5月に米国特許庁(USPTO)で公開されたApple Inc.の特許公報から面白そうなものを紹介してみます。どうやらニーズがありそうなので(笑)。
はじめに断っておきますが、おそらく今回紹介するものは製品化されるとか、そういうものではないと思います。だからこそ、特許戦略がとても不思議で、思考を読みたくなる、そういう話です。
公開番号:US2020/0150785A1
公開日:2020年5月14日
出願日:2020年1月13日
発明者:Steve JOBS(!)
発明の名称:Highly Portable Media Device
ナウでヤングな方にはわからないかもしれませんが、iPod shuffleっていう製品があったんですよ。2005年前半に発売になったオーディオプレイヤーです(第1世代)。
いまとなっては、「え、コードで繋ぐの?」ってなところでしょうか(言い過ぎ)。
さて、もちろん、2005年に製品となった、このiPod shuffleに関する特許は出ています。特許番号US7593782B2です(出願日:2005年8月24日)。
今回、この特許の継続出願として、2020年のいま、さらに特許出願をしてきたというわけです。ここで、基本的なことですが、特許というのは過去に出した技術をそのまま出願しても「新規性がない」として審査で拒絶され、特許権にはなりません。何か新しい技術的要素を入れていないといけないわけですね。
熱烈な林檎マニアの方には申し訳ないですが、正直、iPod shuffle、いや、iPodという製品自体、もう過去の遺物というか、もうiPhoneでよくね?というものじゃないですか(個人の感想です)。
それなのに2020年に継続出願をしてくるとは、どういう意味があるのかなあ、と思うわけですよ。
特許出願をする、ということは端的に言うと、「発明」というモノや方法を、「特許請求の範囲(クレームといいます)」という欄に言葉として書き下して、そのクレームについて独占権を認めてくれ、と行政(特許庁)にお願いする、ということです。
つまり、「要するにどういう発明なのよ」というのはクレームを見ればいいわけです。
今回の特許出願のクレームは全部で16あります。16個全部を日本語訳してここに書くのはしんどいので、興味のある人は英語の勉強と思って全訳していただくことにして、トップクレームである「請求項1」だけみてみます。
1. A method comprising:
at an electronic device including a status indicator and a battery, wherein the electronic device is an audio media peripheral device for a second electronic device with which the electronic device is in communication:
receiving a trigger for providing device status associated with the electronic device; and
in response to receiving the trigger for providing device status associated with the electronic device:
in accordance with a determination that one or more first criteria are satisfied, providing, via the status indicator, a status corresponding to the battery of the electronic device; and
in accordance with a determination that one or more second criteria, different than the first criteria, are satisfied, providing, via the status indicator, a status corresponding to a respective component, other than the battery of the electronic device, associated with the electronic device.
まあ、発明の内容的には、もうどうでもいいというか、しょーもないというか(個人の感想です)、iPod shuffleってもともと、画面はないもののバッテリーの状態をしめしたり、PCとの接続状況をしめしたりするインジケータのLEDが内蔵されているんですね。持ってた人は思い出してみてください。
この請求項1を見る限り、そのインジケータを、iPod shuffle本体のバッテリー状態を示すこと以外に使う、ということを意図しているようですね。例えば接続しているPCのバッテリー状態を示すとか?(いや、そんなわけわからんことしないよな)
技術的には新しいので、特許権にはなるかもしれません。でもiPod shuffleですよ?
え、だから何? って感じですけどね(個人の感想です)。
継続出願っていうのは日本の特許法でいう分割出願みたいなものです。仲間の出願をどんどん増やしていける制度、みたいなもんです。こういった出願は「パテントファミリー」と呼ばれます。
iPod shuffleのパテントファミリーってどのくらいあると思いますか? 10? 100? なんと、448個です。実は448個もの「おんなじような特許」がウジャウジャあるんです。今回はその一つというわけ。
え、なんでそんなことすんの? と思う人がいるかもしれません。実は、アメリカでは継続出願を乱発して、「みかけの特許件数」を増やす、ということはよく行われています。
では、なぜそんなことをするのか(特許出願だってタダじゃないわけですよ)
特許出願を多くすることで、売却するときの総額を上げることが目的です。1個だけ売るより、448個を一気に売るほうが、利益がデカイですよね? まあ、そういうことですよ。
出願をウジャウジャ増やすというセコい手を使って権利売却額を上乗せするなんて、さすがApple、やることがエグい、としか言えませんね。
でも、今の時代、iPod shuffleの特許、欲しい人いるかな?
冒頭でも述べたとおり、この特許出願、発明者(Inventor)にスティーブ・ジョブズの名前があるんですよね。この名前をずっと残したいという意図で継続出願をずっと続けているとしたら、、、そんな馬鹿な、と思うかもしれませんが、こうして出願に起因した公開公報が新しく発行されることによって、Apple創始者であるジョブスを忘れない、という意思表示なのかもしれません(話がキレイすぎるな)。
今回は5月に公開されたAppleのちょっと不思議な特許出願を紹介しました。どういう意図があるのか、いろいろと邪推が止まりませんね。
では、今日はこのへんで。