NewsPicks『熱狂のVTuber』特集記事!
インタビューを受けたのは、ホロライブの谷郷社長、にじさんじの田角社長、キズナアイさん、そして、バーチャルエコノミスト千莉です。
解説動画はこちらです。
https://youtu.be/yIl5VGf-SdM
2021年2月、経済メディア「NewsPicks」にて3回に渡る「熱狂のVTuber」という特集記事が組まれました。
この記事の目的はVTuberに詳しくないビジネスパーソンに向けてVTuber経済の拡大を解説するというものです。
この記事では、最近のVTuberの盛り上がりと今後の成長について、
私バーチャルエコノミスト千莉、「ホロライブ」を運営するカバーCEOの谷郷元昭氏と、「にじさんじ」を運営するいちからCEOの田角陸氏、最古のVTuberキズナアイさんの4人にインタビューした内容を画像でまとめて掲載されています。
第一回 【新】世界中から投げ銭される、日本の「VTuber」が熱い
第二回 【直撃】業界2強が語る「VTuberビジネス」の光と影
第三回 【吠える】キズナアイ、パイオニアの「生き残り戦略」
(NewsPicks 有料記事)
今回は、インタビューの裏話と、記事に入りきらなかった内容について解説していきたいと思います。
是非、記事をお読みいただいてVTuberに興味を持ったビジネスパーソンの方々にご覧いただけると幸いです。
インタビューはzoomで別の日程で行われました。1番バッターは私、バーチャルエコノミスト千莉で、その後、業界の重鎮3人にインタビューが行われました。
面白かったのが、インタビュアーの東さんから、全員のインタビュー後に「千莉さんが言ってた内容がどんどん出てきました!」とご連絡をいただけました。
第一回の記事は、私が話した内容そのままが使われています。時折、私の画像とセリフが挟まっていますが、その部分以外も全て私の解説です。
以下で、記事には入りきらなかったインタビュー内容について解説していきます。
技術力が進歩してモデルの見栄えが良くなったから
VTuberが盛り上がっている要因の1つはモデルの見栄えが良くなったことです。これはイラストレーターの画力、技術の向上。モデリングソフトのアップデート、トラッキングソフトのアップデート、VR機器のアップグレードなどの技術力の進歩によるものでしょう。
2017年,2018年のVTuberと2021年のVTuberを比べると、今のVTuberは可愛いイラストで、可動域が広がり、豊かな表情を取ることができています。
シンプルですが、「見た目の美しさ」という要素は絶対に見逃してはいけないでしょう。
VTuberではありませんが、『鬼滅の刃』の映画が歴代の興行収入の1位になった理由も、アニメ技術の進歩による部分が大きいでしょう。
例えば2000年代の技術では2020年のレベルの精細なアニメイラストと映像表現は不可能なので、ここまでの興行収入は生まれなかったはずです。綺麗な映像だからこそ、一般層にもヒットさせられるのです。
つまり、これからもアニメーションの表現技術は進歩していきますので、VTuberは更に見た目が美しく、精細な動きが可能となり、より多くの層に受け入れられるようになっていくと思われます。
VTuberは容姿が整っているので、ファンの熱狂を生みやすいが、YouTuberだから投げ銭を得られないのは間違い
YouTuberでも投げ銭は集まります。
例えば、ゲームストリーミングサイトのTwitchでは、フォートナイト(Fortnite)のストリーマーであるNickmercsがサブスクのみで年間150万ドル(約1億6500万円)を受け取っています。
https://thedice.com/study-reveals-which-twitch-streamers-earn-the-most-money-from-subs/
つまり、YouTuberと比べて、VTuberのほうがYouTubeでのライブ配信の文化が根付いているため、投げ銭を集めているのです。他の配信プラットフォームでは、必ずしもVTuberが1番投げ銭を集めるわけではありません。
とはいえ、顔にシミやニキビが1つもなく、美白な肌と左右対称で滑らかな髪の毛はVTuberならではの特徴です。社会心理学でいうハロー効果により、VTuber美しい容姿はファンの熱狂を生みやすく、それが投げ銭額の増加に繋がっているのも間違いありません。
応援した分推しが成長していくので、投げ銭の使い道が目に見えて面白い
VTuberはストーリーテリングマーケティングを実践していると言えるでしょう。つまり、出来上がる過程のナラティブ(物語)を売りにしているのです。
人間はストーリーが大好きな生き物で、近年はビジネスの世界でも自社のプロダクトにどうストーリー性を盛り込むかが重視されるようになっています。
ヒットするストーリーの大原則は「主人公が成長していく物語」です。人間の脳は今よりもいい状態になるとドーパミンが分泌され、幸福を感じる性質を持ちます。
地下アイドルが武道館でライブをすることを目的に活動するように、多くのVTuberはより綺麗な衣装で、3Dの自由度の高い体となり活動をすることを目指しています。
私の私見ですが、VTuberは「〇〇万円稼ぐ」よりも「新衣装、新モデルを手に入れる」ほうが遥かに喜びますし、それを目標にしている人が大半です。
誰しも、ぐうたらな人よりは上を目指してがんばる人を応援したいですよね。
VTuberの「3Dモデル化」や「ライブの開催」のためのクラウドファンディングでは、数百万円から数千万円が集まることはもはや珍しくありません。
VTuberは応援によって目に見えて綺麗になっていくことが、応援の楽しさを生んでいます。例えば、かつてにじさんじでは登録者数5万人ごとに新衣装が与えられました。
リアルのアイドルだと、投げ銭で少しいいお化粧を買ったとしても、そこまで容姿は変わらないでしょう。その点でVTuberは優位性を持っています。
