴らしい稜線歩きとなるのだろう。
雪が溶けたいま、眺めはよくないが代わりに登山道には花々が咲き始めていた。奥西山周辺は特に多く、サンカヨウ、エンレイソウ、ツバメオモト、カタクリ、ニリンソウなどが見られた。稜線上にサンカヨウがたくさん咲くのは珍しいと思った。
奥西山を過ぎると残雪が多くなった。観光サイトによると奥西山から先は未整備のため通行止めとなっているが道は延びている。しかしこの時期は、残雪で藪が倒れて道を隠しているのでいやらしい。数回道を見失って行き来する。あるいは藪漕ぎして突破する。大変だけどそこが楽しくもある。
稜線上は小さなアップダウンを何回もこなすばかりで標高はまったく上がらない。ようやく堂津岳への登りにさしかかると、樹高が低くなって視界が広がった。振り返ると歩いてきた長い稜線の果てに中西山と東山が見える。
そして残雪を纏った北アルプスが北は白鳥山から南は槍穂高まで、東山のずっと向こうへと伸びていた。すばらしい眺めだ。
危険なヤセ尾根を過ぎ、雪をつないで広々した山頂に出た。しかし山頂は回りに高い藪が顔を出していて眺めは今ひとつ。となりのピーク(北峰?)まで歩みを延ばした。
ここでようやく荷物を降ろし、食事とした。朝出発してから何も食べず途中に水とお茶を一口飲んだだけ。お腹ペコペコで湯を沸かしていつものイトメンのチャンポンメン。
スキーのメッカ大渚山の後ろには、石灰斜面が削られた青海黒姫山、その向こうは日本海。雨飾山は金山から見るのが迫力があって好きだが、ここからも美しいフォルムで視線を引きつける。
遠くには中央アルプスの白い山嶺も見える。百名山、二百名山、三百名山に名を連ねる山々がぐるりと360度取り巻いている。本州随一の名山展望台と言っても良い、そしてこの堂津岳も隠れた名峰である。
しかし堂津岳は山頂付近の登山道は薄く、雪が無ければ藪漕ぎ必至で眺望もあまり良くなくなる。雪が残るこの時期限定の名山である。
こんな素晴らしい堂津岳では、上りでひとり下りでひとりすれ違ったのみ。今日の登頂は私含め3人だけだろう。山頂は貸し切りだった。
帰りの稜線歩きは、気温がどんどん上がり灼熱地獄。いくつもある登り返しがこたえた。延々と続く登り返しに「下山なのになんで登ってんの?」と弱音が出た。奥西山付近で会った年配グループに「堂津まで行ったの?すげーな」と言われた。
喉カラカラになってようやく水場に戻り、チョロチョロの水を少し汲んではごくごく飲み干した。少し下って沢水を頭から被ってクールダウン。5月なのにあまりの暑さ。ようやく生き返って涼しい新緑の中、自然園へと向かった。
ミズバショウは緑の葉が大きくなって、見頃は過ぎた感じだった。
このところ急に暑くなったし、先週までに来ればよかったかな。しかし、それでは稜線の花はまだ咲いていなかったろうなぁ。
そんなことを考えながら散策し、稜線から流れ出てきたであろう美しい水と広大なミズバショウ群に足を止めた。
そして、やはり今日がベストだったと納得した。
サンカヨウはいたるところで見られた。まだ生え始めの若葉が一杯でこれからたくさん花を咲かせるのだろう。
奥西山三角点を過ぎた辺りに群生していた。