不特定多数の匿名の参加者から構成される中心的な構造物のないシステムは、法的な措置の対象とすることができません。
この特性こそがブロックチェーンが今後社会に影響を及ぼす上でのコアとなる性質です。
決して「政府の検閲に屈しない暗号学的な性質(サイファーパンク)」が革命的なのではなく、現在の法体系でカテゴライズができないままであることが革命的なのだと強調せねばなりません。
例えば、UK Jurisdiction Taskforceが公開している Legal statement on cryptoassets and smart contracts の148項をmirai translateで翻訳したものに手を加えた文章を以下に共有します。
A further example is that of a Decentralized Autonomous Organisation (DAO), whereby the party that deploys the code to set up the DAO may have no intention to participate in it or to enter into any legally binding agreements with anyone—that party is simply deploying a platform, on which others interact in accordance with the “terms” of the smart contract running the DAO.
もう一つの例は、DAOの場合である。コードを配布してDAOを設立した当事者は、それに参加する意図もなければ、法的拘束力のある協定を誰とでも結ぶ意図もないかもしれない。彼がプラットフォームをデプロイし、その他大勢がその上でDAOを実行するスマートコントラクトの「規約」に従って相互作用します。
The question is whether those transacting on the DAO, who may have no bilateral communication at all, can by the fact of their participation be said to have entered into a legally binding contract and, if so, with whom.
問題は、二者間の意思疎通が全くなされていないかもしれないDAO上で取引する人々が、彼らの参加という事実によって、法的拘束力のある契約を結んだと言えるのか、もしそうであれば、誰と契約したのかということである。
Again, while the specific situation is novel, the underlying contractual predicament is not: it maps well on to the well-established concept of an unincorporated association, whereby the association itself has no legal status, but all of the members, because of their membership, are bound by the rules. Each member of the association contracts with the membership as a whole, agreement (objectively) being reached and intention to be bound being evidenced by the member’s decision to join the association with awareness of the rules.
ここでも、特定な状況は目新しいが、根底にある契約上の窮地は、それが法人格のない社団という確立された概念にうまく対応しているということではない。つまり、その協会自体は法的地位を持たないが、会員であることから、すべての会員は規則に拘束されているのである。協会の各会員は会員全体と契約しており、規約を意識して協会に加入するという会員の意思表示により、同意(客観的に)と拘束の意思表示がなされている。
This is so, even if the members do not know the identities of the others. There is no reason why precisely this analysis cannot be used for a DAO: a party who transacts with a DAO can be taken to have agreed to abide by and be legally bound by its terms.
たとえメンバーが他のメンバーの身元を知らなくても、これはそうです。DAOについてこの分析が正確に使用できない理由はありません: DAOと取引する当事者は、その条件に従うことに同意し、法的に拘束されているとみなすことができます。
ということで、スマートコントラクト(DAO)を任意団体のメタファーで解釈を試みつつも、あくまで二者間の契約への合意をスマートコントラクトが手助けしているという表現に留めていて、そこに中心があるかどうか、開発者を法的措置の対象にできるかどうかには踏み込んでいません。一方で、スマートコントラクトが「特定の状況において斬新(the specific situation is novel)」としていたり、匿名の参加者に法的な強制力を及ぼせるかについても曖昧さを残した表現であり、そのままスマートコントラクトの章は終わってしまいます。
ここに、法人としていかにパブリックブロックチェーンと上手く付き合っていくかを考える上でのヒントがあると思いませんか?何も脱法的で反政府的なことをせずとも、ブロックチェーンとスマートコントラクトは世に価値を生み出せるのです。なぜなら、人類がいまだ明文化できていない法学的カテゴリがそこにあり、そしてそれが人々が組織を構築したり資産を移動させる上でのよりよい方法を可能にするのですから。
ただ、注意して欲しいのは、「不特定多数の匿名の参加者から構成される中心的な構造物のないシステム」だからこそUK Jurisdiction Taskforceも曖昧な表現しか公式文書にかけないのであって、特定で有限の参加者からなるシステムは、その限りではないのです。これが、現代のブロックチェーン技術者に求められる「Legal Validity Verification能力」になっていくことでしょう。
誤ったナラティブはときに人の人生を狂わせます。
自分が発信・奨励している内容が、本当に世のためになるのか、常々胸に手を当てて互いに考えて参りましょう。