その日も僕は最近の日課である深夜徘徊に出ていた。
時刻は午前2時をまわったところ、草木も眠る丑三つ時というやつだ。
人も町も道路もみんな眠っている、暗くて、そして静かだ。
近頃では比較的に暖かく、風の気持ちの良い夜であった、僕は田んぼの真ん中を通る道を選び歩いていた、街灯もなく足元すらよく見えない道だ。
スマホに表示されている道だけが頼りである、両側の田んぼからは草が風にそよぐ音と、たまにカエルの鳴く声が聞こえる。視覚が効かないと音がよく聞こえるのだ。
そんな風にしばらく歩いていたとき、背後、やや遠くで音がした。
タタタタタ
軽い靴音だ、小学生くらいの子供が走っているような音である、こんな時間に子供が外にいるのか、と思い振り返ってみたが、暗くてよく見えない、音も聞こえない、気のせいだったかもしれないと思い再び歩き出した。
ん、やっぱり聞こえる気がする、しかもさっきより大きいか、が、振り返っても何も見えない、音も聞こえない、何だこれは、自分の足音なのか、と思い再び歩き出す。
明らかに聞こえる、絶対に聞こえた、こっちに向かって来ている足音だ、流石に怖くなってきた、やや躊躇したが思い切って振返ってみる。
何も見えない、そんなはずがない、今の音からして、こっちに向かって来ている人がいるならば暗くても見える距離のはずだ、やばい、立ち止まっているのも怖いが、向き直って歩き出すのも怖い、しばらくそのまま固まっていたが、特に何か起きる気配もない、よ、よし、今日はもう帰ろう、さっさと帰ろう、と思い歩き出した。
後ろだ、間違いない、これはもう振り返れる訳がない。
数年ぶりにダッシュした。
民家と街灯があるところまで走り、振り返ってみたがやっぱり何もいなかった。
ーーーーおしまいーーーー
本当の話なのでオチはない。何だったのだろうか、多分子供だ、怖めに書いたが、実際は追いかけてきているという感じはしなかった、ただ軽く走っているような音だ。
たまたま僕と同じコースで日課のジョギングをしていただけかもしれない。
歩いたせいで足や膝や腹筋や腰まで痛いと言っていたが、流石に歩いただけでそこまでなるはずがない、実は数年ぶりに全力で走ったことが原因だ。
霊なんてものがあるのなら一度で良いから見てみたい、むしろ僕は積極的に見たいんだ、と常々言ってきたのだが、振り返れなかった、それどころかダッシュで逃げるというまるで信じている人のような行動を取ってしまった。情けない、これで一生で一度のチャンスを逃したかもしれない。
僕は怖いからそんなものは無いと言っているのではなく、どうせこの世に不思議なことなんて何一つ無いんだ、と絶望しているタイプの人間なので、本当に怖いはずがないのだ、今だって別に怖くない。今日、同じ時間に同じ場所に行けと言われたら普通に行ける、それなのに、あの時感じた恐怖は何なのだろうか、一体どこから湧いて出た恐怖なのだろう。
まあ何にしてもこんな面白いことがあるのだ、深夜徘徊は止められない。