お久しぶりです。
卒業研究の発表も終わりまして、無事卒業が決まりました。人より長かった大学生活ともおさらばです。
そして4月からは晴れて新社会人として働きます。社畜バンザイ。
最近世の中はコロナウイルスの話題で持ち切り。無事私の大学でも卒業式がなくなり、入社式もたぶんないんだろうなと。なんとも締まらない感じですが、こんな危機的状況だとどうこういってられないですね。内定取り消しだけは勘弁してくれ。
さて、先日SBの孫社長のこんなツイートが話題になりました。
「症状が出ているのに検査すらしてもらえない」という国民のために無償でPCR検査の機会を提供するというもの。一見すばらしい取り組みのように見えますが、かなりの批判が殺到し、断念されたようです。
反対派の意見は「混乱を呼び、医療崩壊を招く」というものです。検査をなかなかさせてもらえないのは国の隠ぺいのためじゃないか、という意見(?)もあるなかでこれはどういうことなのか、簡単な算数で考えてみたいと思います。
※本記事は政治的意見・批判を含むものではなく、用いる数値に関してもcovid-19のとは異なる「シミュレーション」であることをご理解ください。また、筆者は医療の専門家ではありません。
ウイルスの保菌者(感染者)を検査するPCR検査の精度は100%ではなく、保菌者を「陰性」と判断することも、保菌者ではない人を「陽性」と判断することもあります。この2パターンを「精度」というひとくくりの言葉ではなく、区別する言葉があります。
(※実際のところ、ウイルスを持っている=病気に罹っているというわけではありませんが、ここでは同じこととさせてください。)
・「感度」・・・ウイルスを持っている人を正しく陽性と判断する確率
・「特異度」・・・ウイルスを持っていない人を正しく陰性と判断する確率
そしてこれらは別々に議論してはならず、併せて考える必要があります。
(極端な話をすると感度が100%である検査を作ることは実に簡単です。検査結果すべてを「陽性」と判断すればウイルスの保有者を陰性と判断することはありません。しかし、これが全く意味のない検査であることは明らかです。)
また、実際は感染者ではないにも関わらず陽性と判断されることを「偽陽性」、感染者にも関わらず陰性と判断されることを「偽陰性」といいます。
それでは本題です。今回のようなコロナウイルスの検査において無差別に検査したとき、「陽性」の診断結果で実際にウイルスに感染している確率はどれほどでしょう?
上で述べた感度や特異度と同じくらいかと思いますか?
それではいくつかの前提のもとで計算してみましょう。
まず感染者の割合。日本国内で722人(3/14日現在)の感染者がいるということですが大幅に多めに見積もって1億人の人口で1万人、つまり0.01%とします。
また検査の感度、特異度に関してはそれぞれ95%、98%としましょう。実際にはもっと低いようですが、高めに見積もり、それぞれ異なる数字を用いることで計算を分かりやすくします。
ではこの前提のもとで無差別に100万人の検査をしてみましょう。
まず、100万人の検査対象の中にいる感染者の数はこちらです。
次に、この100人の中から正しく「陽性」と判断される人、つまり「真陽性」の数は
次に感染者でないにもかかわらず、陽性と判断される「偽陽性」の数は
つまり、「陽性」の判断が下った人のなかで実際に感染している人の割合は
となります。
無差別といえど0.5%以下というのはかなり衝撃的な結果ではないでしょうか。国民全員検査できればハッピー?そうなりそうもありません。
こうなった原因は偽陽性の数にあります。高い精度での検査を行ったとしても、感染者の割合が少ないものに対して無差別に検査を行ってしまうと今回のシミュレーションのように実際の感染者の約200倍もの人を病院送りにしなければならなくなります。これが、医療崩壊を招くと主張する人々の根拠になります。
ちなみに、同様にして陰性のうちで感染者である確率をだしてみると、
こちらはかなり低い確率になりました。「陰性」といわれれば結構安心かもという印象を受けるでしょう。
このような事態にしないために必要なのは、検査対象における感染者の割合をできるだけあげること。つまり検査前にスクリーニングを行い、検査対象を絞ることです。
これにより例えば検査対象のうち50%が感染者であるという状況を作り出せたという下で同様の計算を行ってみましょう。
検査精度の前提はそのままで検査対象が100人、うち感染者が50人とします。
かなり高い精度で陽性の人を発見することができ、適切に治療を行うことができます。
しかし、ここには新たな問題が生まれ、「検査されない感染者」が発生してしまうことです。スクリーニングにもれて検査されなかった人は偽陰性とも異なる新たな感染源になります。検査されない感染者が増えるともちろんパンデミックを防ぐことはできません。
当たり前の結論ですが、検査しすぎも検査しなさすぎもよくないということですね。
検査キットが足らないというのはこれとはまた別の問題となるので病気に応じた適切な検査と治療の環境が整い、事態が収束していくことを祈ります。
ではまた。
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