言語が分かったほうが嬉しいが、他に見るものがないので仕方がない
VTuberは日本で生まれた文化ですので、日本の独占状態でした。日本のアニメーションが大好きな海外ユーザーは「アニメキャラがYouTubeで話して動いている!?WTF!!」と押し寄せました。
しかし、自国語を話すVTuberが出ればそちらに流れていくと予想されます。
実際に、英語での配信を行うホロライブENのガウルグラさんはデビューして5カ月で登録者数200万人を達成しました。
「海外ユーザーは言葉など分からなくてもずっと日本のVTuberを見てくれる」というのはかなり見通しが甘いでしょう。自国語で話す可愛いVTuberがいれば、そちらに移るのは自然な流れです。
どうユーザーの流出を止めるかが日本のVTuber業界の今後の課題となるでしょう。
規模の違いはタイムラグによるもの。どんどん拡大して日本を超える市場になってもおかしくない
まず、海外の市場はどんどん拡大しています。世界一のYouTuber、ピューディーパイ氏がVRoidのアバターでゲーム実況をしたり、ホロライブENの躍進のように海外への発展が目覚ましいです。
VTuberは日本初の文化ですので、海外への浸透にはタイムラグがあるというのものが正しい認識でしょう。
日本はVTuberになりやすい環境が揃っている
日本と海外でタイムラグが起きている原因は、環境の問題が大きいと思われます。
live2Dを筆頭に日本で生まれた多くのツールに加えて、アニメイラストを描けるイラストレーターが大量に存在する環境によって、日本がVTuber文化の中心となっているのです。
YouTube全体がレッドオーシャンではあるが、VTuberというジャンルはまだまし
「2大事務所が視聴者を独占しているからもう参入余地はない!」というのは少し間違いです。VTuberの視聴者は逆ピラミッド構造で、まず登録者数が多いトップ層のVTuberを見てVTuberのファンになり、徐々にマニアックなVTuberを求めて登録者数が少ない方へと逆走していきます。
VTuberの視聴者層全体が拡大することで個人VTuberを見る層も増えているのです。
ひと昔前よりは遥かに伸びやすい環境になっています。
個人から事務所へ
事務所のオーディションを勝ち抜くには個人での実績が必要です。
何もしなくても優秀な人材が集まるので、育成はしていない
ホロライブでは採用倍率が1200倍になったそうです。
VTuberからVTuberよりは、生主歌い手ASMRからVTuberになる人が多い印象です。
目ぼしい有名人は各事務所に取られつくしているため、スカウト採用は難しいでしょう。
最近は17liveやshowroomなどアプリで実績を残し、youtubeへ進出する流れもあります。
トラブルによる業界の将来のリスクはない
もはや業界の垣根が消失しつつあるため、不祥事は「VTuber業界」の問題ではなく、1企業、1個人の問題と捉えられるでしょう。
海外ストリーマーのV化の例も進んでいます。
VTuber化?海外のゲーム実況者が3Dアバターを使用し話題に
また、インフルエンサーが炎上するのは必然であり、影響力があって炎上を経験していないインフルエンサーなど皆無です。
中の人問題はもう問題ではない
昔はキャラクターになりきっていたが、もはや中の人を隠す時代ではありません。
くまもんやふなっしーのように、中の人がいるのは公然の事実です。
キズナアイの声優さんが顔出しの生配信を行ったり、おめがシスターズが出産報告を行ったりしています。
VTuberの理解が浸透していない海外では、まだVTuberはアニメキャラとして見られているらしいですね。
千莉が考える業界の課題は「VTuberのサポート耐性が整っていないこと」
Vになりたい人、事務所に入りたい人にチャンスがないのが現状です。
需要と供給の不均衡が起きています。VTuberをサポートする事務所は増えてきていますが、小規模であれオーディションを突破するのは困難です。
個人での活動の継続は非常に大変で、結果VTuberは引退、休止が非常に多いです。
これは事務所に入ったら安泰というわけでもなく、事務所にもノウハウがなくVTuberをマネジメントできる人材がいないため、十分なサポートが受けられずVTuberが離脱するケースも多々あります。
業界としては、VTuberの演者のサポート体制を整えるのが急務と言えるでしょう。
裏を返すとそこに大きな需要があるので、ビジネスチャンスが埋まっているとも言えますね。
NewsPicksさんの記事によると、今回私のインタビューを担当していただいた東さんの総括は、「VTuberは思ったよりもレッドオーシャンで簡単そうではない」とのものでした。
これは私も同意です。しかし、今からYouTuberを始めるよりはまだVTuberのほうが競争相手は少ないと思います。
分かりやすい例を挙げると、YouTuberとして「お笑い」をやろうとすると、プロのお笑い芸人と競い合う必要があります。しかし、VTuberとして「お笑い」をやるならばまた違った目線で見られるでしょう。
トークが面白いと言われるアイドルVTuberとお笑い芸人を比較する人はいませんよね。
「では、今からVTuberを始めるのはどうなのか?」という問いには、今からでも十分戦えるというのが私の答えです。
余りにもYouTubeに参入者が増えすぎたために、先に始めた人々の先行者優位が失われつつあり、薄く広いファンを持っている人よりも、コツコツと地道に濃いファンを集めている発信者が生き残る形になっています。
2021年現在は既に多くの登録者を抱えている人から視聴者をもぎ取る戦いになっています。
VTuberの強みは生配信でのファンとの双方向性であり、動画コンテンツ主体の薄く広い視聴者層を抱えているYouTuberを倒しうるのです。
すぐにスーパースターを目指すのではなく、コツコツと地道な活動を続けるならば後発であってもことも十分に戦えるでしょう。